坂本花織が指摘する高い意識の“相乗効果” NHK杯の表彰台を独占した日本女子3名、それぞれの道程

沢田聡子

「百音ちゃんを超えられるように」坂本が受けた刺激

ハードなプログラムを滑り切った坂本 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 世界選手権3連覇中の坂本花織は、今季GP初戦のスケートカナダで優勝した。ただ、スケートカナダのフリーではジャンプで2回転倒しており、課題を残していた。

 前日練習の際、坂本は「カナダの時より体の動きもいいと思うので、カナダよりいい演技で終わりたいな、という気持ちは今一番にある」と自信をにじませた。カナダから帰国後、「ひたすら曲かけ」をして追い込んだという。また、ジャンプの軸を作る際に使う左肩のケアを始めたことで、調子が上向いた。

 坂本にとって今季のGPシリーズには、昨季初優勝を果たしたファイナルの連覇もかかっている。

「もちろんファイナルを目指してやりたいので、表彰台は確実に乗りたいという気持ちもあって。そうすることによって自分自身、全日本に向けて勢いに乗っていけるかなと思うので。本当にそうするためにはこのNHK杯が大事なきっかけになるかなと思うので、思う存分滑りたいなと思っています」

 坂本は、ショート・フリーを通じて圧巻の滑りをみせた。ショート『天使の復活/天使の死』では切れ味鋭い滑りでタンゴを表現し、すべての要素で加点を得る完璧な演技を披露して首位発進。フリーでは『All That Jazz』に乗り、ミュージカル『シカゴ』の魅惑的な世界を氷上に繰り広げた。フリーも、ミスは後半に跳んだフリップの回転不足のみという圧倒的な出来栄えだった。

「直前の百音ちゃんの点数は聞こえたので、自分もこれを超えられるように頑張ろうという気持ちで挑みました」

 フリー後のミックスゾーンでそう語った坂本は、GPシリーズ2大会で日本女子が表彰台を独占したことについて問われると、「そう!もうびっくり! こんな嬉しいことないから」と声を弾ませた。さらに、「それを踏まえて、全日本どうですか」と聞かれると「いや、おそろしいです」と坂本らしい率直さで応じた。

「これにプラス、ジュニアの子も入ってくる。多分、今回以上の緊張だと思います」

 坂本は、日本勢の強さの要因についても分析してみせた。

「今一人ひとりが本当に、ジュニアの子も、自分からいろんなことに取り組んでいて。氷上だけじゃなくて陸上でもトレーニングをして、生活をスケートのために捧げている選手が本当に多いので。意識の高い選手達が多くて、『自分も見習わないと』って思う部分がたくさんある。それがいい相乗効果になっていると思うので、このまま続けばいいなと思います」

 メダリスト会見で、「他の2人から一つずつ武器をもらえるなら、どんなものが欲しいか」という質問があった。坂本が挙げたのは、千葉が実践している深いスケーティングと軽快な踊りの両立、青木の表現におけるタメの作り方。千葉は、坂本のスピード感と加点がもらえるジャンプ、青木の「細部まで柔らかく使えるからこその表現力」を挙げた。そして青木は、坂本のスピード感と迫力、千葉のスピンを讃えている。

 各選手がストイックにスケートに向き合う一方で、他選手の長所に刺激を受け、さらに意欲を高めている日本女子。全日本選手権では、美しくも熾烈な戦いが繰り広げられそうだ。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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