劇薬注入で中国に完勝の新生オーストラリア 日本との大一番でもその効果は持続するのか?

タカ植松

中国戦では豪快な左足ミドルで逆転ゴールを叩き込み、勝利を引き寄せたグッドウィン。絶好調のエースが、日本との大一番でもキーマンとなるはずだ 【Photo by Santanu Banik/Speed Media/Icon Sportswire via Getty Images】

 2026年北中米ワールドカップの出場権を懸けたアジア最終予選で、1分け1敗とスタートダッシュに失敗したオーストラリアだが、第3節の中国戦に勝利してひと息ついた。この試合から指揮を執ったトニー・ポポヴィッチ新監督は、チームにいかなる変化をもたらしたのか。ブリスベン在住のライター、タカ植松氏がサッカルーズ(オーストラリア代表の愛称)の現状をリポートし、10月15日に迫った大一番、アウェーの日本戦を展望する。

燻っている感が否めなかった新指揮官

 瀕死のサッカルーズが、監督交代という“劇薬”を処方された直後のホームの中国戦に勝利し、北中米ワールドカップ(W杯)の出場権争いになんとか踏みとどまった。

 グループCに組み込まれたアジア最終予選、オーストラリアはその緒戦となる9月シリーズを1分け1敗のまさかの勝ち点1で終えた。これが、グループ内の難敵である日本やサウジアラビア相手の結果であればまだしも、2戦の相手はバーレーン、インドネシアと、いずれも本来であれば勝ち点3を計算したい格下だっただけに、最悪に近いスタートとなった。

 当然、この体たらくを受けて、指揮を執るグラアム・アーノルド監督(当時)への批判の声は高まった。しかし、その批判のほとんどは「どうせ、アーニー(アーノルド監督の愛称)は続投だろう」という諦観に基づいたもので、それ自体が解任騒動などにつながるようなレベルのものではなかった。

 実際、最終予選前半の天王山である日本戦を含む10月シリーズまで、ほとんど間がないタイミングでの監督交代を予想する者はほとんどおらず、なんとか現体制で10月を乗り切った後、チームの再建策を講じるべしというのが大多数の世論だった。

 だからこそ、9月20日のアーノルド監督電撃辞任の報は、大きな驚きを持って受け止められた。当初、そのニュースへの世間的なリアクションは、「確かに監督交代は必要だろうが、このタイミングか?」という懐疑心が先に立つものだったが、驚きも喉元を過ぎれば、関心は自然と後任人事へと移っていった。

 複数のオージー監督と若干名の外国人監督の名が有力候補として取り沙汰されたが、結果的に3日後の9月23日に新監督に任じられたのは、51歳のトニー・ポポヴィッチ。“ポッパ”の愛称で知られる彼は、かつてサンフレッチェ広島でプレーしていたことと、小野伸二が活躍したウェスタン・シドニー・ワンダラーズを監督としてアジア王者に導いたことで、日本でも知られている。

 トルコやギリシャでの短期間の監督経験や、プレミアリーグでのコーチ経験もあるが、基本的にその指導者キャリアはドメスティックなものだ。あのアンジェ・ポステコグルー(現トッテナム監督)が流れを作った、最近のオーストラリア人監督の海外進出の潮流とは一線を画してきたポポヴィッチは、正直、国内で燻(くすぶ)っている感が否めない存在だった。

 そんな状況で訪れた千載一遇のチャンスだけに、本人にしてみれば心中期するものがあるはずだ。何かを変えたいフットボール・オーストラリア(FA/オーストラリアサッカー連盟)と、何かを成し遂げたいポポヴィッチの思惑が一致しての新監督人事。なかなか興味深いものがある。

中国戦で提示された【3-4-3】の新機軸

3-4-3の新機軸で臨んだ中国戦は、20分に先制を許す苦しい展開となるが、終わってみれば3-1の快勝。後半頭からのマクグリー(右)投入が的中した 【Photo by Wu Zhizhao/VCG via Getty Images】

 そうして迎えた10月10日の中国戦。戦前から、お互いにこれ以上負ければ今後の展開がかなり厳しくなるだけに、ガチンコ勝負が予想された。遮二無二立ち向かってくる、ここまで2連敗の手負いの中国から、いかに勝ち点3をもぎ取るか――。そんなポポヴィッチ用兵に誰もが注目していただけに、試合前に発表された先発メンバーの顔ぶれには多くの人々が首をひねったに違いない。

 DFが5人いて、伝統の【4-3-3】にはどうやってもハマらない。さらには、絶対不可侵と思われた守護神のマシュー・ライアン(32歳/ローマ)を外し、地元アデレード出身のジョー・ガウチ(24歳/アストン・ヴィラ)が抜てきされている点も目を引いた。

 果たして、試合開始後のピッチに展開されたのは【3-4-3】の並び。ポポヴィッチ体制での最初の大きな変化が、はっきりと目に見える形で約4万6000人の観衆の前に示された象徴的な瞬間だった。

 システム的には、3バックの前に、アジズ・ベヒッチ(34歳/メルボルン・シティ)、ルイス・ミラー(24歳/ハイバーニアン)という左右のサイドハーフが、2人のセントラルMFとほぼフラットに配され、攻撃時にはさらにポジションを上げるイメージ。前線の3人に関しても、3トップというよりは1トップ+2シャドー的な並びになることのほうが多かった。その意味では【3-2-4-1】という表記もできるだろう。

 新システムで臨んだ試合は、指揮官の思惑に反する形で、中国にワンチャンスを活かされて先制を許す苦しい展開となる。前半のオーストラリアは攻撃面で創造性を欠き、これといった見せ場を作れない。それでも、ピッチ上の選手は慌てなかった。前半終了直前、サッカルーズが誇るエースのクレイグ・グッドウィン(32歳/アル・ワウダ)のセットプレーからミラーがヘッドで叩き込み、同点に追いつく。

 そして、後半の頭から投入されたMFライリー・マクグリー(25歳/ミドルズブラ)が存在感と創造性を発揮し始めると、流れが目に見えて変わった。53分、グッドウィンのゴラッソで勝ち越したサッカルーズは、終了間際にもダメ押しのゴールを奪って3-1と完勝。ホームで貴重な勝ち点3を積み上げた。

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著者プロフィール

1974年福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。中高はボールをうまく足でコントロールできないなら手でというだけの理由でハンドボール部に所属。浪人で上京、草創期のJリーグや代表戦に足しげく通う。一所に落ち着けない20代を駆け抜け、30歳目前にして03年に豪州に渡る。豪州最大の邦字紙・日豪プレスで勤務、サッカー関連記事を担当。07年からはフリーランスとして活動する。日豪プレス連載の「日豪サッカー新時代」は、豪州サッカー愛好者にマニアックな支持を集め、好評を博している

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