車いすラグビー、鬼門の準決勝突破なるか 久下真以子が語る金メダルへの鍵と家族愛

C-NAPS編集部

準決勝進出を果たして声援に応える(左から)池崎、羽賀、草場ら日本のメンバー。金メダル獲得に向け鬼門となる準決勝をどう戦うのか 【写真は共同】

 8月31日(日本時間9月1日)、パリパラリンピック・車いすラグビーの1次リーグ第3戦が行われ、日本(世界ランキング3位)はカナダ(同5位)を50-46で破り3連勝。悲願の金メダル獲得に向けて、無傷でベスト4入りを果たした。9月1日に行われる準決勝では、オーストラリア(同2位)と対戦する。

 リオデジャネイロ、東京と2大会連続で銅メダルを獲得した日本にとって、頂点を極めるうえで“鬼門”となるのが準決勝だ。表彰台の頂を期待された前回の東京大会では、格下と思われていた英国に敗戦。英国は準決勝で日本を撃破した勢いそのままに、初となる金メダルに輝いた。初のパラリンピック制覇への挑戦権を得るためにも、準決勝は日本が乗り越えなければならない壁となっている。

 日本が鬼門突破を果たすうえでは何がポイントになるのか。日本のキーパーソンや戦術面、チーム力などを「日本一パラを語れるアナウンサー」をキャッチコピーにし、さらにパリパラリンピックに出場する羽賀理之選手の妻でもある久下真以子さんに聞いた。アスリートを支える妻として、「夫婦を1つのユニットとして考えること」の秘訣についても語ってもらった。

“全員ラグビー”を体現する今の日本は紛れもない優勝候補

キャプテンの池(中央)を中心とした今大会のチームは、史上最強の呼び声が高い。2024年の戦績は、パラリンピック1次リーグ終了時点で21戦19勝と勝率は驚異の9割だ 【写真は共同】

 今大会は8年ぶりの有観客のパラリンピックだったので、会場の熱気に飲み込まれないかを心配していました。パラスポーツの普段の試合は満員になることも少ないですから。ただ、そこにのまれることもなく、日本から駆けつけた大応援団の声援を力にして1次リーグを3連勝でしっかり勝ち切ってくれました。地元のフランスや他の国の方々も日本の車いすラグビーを応援してくれる雰囲気があり、後押ししてくれました。そういう意味でも素晴らしい雰囲気の中で試合ができています。

 日本は尻上がりに調子を上げていくチームなので、初戦のドイツ戦(55-44で日本の勝利)は少し硬い印象がありました。東京大会でも初戦のフランス戦でビハインドを負った展開から逆転勝ちを収めましたが、今大会も序盤はミスが多く、「やはり立ち上がりが弱いな」と感じました。「今の調子で米国戦やカナダ戦は大丈夫か?」という声もありましたが、調子を上げてきて結果を出しましたね。

 特に第2戦の米国戦は、金メダルを争う可能性のあるライバルを直接倒せたことに価値があると思います。米国にはサラ・アダム選手という2.5点のすごく速い女性選手(車いすラグビーは、コート上4人の合計点が8点以内となるようにチームを編成する「ポイント制度」が採用されている)がいてすごく手強かったですね。ただ、日本はそういう速い選手にしっかり対応し、攻撃を停滞させてタイムアウトを使わせるなど、ボディブローを浴びせるかのようにじわじわと粘り強い戦いができました。接戦でしたが、最後に突き放すことができたのは収穫でした。

 第3戦のカナダ戦も勝利して、尻上がりに調子は上げていると思います。東京大会の時も1次リーグは3連勝でしたが、準決勝で敗れて3位決定戦に回りました。ただ、今大会は「“金メダルを獲ってほしい”ではなくて、“金メダルを獲るだろう”」と思っています。

 2024年はここまで、21戦19勝で勝率9割ですし、橋本勝也選手、小川仁士選手、中町俊耶選手ら若手が成長しました。選手層も充実していて、それぞれが自分の力を発揮しないとチーム内競争を勝ち抜けないのがチームの現状です。岸光太郎監督が掲げる“全員ラグビー”を体現していて、多くの選手を起用して総合力で戦えています。ドイツ戦とカナダ戦では、すべての選手に出場機会がありました。状況に合わせてラインナップを変えていける戦術の柔軟性がありますし、交代選手がまた質の高いプレーができるのは強みです。

 カナダ戦では私の夫でもある羽賀理之選手を、ワンポイントブロッカーのような起用をしていました。出場機会が少ない選手もここぞという場面で切り札的に起用できるカードの多さも日本の強さを象徴していると思います。以前までは第2戦で倒した米国や準決勝で対戦するオーストラリアは格上でしたが、今は力を出し切れば勝てる相手になりました。

 車いすラグビーは攻撃の9割が成功してトライに結びつくスポーツです。言い換えると、“1割のミスが負けにつながるスポーツ”でもあります。試合中に4回使えるタイムアウトや相手をいなして時間を有効に使う戦い方などを駆使して、冷静にミスを少なくして戦ってほしいです。そうすれば日本は紛れもない優勝候補ですし、3度目の正直としてさすがに今大会は金メダルを獲ってもらいたいというのが、本音です(笑)

優勝のキーパーソンは攻守の要に成長した橋本

圧倒的なスピードで相手守備網を切り裂く橋本(右)。攻撃面はもちろんだが、守備での貢献度や攻守の切り替えも早く、まさになくてはならない存在だ 【写真は共同】

 日本が金メダルを獲得するうえでのキーパーソンを挙げるとしたら、やはり橋本選手ですね。チームメイトからも「橋本の存在がなくては勝てない」と言わしめるほど、チーム内での存在感を高めてきました。東京大会の際、金メダルの夢が潰えて他の選手が泣いていたところ、橋本選手は「自分のプレー時間の少なさ」を理由に泣いていました。そういう負けず嫌いな一面が彼を今のスター選手の立ち位置に押し上げてくれたのだと思います。

 橋本選手の特徴としては、なんと言ってもスピードです。チームの司令塔である池透暢選手からの配球がつぶされるシーンでも、橋本選手が走り勝ってくれることで点数をもぎ取れるのは日本にとっての大きな武器となっています。もはや“世界No.1のスピードスター”に成長したと言っても過言ではないですね。また、攻撃だけでなく、守備のトランジションの早さや守備貢献も絶大です。一人でボールを奪い、一人で突破して、トライやラストパスなど決定的な仕事ができる――。そんなスーパーな存在です。

 日本には3.0点の池選手、池崎大輔選手、島川慎一選手に加え、3.5点の橋本選手と4人のハイポインター(障がいの程度が低く攻撃的な選手)がそろっています。その中で3.5点の橋本選手が台頭してきたことでチーム編成の組み合わせのバリエーションも多彩になりました。具体的には、日本のチーム編成は「3点、3点、1点、1点」や「3点、3点、1.5点、0.5点」とかが多かったのですが、橋本選手がいることで「3.5点、3点、1点、0.5点」など橋本選手を起用する組み合わせのプレータイムが増えました。プレー的にも、戦術的にもキーパーソンであることは間違いありません。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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