U-16日本代表は「FWが点を決める」 2試合16得点、うち14点が“FW”の理由

川端暁彦

前後半で違う顔を見せたU-16日本代表の選手たち 【撮影:佐藤博之】

モンゴルに圧勝したが……

 サッカーの17歳以下世界一を決定するU-17ワールドカップは、最も“若い”世界大会である。そのアジア予選に相当するのが17歳以下のアジアNo.1を決するAFC U17アジアカップ。そのまた予選に当たるAFC U17アジアカップ2025予選が現在開催中だ。

 来年(2025年)に「U-17」となるカテゴリーのため、現在はU-16代表の選手たちが予選突破の枠を争っている。学年で言うと、高校1年生が中心。ただ、日本の学制に準拠する年齢制限ではなく、区切りは1月1日から。このため、早生まれ(1~3月生まれ)の高校2年生にも資格がある。もちろん、下の年齢も参加できるので、今回のU-16日本代表で言えば、2人の中学3年生もメンバー入りしている。

 前回大会のアジア王者でもある日本は、この予選でカタールがホスト国となるグループFに入っており、10月24日にはまずU-16ネパール代表と対戦し、9-2で勝利。さらに26日にはU-16モンゴル代表と戦い、今度は7-0の圧勝を飾った。

 予選ならではの独特の緊張感、慣れない中東の地でのプレーといった要素はあれども、ここまでは実力的に差のある対戦相手との連戦。勝利するのは大前提としつつ、違った目線も持っての戦いとなっている。

「やれることをやって、学ぶべきを学ぶ」

 U-16日本代表を率いる廣山望監督は、今大会のテーマをそんな言葉で表現する。

 現役時代から異色のキャリアを辿ってきた廣山監督は、森山佳郎前監督(現・ベガルタ仙台監督)の下でコーチとして過ごし、その後を継ぐ形でこの年代の代表チームを預かっている。

 そんな指揮官は「FWが点を取れるということを大事にしたい」というこだわりを言い続けている。日本だけでなく世界的にもストライカーが育たなくなった、少なくなったと言われる中で、点取り屋の育成にこだわることを宣言。「ウチはFWが点取るチームでありたい」と重ねて強調してきた。

 今大会もそうした廣山監督の思惑に答える形でFW登録の4選手が揃って結果を出している。

 第1戦では先発のFW谷大地(サガン鳥栖U-18)が4得点、浅田大翔(横浜F・マリノスユース)が3得点、途中出場のFW葛西夢吹(湘南ベルマーレU-18)が1得点を記録。そして第2戦では先発のFW川端彪英(ヴィッセル神戸U-18)が2得点、葛西が1得点、交代出場となった浅田が2得点、谷が1得点をマークした。

 FW以外の得点はDFが1点、オウンゴールが1点あったのみ。「別にFW以外が決めちゃいけないわけじゃないんだけど」と指揮官は苦笑するが、結果として「FWが点を取るチーム」というコンセプトどおりのスコアになっている。

 これにはFW同士の激しい競争関係が作用しているからこそという面もあり、今回はメンバー入りしていないFWを含めて互いにライバル心を持ちながら成長する環境も整っている。

個性豊かなストライカーたち

選手たちを見つめる廣山監督。パラグアイなどでプレーした異色のキャリアを持つ 【撮影:佐藤博之】

 今大会でブレイクしたのは、韓国ソウル出身という異色の経歴を持つ谷だろう。この予選が各年代を通じて初の日本代表入りながら、初戦で4得点を挙げ、第2戦でも交代出場で1得点を突き刺した。

 中学年代は韓国のプロチームの育成組織であるFCソウルU-15でプレー。「生まれも育ちもソウル」(谷)という日本とは異なる環境で、ストライカーとしての技と体、そしてハートを磨いてきた。

 一方で「中1から日本でプレーしたいと思っていた」そうで、中学卒業を前に一念発起して日本行きを決断。当時、日本のユース年代で圧倒的なパフォーマンスを見せていた鳥栖U-18の試合を見て「一番強いチームでやりたい」と来日を果たした。

「母が日本人なので、日本語は母から習っていた」と言うように、言葉によるコミュニケーションは問題なし(漢字は苦手)。文化的な部分を含め、日本行きには少し不安もあったと言うが、「みんな優しくしてくれた」と思っていた以上に早く日本の環境にも融け込めたという。

 184センチの長身を活かしたパワフルなプレーと、「FWはエゴイストでないと」と語るゴールへのどん欲さを前面に出すストライカーは、「このチームにいなかったタイプ」(廣山監督)。鳥栖のスタッフとも連絡を取りながら招集のタイミングを探っていた指揮官は、このセンターFWらしいセンターFWを、予選目前というタイミングでチームに加えた。

 この谷と初戦で前線のコンビを組んだ浅田は、「自分がこのチームを勝たせる」と堂々と語る主軸選手。純粋なFWではなく、ボランチもこなし、幅広いプレーエリアを持つ選手ながら、今年に入って「いまは点にこだわっている」と、ストライカーとしての意識を大きく高めてきた。

 持ち味である大胆なランニングプレーと鋭いドリブル、そして強烈なシュートを武器に大暴れを見せており、チームを引っ張る存在だ。今大会は本来の10番であるエース格のFW吉田湊海(鹿島アントラーズユース)が負傷欠場しているのだが、その不在を感じさせないプレーぶりを見せている。

 一方、第2戦で先発し、決勝点を含む2ゴールを挙げた川端は同じく純粋なセンターFWではない、10番タイプ。「点にはこだわるんですけど、それ以外の仕事もできるのが自分の武器」と自ら語るとおり、テクニカルで柔軟性のある選手だ。

 第2戦でその川端と2トップを形成して強烈な左足シュートで得点も決めた葛西は、前線で体を張りつつ、泥臭くゴールを狙っていくストライカー。この第2戦で腰を痛めて負傷交代になってしまったが、ゴール前で輝く得点感覚を持つ個性派である。

 こうした選手たちに対し、廣山監督は「FWが決めるんだぞ」と焚き付けながら競争を促してきた成果は確実に出ている。

 もちろんFWといえど守備のタスクを課せられ、オトリの動きや相手DFを背負っての仕事も求められるのはこのチームでも変わらない。ただ、同時に「FWは点を取るのが仕事」ということを強調してプライドを持たせ、ゴールを増やすための努力を促してきた。

 ストライカー不足が言われて久しく、「世界大会が終わると、毎回のようにそういう総括になる」(廣山監督)日本サッカーにおいて、ある意味で異色の日本代表を目指している。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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