力石政法が決意の世界前哨戦、“天才”阿部麗也は再起戦 粒ぞろいの最強挑戦者決定戦【10月のボクシング注目試合②】

船橋真二郎

「次こそ獲れるという姿を見せる」(石井渡士也)

RE:BOOTジム初のベルトに意欲を示す石井渡士也 【写真:船橋真二郎】

 17日の後楽園ホールで実力拮抗の興味深い一戦は、石井(RE:BOOT/23歳、7勝5KO1敗2分)と池側(角海老宝石/26歳、7勝2KO2分無敗)による日本スーパーバンタム級挑戦者決定戦だろう。両者は2022年10月に対戦。一進一退の末に引き分けに終わった。今回の決着戦で2年の成長が問われることになる。

 一足先に日本王座に挑戦したのが石井。昨年10月、全階級の日本王者の中でも評価の高い長身サウスポーの下町俊貴(グリーンツダ)に肉薄し、終盤にアゴを骨折しながらも初の10ラウンドを最後まで戦い抜く闘志を見せた。が、結果は引き分け。あと一歩、ベルトには手が届かなかった。手術を経て、今年7月に復帰。元ライトフライ級の東洋太平洋王者で、世界戦経験もあるサウスポーのエドワード・ヘノ(比)に4回TKO勝ちしている。

 この先に望むのは下町へのリベンジ。「あと1ラウンド取っていれば、勝ちだった」と初のタイトルマッチで“勝ち切る”ことの大切さを痛感させられた。同じサウスポーで、結果も同じ引き分けの池側に完勝し、「勢いをつけたい」と力を込める。

「見せ場をつくらせずに完封したい。次のタイトルマッチも見据えて、倒す、倒さないではなく、次こそ石井は獲れるという姿を見せないといけないと思ってます」

 キャリアを重ね、またアゴの骨折以外にもケガが多かったという2年を越え、「心に余裕が出てきた」と自身の成長を語る。

 インターハイで準優勝した埼玉・花咲徳栄高卒業後、18歳でプロデビューした当初は「会場を沸かせたい」と気負いが強かった。今は既定のラウンドの中で「終わらせればいい」と大局を見る。スパーリングでも組み立てを大事にするようになった。

 ここ3戦続けてサウスポーが相手で「だから、何? みたいな感じ」と左対策は万全と笑う。それでも、この10月5日に決定戦を制し、WBOアジアパシフィック・スーパーバンタム級新王者となった村田昴(帝拳)を中心にWBC世界バンタム級王者の中谷潤人(M.T)、IBF同級王者の西田凌佑(六島)など、質の高い相手とのスパーリングで感覚を研ぎすませてきた。

 鋭い踏み込みからのダイナミックな攻撃を生かしつつ、「展開を全部、コントロールしたい」と石井。「自分がほしいというより、(射場哲也)会長にあげたい」とジム初のベルトに意欲を示していた。

「どんな形でも絶対に勝つ」(池側純)

「自分の中ではタイトルマッチ」と池側純。どんな形でも絶対に勝つと意気込む 【写真:船橋真二郎】

 石井と引き分けた後、池側は4連勝。日本タイトルに2度挑んだ日本ランカーを下し、フィリピンでも勝利するなど、着実にキャリアを積んできた。

 今年3月中旬から約1ヵ月、先輩の堤聖也(角海老宝石)とオーストラリアで武居由樹(大橋)との防衛戦を控えた当時WBO世界バンタム級王者のジェーソン・モロニー(豪)のスパーリングパートナーを務めた。6月末からは約2週間、フィリピンで単身、中谷潤人に挑戦したビンセント・アストロラビオ(比)とも手合わせした。

「この2年で海外に行ったり、いい経験をさせてもらって、それが自信にもなってるんで。試合が楽しみです」

 カウンターを得意とする技巧派タイプ。石井に勝ち切れなかった理由を「後半、いいパンチをもらって、熱くなり、相手の土俵で打ち合ってしまった」と分析する。自身の良さを再確認するとともに冷静な戦いを心がけてきた。一方で、この2年でインサイドの攻防にも磨きをかけ、「どっちになっても準備はできている」と自信を示す。

 4月の前戦から経験豊富な阿部弘幸トレーナーと組んだが、オーストラリアから帰国したのは試合の直前。今回はマンツーマンの練習で意志疎通を図り、コンビもフィットしてきた。石井に近い身長の低いパートナーを求め、帝拳ジム、ワタナベジム、横浜光ジムで精力的に出稽古を重ね、「緊張感のあるスパーができている」と手応えを語る。

 興國高から進んだ大阪商大では、主将を務めた4年時の関西学生リーグ優勝に貢献。個人では2度、国体3位の成績を残した。関西でプロになる道もあったが「東京に出て、強い人たちの中で揉まれたほうが強くなる」と上京を決めた。

 プロテスト、デビュー戦が同日ながら、すでに日本フライ級王者となった飯村樹輝弥を始め、日本ランカーの中井龍、富岡樹、「(同門の)同い年には負けられない」と刺激し合い、高め合ってきた。

「自分の中ではタイトルマッチ。2年前はドローで、お互い負けられないし、今までとは気持ちの入りが全然違う。どんな形でもいいから絶対に勝ちます」

再び世界を目指す阿部の意気込み

今年3月のアメリカでの世界初挑戦から再起する阿部麗也 【写真:船橋真二郎】

 18日の後楽園ホールでは“天才”阿部麗也(KG大和/31歳、25勝10KO4敗1分)が再起する。今年3月、アメリカ・ニューヨーク州ベローナで当時のIBF世界フェザー級王者、ルイス・アルベルト・ロペス(米)の前に8回TKOで敗れた世界初挑戦以来のリングに上がる。

「ここからは負けは許されない。ほんとの崖っぷち、もう後がないという心境ですね」

 表情を引き締めた阿部は「1戦1戦、決められた試合をクリアして、再浮上しますよ」と決意を語った。

 再起戦の相手は川本響生(吉祥寺鉄拳8/21歳、7勝3KO1敗)。A級昇格2戦目の新鋭である。アマチュア戦績こそ3勝2敗だが、U-15全国大会出場、全日本アンダージュニア大会優勝経験があり、コロナ禍前年の2019年、宮崎・日章学園高1年時にインターハイに出場し、3回戦で現・日本ライトフライ1位の高見亨介(帝拳)に敗れている(高見が優勝)。

 阿部が「今の知名度、立ち位置以上の曲者」と評するように、やや変則で身体能力が高く、技術もある。もちろん実績、経験ともに阿部とは大きな開きがあり、「勝って、当たり前」と見られるからこそ、「油断できない」と気を引き締めている。

 やるからには再び世界の舞台を目指す。スピード、カウンターが武器のサウスポーは攻撃的な姿勢、パワーなど、これまでプラスアルファとして取り組んできたものを前面に出し、上への道を切り拓くためにも「アピールする勝ち方」を自らに課す。

「ただ勝つだけじゃなく、圧倒して勝つ。阿部はまだ終わってねえぞ、というところを見せてやろうと思います」

 阿部の再起戦を含むイベントの模様は「U-NEXT」でライブ配信される。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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