全世代を「侍ジャパン」のもとに、ひとつに――行動でけん引する監督・井端弘和が見据える、球界の未来
2023年に行われたアジアプロ野球チャンピオンシップを制し、胴上げされる井端弘和監督 【写真は共同】
20日の朝、大会優勝のお祝いとともに「神宮大会で待っています」とLINEをしたところ、すぐに「今から向かいます」という返信があり、本当に球場に姿を現したのだ。若手中心とはいえ、トップチームの監督が、国際大会が終わった翌日にアマチュアの大会に視察するというのは異例のことだろう。
もう一つ驚かされたのが今年7月のことだ。井端から愛知県立高蔵寺高校のエースである芹澤大地(2年)について、プレーを見てきたというLINEが届いたのだ。芹澤はまだ全国的には有名な選手ではないが、NPBスカウトの間では今年3年生でも支配下指名されるレベルと評判になっているサウスポーである。
わざわざ足を運んだのではなく、名古屋での所用のついでとのことだったが、それでも自ら足を運んで逸材を発掘しようというのはなかなかできるものではない。それだけ井端のフットワークの軽さを表すエピソードと言える。
大学生をトップチームに召集
今年3月に行われた日本対欧州代表。前日の練習で源田壮亮(西武)とともにノックを受けた、明治大学の宗山塁(右)。5球団競合の末、楽天が交渉権を獲得した逸材だ 【写真は共同】
それから2カ月後の今年2月14日には、3月に開催された欧州代表との強化試合のメンバーが発表された。そこには、宮城大弥(オリックス)、近藤健介(ソフトバンク)といった現役のプロ野球選手に混じって、金丸夢斗(関西大)、中村優斗(愛知工業大)、宗山塁(明治大)、西川史礁(青山学院大)という4人の大学生が名を連ねていたのだ。過去にもトップチームの強化試合にアマチュア選手が招集されることもあったが、4年生の春のこの時期に4人もの選手が選ばれたのは、これまでになかったことである。
しかし、大学生をトップチームに招集するというのは、決して簡単なことではない。他の代表メンバーは当然プロの一軍でプレーしており、かけ離れたレベルの選手が混ざれば、チームの士気にも悪い影響を及ぼしかねない。それを防ぐためにも、自らの目でしっかり視察しておきたいという気持ちがあったようだ。
今年3月6日に行われた欧州代表との試合に途中出場し、2打数2安打1打点。紅林弘太郎、山下舜平大(ともにオリックス)に囲まれてヒーローインタビューを受けた、青山学院大学の西川史礁(中央) 【写真は共同】
さらに、トップチームに大学生を実際に招集するうえで大変なのは、関係各所との調整だ。日本の野球界は統一した組織がなく、以前よりも緩和されてきているものの、プロと学生選手が交流することに対するハードルは決して低くはない。
今回の大学生の招集についても、トップチームを管轄しているNPBから大学野球連盟に申請を行い、さらに井端自身も各大学へ訪問していたという。プロの選手だけでチームを構成するのであれば当然このような業務は必要ないが、それでも大学生を招集したというのは、今後のトップチーム、ならびに日本球界にとって若い力が重要だという井端の考えがあったからだ。
そして、このような動きは一朝一夕でできることではない。前編でも井端が引退後に社会人野球やジュニア世代などの指導にかかわってきたことを紹介したが、高校や大学の現場にも積極的に顔を出し、あらゆるカテゴリーの関係者と繋がりがあったことも、大きな強みだったと言えるだろう。