坂本花織が指摘する高い意識の“相乗効果” NHK杯の表彰台を独占した日本女子3名、それぞれの道程

沢田聡子

昨季に続き、自らのスケート人生を表現する青木のフリー 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

引退も考えた青木が、キスアンドクライで流した涙

 グランプリ(以下GP)シリーズ第4戦・NHK杯(11月8~10日、国立代々木競技場第一体育館)の女子シングルで、日本人選手が表彰台を独占した。表彰台に日本女子が3人並ぶのは、GPシリーズ第2戦・スケートカナダに続く快挙となる。

 NHK杯3位の青木祐奈、2位の千葉百音、1位の坂本花織は、それぞれの道程を歩んで表彰台にたどり着いた。

 青木にとり今大会は、昨季に続き2季連続出場となるNHK杯である。今大会の前日練習後、青木は5位という成績を残した去年のNHK杯について語った。

「去年は本当に引退を考えていたので、最後の国際大会と思って、自分としては本当に“楽しもう”の気持ちだけだった。今回はちょっと去年の結果が良かった分、その自分を超えられたらいいなという目標がある」

 昨季は青木にとり、多くのスケーターが引退を考える大学4年生に進級して迎えたシーズンだった。去年のNHK杯は分岐点だったのかという問いに、青木は「はい、そうですね」と答えた。

「本当に去年のNHK杯で見た景色が忘れられなかったので、それが自分の現役続行の決め手ともなったと思う。すごく思い入れのある大会です」

 青木は中学生の頃、高難度ジャンプの3回転ルッツ+3回転ループを成功させて有名になった。その後思うような成績を挙げられない時期もあったが、青木は常に3回転ルッツ+3回転ループに挑み続けてきた。青木は今大会でもショート・フリーの両方で3回転ルッツ+3回転ループを跳び、回転不足はあったもののいずれも着氷させている。

 フリー後のミックスゾーンで青木は、過去の自分がもし今大会の好成績を知ったとしたらどう思うかという質問を受けた。

「2021年の全日本で最下位だった時は本当にもう隠れたいなというか、誰も見ないでという感じだったのですが…その時もスケートから離れようかと思ってたくさん考えたんですけど、結果こういうふうに戻ってこられて。結果も今までにない結果を出すことができているので、『良く乗り越えたね』と言いたいなと思います」

 青木の今季フリー『Popsical』は、自らのスケート人生を表現した昨季フリー『She』の続編だという。
「去年から(競技を)また続けると決めた覚悟、気持ちの強さみたいなものを表現したい」
 そんな思いがこもったフリーを滑り終えた青木を、観客はスタンディングオベーションで讃えている。キスアンドクライでメダル獲得を知った青木の頬には、大粒の涙が流れた。

 フリー後の青木は、充実感を漂わせていた。

「今日滑っていて、自分としても幸福感というか…この大きな会場で、皆さんが最後のステップ終わったところから、ずっと拍手して下さって。自分が滑っているだけでたくさん拍手をもらえるというのは、本当に現役でしか味わえないなということを、あらためて感じながら滑ることができた」

昨季GPの悔しさを晴らした千葉

優雅な表現で魅了した千葉のフリー 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 昨季は四大陸選手権優勝、世界選手権7位と躍進した千葉だが、シーズン前半のグランプリシリーズでは苦しんだ(スケートアメリカ6位、フランス杯9位)。昨季のフランス杯後、悩まされていた息苦しさの原因が運動誘発性ぜんそくと判明し、治療を開始。全日本選手権では2位に入り、シーズン後半のチャンピオンシップ出場への道が開けた。

 ただ今夏も右足の甲を痛め、追い込んだ練習ができない時期があったという。9月のチャレンジャーシリーズ・ネーベルホルン杯(4位)では納得のいく演技はできなかった。

 前日練習の際、千葉はGP初戦となる今大会に至るまでを振り返った。

「ネーベルホルン杯は、右足のコンディションが悪い中でしっかり追い込み切れずに臨んでしまったところもあり、本番にになってすごく強い不安に駆られたのが一つの敗因だと思う。このNHK杯は、緊張してもそれを感じさせないふるまいや表情を意識すべく、練習からしっかり人にどう見せたいかを考えながら、表現方法を練習してきました。ジャンプももちろん、確率を上げる意識で練習に取り組んできました」

 NHK杯まで約1カ月、仕上げる期間を設けたという千葉は「足も完治して、しっかり自信をつける練習ができた」と胸を張った。「本番、緊張した時に一番味方になってくれるのは、練習してきた自分の姿」というのが千葉の信念だ。

「昨シーズン、(GP)2大会とも納得のいく演技ができなくてとても悔しかったので、今年こそはNHK杯と中国杯で、しっかり自分がやり切ったと思える演技がしたいです」

 ショートでは軽快な『Last dance』をキュートに滑り切り、2位発進。フリーでは優雅な『Ariana Concerto』に乗り、持ち前の伸びやかな滑りで魅了した。ショート・フリーとも大きなミスなくまとめる強さをみせ、銀メダルを獲得した。

 フリー後、千葉は「とりあえず今日は、ノーミスできた自分をほめようと思います」と語ったが、その後は自らの直後に滑った坂本についてのコメントが続いた。自分の強みについて聞かれ、「自分の強みは、スケーティング」と言いかけたものの「本当に今日の坂本花織選手の演技を見て、自分が強みというにはまだまだ足りない部分がたくさんあるなと感じました」と口にした。

「表現も表情も、ジャンプの出来栄えもスピンの出来栄えも、すべてがもっともっとレベルアップしていかなきゃなというふうに感じているので。これから、すべてのエレメンツにおいていい質ができる選手になりたいなと考えています」

「坂本花織選手の演技を今日見て、全体的なスピードとリンクの端から端まで使っているというところが、下の点数(演技構成点)が良く出る理由なのかなというふうに感じているので。自分も演技全体のダイナミックな滑りというのが、もっと出来るようになれればなと思います」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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