世界女王・坂本花織、悪女を演じるフリー『シカゴ』 “CHANGE”しながら、五輪に“つなげる”今季に臨む

沢田聡子

五輪へ「つなげる」ことも目標

「自分と戦いたい」と語った坂本 【写真は共同】

 さらに坂本は、表現面でも「CHANGE」を試みている。ショート(ロヒーン・ワード氏振付)では、競技プログラムでは初というタンゴ『Resurreccion del Angel/La muerte del Angel』を選曲。また前述のフリー『All That Jazz』では、昨季のフリーでトライしたミステリアスな女性に続き、悪女を演じる。

 ただ、記者会見後の囲み取材では、坂本は“CHANGE”だけではなく“つなげる”ことも大切にする姿勢をみせた。

「あのボードには“CHANGE”だけ書いたんですけど、やっぱり自分自身“つなげる”というのも目標にはあって。やっぱりオリンピックシーズンに向けて、つながるようなシーズンにしたいと思っているので。チェンジだけじゃなくて、チェンジもあって、でもそれを踏まえていろんな経験をして、何ができて何ができなかったか、自分で自分のことを知る。知ってそれを次に生かしてつなげるという意味でも、『チェンジだけじゃない』というのは言いたいです」

 カミラ・ワリエワ(ロシアオリンピック委員会)のドーピング違反により延期されていた北京五輪・団体のメダル授与式は、パリ五輪中の8月7日、パリ・トロカデロ広場で行われた。ようやく団体の銀メダルを手にした坂本は、「2年半待ってやっとこのメダルをいただけて、もらった瞬間に『やっぱりもう一度、ミラノでメダルをとりたい』という気持ちが増した」と意欲をみせた。

「その後イタリアで合宿をしたんですけど、その時にペア・りくりゅうの2人(三浦璃来/木原龍一)、(鍵山)優真くんと、『また、みんなでメダルとりたいね』という話もしたので、是非狙いたいと思っています」

 北京五輪の個人・団体でメダルを獲得した自信、そしてそこから湧き上がる意欲も、坂本の強さを支える大きな要素なのだ。

 記者会見で、今季意識する選手を問われた坂本は「“自分”です」と答えた。

「とにかく今は、自分自身に勝つ。もちろん他の選手も意識するんですけど、意識すればするほど、やっぱり不必要な欲が出てきてしまう。『この人に勝ちたい』とか『何点出して勝ちたい』と思ってしまうと、なかなかそれに近づけなかったり、それよりもかけ離れたり、ということもあるし。

 今シーズンは多分、自分を知る機会が多いかなと思う。『自分には何ができて、何ができないか』というのを思い知るのもすごくいいかなと思うので、とにかく自分と戦いたいです」

 長年にわたりエッジエラー判定に悩まされてきたルッツ、初めてのタンゴ、本人の性格とは真逆の悪女像。今季の坂本は“苦手”や“初”に挑むことで、自らを磨こうとしている。

「今季は(五輪)プレシーズンということで、今季まではまだまだチャレンジできるし、いろんなことにも取り組めると思うので。オリンピックシーズンに向けて選択肢を増やすことによって、またオリンピックシーズンでもいろいろな自分を見せられるのかなと。しっかり今季までできる経験をたくさんして、次につながるようなシーズンにしたいなと思っています」

 ミラノ五輪を見据える世界女王・坂本は、自らの物語をハッピーにするべく、今季に臨む。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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