現地記者の日本人選手ラ・リーガ奮戦記(月2回更新)

ローラーコースターのような11月を経て、評価急上昇の久保 それでも現時点で移籍は考えにくいと判断する根拠

山本美智子

日本代表に招集する意味はあったのか?

ほぼ3日おきに試合をこなすトッププレーヤーにとって代表戦は大きな負担。あくまでも選手ファーストで、長期的な視野に立って招集メンバーを選出してほしい 【Photo by Wang HE/Getty Images】

 実際、国内有数のサッカーオンラインサイト『エスタディオ・デポルティーボ』は、《久保:不必要な摩耗》との見出しを掲げ、重要なバスクダービーを前に久保を代表に招集した日本サッカー協会を非難している。

 バルサ戦を終えた足でインドネシアまで移動した挙句、1分たりともピッチには立たせてもらえず、4日後のアウェー中国戦で84分間プレーした後に、再びおよそ1万キロを移動してソシエダの本拠地サンセバスティアンへと戻ってくる。

 2026年北中米ワールドカップのアジア最終予選で、2位以下を大きく引き離して首位を独走する日本代表が、果たしてこの2連戦に久保を招集する意味がどの程度あったのか。『エスタディオ・デポルティーボ』はそう疑問を投げかけたのだ。

 もちろん、現在のようにほぼ3日おきに試合が組まれるハードスケジュールにあっては、選手たちのコンディションを保つために、怪我を防ぐために、クラブのテクニカルスタッフ、医療スタッフは細心の注意を払っている。手元に置いておけば、体調を見ながら練習内容を微調整することも可能だ。しかし、代表に招集されれば、どんなに疲労が蓄積していようとも、選手側に拒否権はない。

 招集の理由は、試合以外にもあるのかもしれない。メンバーが集まる機会を利用してスポンサー広告の撮影をする、あるいは協会のメディアコンテンツを作成するといったような。一方的にクラブ側の肩を持つわけではないが、現状では選手の負担が増える一方で、そろそろこうした状況に警鐘を鳴らす時期が来ていると思う。選手たちの体調を第一に考え、目の前の試合だけでなく、長期的な視野に立ったメンバー選考を行う度量が、協会側にあって然るべきではないだろうか。

 ただ、そんな外野の不安や疑念を吹き飛ばすように、バスクダービーから4日後、再び久保はELの舞台で極上のパフォーマンスを披露する。

 ここまでリーグフェーズ4戦無敗のアヤックスをホームに迎えたソシエダは、ダービー敗戦の淀んだ空気を一掃する。2-0の完勝劇の立役者となった久保は、今シーズンの彼が好んで使っている言葉、“tirar del carro” (荷車を引くから転じて手綱を取るの意)を有言実行してみせたのだ。67分に右からのクロスでアンデル・バレネチェアの先制ゴールをお膳立てすると、終了間際の87分には単独ドリブルからダメ押しのEL初ゴールもマーク。久保は文句なしでマッチMVPに選出された。

公の場で発した確信犯的なメッセージ

今シーズン限りでリバプールを退団するとも噂されるサラー。その後釜に収まるには、久保本人も自覚するように、ゴールという結果を積み重ねる必要がある 【Photo by John Powell/Liverpool FC via Getty Images】

 まさしくローラーコースターのような起伏に富んだ1カ月だったが、放ったインパクトは強烈。そんな久保に、移籍の噂が再燃するのは当然の流れだった。

 移籍先の筆頭候補と言われるリバプールは、契約違約金(6000万ユーロ=約94億円)をはるかに超える8000万ユーロ(約126億円)という破格のオファーを提示したと報道されている。これは久保の獲得に際して、リバプールがソシエダと交渉する必要すらないことを意味する。契約違約金を満額支払い、久保本人が承諾すれば、すぐにでも彼はリバプールの選手になれるのだ。

 ただし、契約違約金の全額がソシエダの懐に入るわけではない。なぜなら、久保が移籍した場合、その金額の50パーセントは久保がかつて所属していたマドリーに支払われるという条項が、契約に盛り込まれているからだ。

 また一方で、マドリー専門のメディアサイト『デフェンサ・セントラル』は、ここにきてマドリーが再び久保に関心を寄せていると報道(12月2日付)。たったの3000万ユーロ(約47億円)でこの日本人アタッカーを取り返せる可能性を示唆している。いずれにせよ、ソシエダにとってはスター選手を引き抜かれたうえに、設定されている違約金を大きく下回る額しか受け取れないとなれば、あまり旨みがある話とは言えない。

 結論を言えば、現時点での久保の移籍は考えづらい。それは、誰あろう久保自身がソシエダでの活躍にこだわっているからだ。

「選手として転落寸前だった3年前、ここに来ることを決めたのは正しい決断だった。僕はファン、チームメイト、スタッフ、その他クラブに関わるすべての人に深く感謝している。僕はもっと(クラブに)与えられると思うし、みんなも僕にそれを期待してくれるよう望んでいる」

 ELプルゼニ戦の前日会見という公の場を選んでの発言は、「ここを出ていく気はない、このクラブで十分満足している」という確信犯的なメッセージだ。

 一部報道では、今シーズン限りでリバプールを退団すると噂のモハメド・サラーの有力な後釜候補に挙がっているとも伝えられる。しかしながら、今シーズンの両者の成績には圧倒的な差があるのも事実だ。公式戦20試合出場で13得点・11アシストのサラーに対して、久保は19試合出場で4得点・1アシスト(12月3日時点)。なによりもゴールが不足していると自覚する久保が、軽々に移籍を決断するとはどうしても思えないのだ。

 最後に朗報を1つ。故障で長期離脱していたマジョルカの浅野拓磨が、12月3日のバルサ戦(前倒し分のラ・リーガ第19節)で、およそ2カ月半ぶりにメンバー入りを果たした。

 ハコバ・アラサテ監督は、「筋肉系の故障なので慎重を期さなくてはならないし、私が頼りにするのは100パーセントの状態の浅野だ」と話しており、バルサ戦で出番はなかったものの、“ジャガー”完全復活の日は確実に近づいている。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

スペイン在住は四半世紀超え。1998年から通信員として情報発信を始め、スペインサッカーに関する取材、執筆、翻訳の仕事に従事してきた。2002年と06年のW杯、04年と08年のEUROなど国際大会も現地で取材。12年からFCバルセロナの公式サイト、ソーシャルメディアを担当する

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