劇薬注入で中国に完勝の新生オーストラリア 日本との大一番でもその効果は持続するのか?

タカ植松

選手選考にも独自色を出したポポヴィッチ

ポポヴィッチ新監督のこだわりは、選手選考にも見て取れる。メルボルン・V時代の教え子などそのスタイルをよく知る選手たちが、今後の用兵の肝となりそうだ 【Photo by Zhizhao Wu/Getty Images】

 ここで、サッカルーズの現状の顔ぶれに関して、少し掘り下げておこう。

 6年の長きにわたったアーノルド体制が終わったとはいえ、現代表の屋台骨を支えるのは、アーノルド前監督に発掘されて重用されてきたいわゆる“アーニー・チルドレン”。彼らに代わる新戦力が育ちきれていないなかで、ポポヴィッチ監督がこれまでの戦力をベースに新たなチームを築き上げていくのは当然の話。平たく言えば、オーストラリアには日本のような選手層の厚みがないだけに、メンバーの大幅な入れ替えは、そのまま大幅な戦力ダウンにつながりかねず、そうしたリスクは冒せない。

 非常に限られた準備期間でも、選手選考に独自色を出すことに腐心したポポヴィッチ監督は、代表引退を公にしていた選手への復帰工作も画策。現在、2人しかいないプレミアリーガーの1人、マッシモ・ルオンゴ(32歳/イプスウィッチ・タウン)は、ポステコグルー体制下の象徴的選手だったが、アーノルド体制では代表から遠ざかっていた。

 昨年の一時的な代表復帰後は、所属のイプスウィッチをチャンピオンシップ(英2部)からプレミアリーグに昇格させることに専念するとして代表引退を公言していたが、今回ポポヴィッチ監督の誘いを受け、またイプスウィッチが昇格を果たしたこともあって復帰を快諾(筆者注:その後、ケガで辞退)。さらに、同じく代表引退を公言していた日本のファンにはお馴染みのGKミッチェル・ランゲラック(36歳/名古屋グランパス)にも声を掛けたようだが、こちらは本人が首を縦に振らなかったと聞く。

 一方で、長く指揮を執ったメルボルン・ビクトリーの“子飼い”の選手を思い切って起用したことも特徴の1つ。この流れで代表に選ばれたのが、ニシャン・ヴェルピレイ(23歳/メルボルン・V)。線は細いがスピードと決定力が魅力の快足FWは、大抜擢に代表デビュー戦初ゴール(アディショナルタイムの3点目)で猛アピール。実に8年ぶりの復帰を果たした元J2ジェフユナイテッド千葉のMFジェイソン・ゲリア(31歳/メルボルン・V)も、途中出場から後半を通して安定したプレーを見せるなど、これらポポヴィッチ流をよく理解し、体現できる選手たちが今後の用兵の肝となっていく可能性は十分にあるだろう。

彼我の差はかつてないほど大きいが……

日本との対戦は三笘の2ゴールに屈した22年3月以来。近年は分が悪く、アウェーでは過去に一度も勝ったことがないが、楽な相手に成り下がるつもりはない 【写真は共同】

 中国戦は、「監督交代ブースト」「ホームアドバンテージ」「地力の違い」「相手にとって馴染みのない新システム」など、いくつかの要素が相まっての完勝となったが、10月15日の日本戦はそう簡単にはいくまい。

 数々の好勝負が繰り広げられてきた日豪戦の歴史の中で、現在は彼我の実力差が最も大きいと断言できる状況にある。欧州5大リーグでプレーするサッカルーズの選手は数えるほどだが、逆に日本はそうではない選手のほうが少ないくらいという事実が、何よりも分かりやすい指標だろう。

 だからといって、他の東アジア勢や中東勢とも違うスタイルを持つオーストラリアは、日本にとっても決して簡単な相手ではない。日本が勝利を収めるには、まず何よりも絶好調のグッドウィンと、身長2メートル超えのセンターバック、ハリー・サウター(25歳/シェフィールド・ユナイテッド)という、サッカルーズの2つの重要な得点源をケアしなくてはならない。さらには、中国戦で初お目見えの【3-4-3】の目新しいシステムへの対策も必要になってくるが、当然ながら日本の分析陣もそのあたりは抜かりないだろう。

 オーストラリアにしてみれば、歴然とした実力差がついてしまった現実は直視しつつも、日豪戦となれば実力以上の頑張りを見せてきた過去があり、今回も“楽な相手”に成り下がるつもりはない。

「日本に勝つのは大きなチャレンジだが、同時に大きなチャンスでもある。我々はもっとできる。パフォーマンスをより向上できれば試合にだって勝てる」(ポポヴィッチ監督)

 強気な闘将ポポヴィッチのスタイルがさらに浸透を深めていけば、たとえ一時的だとしても、歯ごたえのあるオーストラリアが埼玉スタジアムのピッチに現れ、日本を苦しめることも大いにあり得るだろう。

 日本が1つだけ絶対に忘れてはならないこと。それは、どんな状況下でも“アンダードック”として相手に向かうときのオージーは、実力以上の力を発揮するというさまざまなスポーツの世界で見せてきた国民的気質だ。日本が“噛ませ犬”ならぬ“噛ませカンガルー”を実力通りにねじ伏せることができれば、W杯出場権獲得への道のりは一気に視界良好となるが、当然オーストラリアもそうはさせまいと死力を尽くすだろう。

 とにかく、10月15日の夜、「日豪戦、かくあるべし」と思わされるような熱戦が展開されることを期待してやまない。

(企画・編集/YOJI-GEN)

2/2ページ

著者プロフィール

1974年福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。中高はボールをうまく足でコントロールできないなら手でというだけの理由でハンドボール部に所属。浪人で上京、草創期のJリーグや代表戦に足しげく通う。一所に落ち着けない20代を駆け抜け、30歳目前にして03年に豪州に渡る。豪州最大の邦字紙・日豪プレスで勤務、サッカー関連記事を担当。07年からはフリーランスとして活動する。日豪プレス連載の「日豪サッカー新時代」は、豪州サッカー愛好者にマニアックな支持を集め、好評を博している

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント