川崎F&横浜FM時代は終焉なのか 両チームの低迷の理由、そして復権のカギは?
ピンチが失点に直結している状態
横浜FMはハッチンソン暫定監督がその座に就いてから、アタッキングフットボール復活の兆しも。第28節のC大阪戦は今シーズン最多タイの4ゴールで快勝した 【(c)J.LEAGUE】
今季の失点は横浜FMが50、川崎Fが44。30試合を消化した時点で優勝したシーズンよりはるかに多いのだ。ボールを保持して相手を圧倒すれば、相手の攻撃機会を奪うことになるわけで、彼らの場合は失点数と守備の堅さが必ずしも一致しないのだが、今季に関しては両チームともピンチが失点に直結してしまっている状態だ。
ともに直近5試合の2勝3敗という結果を見ても、今なお苦しい戦いが続いていることが分かるが、下降の一途をたどっているかというと、そうではない。
川崎Fは魅力的なパスサッカーを展開できず、マルシーニョのスピードを頼ったカウンターに終始する時期もあったが、「このチームは時間はかかるけど、しっかりと積み上げられる」と感じた鬼木監督の粘り強い指導によって、相手を押し込んだ状態でパスをつなぎながら攻撃を繰り出す時間が増えていった。
さらにファン・サポーターから“キング”とも称される大島僚太が約1年ぶりに復帰すると、持ち味の技術と視野の広さで攻撃をコントロールし、チームの攻撃の精度を高めた。また、ファンウェルメスケルケンや三浦、夏に加入した河原創も力を発揮し、序盤と比べてチーム力を上げている。
横浜FMはコーチのジョン・ハッチンソンが7月16日に暫定監督に就任。キューウェル前監督と同じくポステコグルー監督から指導哲学を学んだ暫定監督の下、アタッキングフットボール復活の兆しが表れている。
左サイドバックでプレーする加藤聖が「サイドバックの立ち位置が自由になったことで斜めのパスを刺せる位置を取れるようになった」と言えば、ポステコグルー監督時代を知る天野純は「空いたスペースに誰でもいいから入っていく」と変化を説明。サイドバックが内側に絞ったり、ダブルボランチに変更したことで中盤が安定したり、少ないタッチで連動した攻撃を繰り出したりするなど、かつての特長が随所に見られるようになった。
直近のリーグ戦では川崎Fは名古屋グランパスに0-2、横浜FMはサンフレッチェ広島に2-6と敗戦を喫した。両チームとも完全に崩されたり、集中力を欠いたりするなどして失点を重ねてしまったが、川崎Fはゲーム序盤に名古屋を圧倒。横浜FMはゲーム立ち上がりに一気にゴールに向かう姿勢を見せ、攻撃の形は“雰囲気”を漂わせていた。
特に世代間のコミュニケーションが重要
川崎Fで今シーズン成長したひとりが佐々木。最近はセンターバックでの起用が増えている24歳の飛躍の陰にはキャプテン脇坂の存在が 【(c)J.LEAGUE】
横浜FMの19年、22年の優勝を知る31歳の松原健は言う。
「19年、22年のベースを知る選手が減ってきたけど、世代が変わっていくのは当たり前のことで、そのなかで上の選手が下に伝えていかなければいけない。『俺たちはこうやってきたからもっとこうしていこう』ということを練習からもっと出さないといけないし、伝えていく人数が減っていくと伝え方として難しさも出てくるから、もっとプッシュしないといけない。(水沼)宏太くんやキー坊(喜田拓也)、シン(畠中槙之輔)もそうだけど、知っている選手たちがもっとリーダーシップをとっていく。それを見て後輩たちが何かを感じてくれたらいいなと思う」
こう話す松原はまだ20代半ばだったころ、思うように出場機会を得られないなどうまくいかないときに愚痴を言い、矢印を外に向けがちなタイプだった。しかし、大津祐樹など出場機会を得られずとも全力でトレーニングに励み、チームにポジティブな声かけをするベテランに感銘を受け、自身に矢印を向けることでポジションを奪い返し、19年のリーグ優勝に大きく貢献した。
川崎Fも同じだ。1年近くの離脱期間を経て復帰した大島は「問題を解決するのはみんなでやることなので、僕のひと言が答えになるものでもない」と話しつつも、「みんなと積極的にコミュニケーションを取っていきたい」と、ピッチ上で『今、何をすべきか』を周囲の選手たちに伝えている。
鬼木監督は言う。
「自分たちがこのクラブをどうしていきたいのかとか、自分たちがどういう選手になっていきたいのかとか、それがエネルギーになると思うし、新しいフロンターレを作っていくというのは、そういうところだと思っている」
さらに、「シーズン序盤から、若手や中堅選手には『周りともう少しコミュニケーションを取るように』という話をしてきたが、今までよりも周りに声をかけている姿が見られるようになった」とも。
たとえば、サイドバックを本職としながらセンターバックとしても急成長中の佐々木旭が「成長はあの人のおかげ」と感謝するのが、脇坂泰斗。Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsuに設置されたバンディエラゲートの銅像のモデルになっている中村憲剛氏の14番を継承し、今年からキャプテンを務める脇坂は、時に厳しく、チームメイトにフロンターレのサッカーや勝負へのこだわりを伝えている。
リーグでは苦戦する両者だが、川崎Fはルヴァンカップで準決勝まで勝ち進み、横浜FMはルヴァンカップに加えて天皇杯でタイトルを獲得する可能性が残されている。さらに、両チームとも9月に開幕したAFCチャンピオンズリーグエリートに参戦中だ。いずれかのコンペティションでタイトルをつかめれば、復権への足がかりとなることだろう。
世界的な選手のアスリート化(技術よりも強度)、J1の非ポゼッション型(強度の高いプレスと速い攻撃)の優位性など、逆風もある。それでも流れに抗い、自分たちのサッカーが魅力的かつ至高だと信じて戦おうとしている。そもそも彼らはトレンドには関係なく独自のサッカーで王者となった。時が変われば不可能だということはないはずだ。
<企画・編集/YOJI-GEN>