ブレイキン初代女王AMI“夢見心地な金” テレビ解説のKENTARAWは五輪初舞台に感動&熱狂

田中凌平

ブレイキン女子で優勝し、見事に初代女王に輝いたAMI。日本のB-GIRLの強さを世界に示した 【写真は共同】

 パリ五輪で唯一、五輪初採用の競技となったブレイキン女子の予選と決勝が、現地時間8月9日に行われた。日本勢は湯浅亜実(ダンサー名:AMI、以下同/Good Foot Crew)と福島あゆみ(AYUMI/Body Carnival)が出場し、AMIが記念すべきブレイキン初代女王に輝き、金メダルを獲得。AYUMIは惜しくも準々決勝でインディア・サルジュー(INDIA/オランダ)に敗れた。

 AMIは予選から安定したムーブを見せ、アンティライ・サンドリニ(ANTI/イタリア)、ファティマザフラ・マムニ(ELMAMOUNY/モロッコ)、曽瑩瑩(YING ZI/中国)らを2-0のスコアで圧倒。準々決勝ではシア・デンベレ(SYSSY/フランス)を3-0、準決勝ではINDIAに2-1、決勝でドミニカ・バネビッチ(NICKA/リトアニア)を3-0で下し、他のB-GIRLを寄せつけない強さで頂点まで駆け上がった。

 五輪初採用で日本人B-GIRLが金メダルを獲得したことにより、さらに注目度が高まっているブレイキン。2015年から前人未到の世界大会3連覇を果たした「THE FLOORRIORZ」のクルーであり、日本ダンススポーツ連盟 ブレイクダンス本部事務局長の白井健太朗さん(KENTARAW)にブレイキン女子の戦いを振り返ってもらった。

圧倒的な“実力”と“バトル勘”でつかんだ初代女王の座

AMIは実力もさることながら、必要なタイミングで繰り出す技を即興で判断する“バトル勘”に優れている 【写真は共同】

 初の五輪ということで、AMI選手も「緊張して動きが硬くなるのかな」と思っていましたが、その心配はなく、最初から伸び伸びとバトルをしていて、いつもの安定感で優勝を勝ち取ってくれました。バトル後に「決勝で出す予定だったムーブを準決勝で出した」と言っていましたが、これまでの経験から勝負どころで即興で仕掛けられる“バトル勘”がうまく働きましたね。

 また、パリ五輪ではAMI選手の強いところがよく表れていました。床に手をついて足さばきを行う「フットワーク」では、時計回りか反時計回りでそれぞれの選手で得意な方向が異なりますが、AMI選手はどちらの方向でも上手に回ります。流れが自然すぎてどこで技が切り替わったのか分からず、見ているうちにどんどん引き込まれてしまいましたね。アクロバティックな動きの「パワームーブ」と、ピタッと止まる「フリーズ」でも強い技を見せていました。

 AMI選手が金メダルを獲ったことで、「日本には強いB-GIRLがいるんだ」と多くの人に知っていただけたと思います。AMI選手の「私たちはカルチャーを愛して、このまま踊り続けるだけ」という言葉が響いた人もいるでしょう。今回の五輪でブレイキンに興味を持ってくださった人を、どんどん巻き込んでいく動きができたらいいですね。

AYUMIも大舞台で胸を張れるムーブを披露

準々決勝でINDIA(左)に敗れたAYUMIだったが、そのムーブは自らの持ち味を存分に発揮できていた 【写真は共同】

 AYUMI選手は準々決勝で敗退してしまいましたが、パフォーマンスは申し分なかったと思います。今大会のジャッジが少しパワームーブやスピードの部分を重視していた面があり、AYUMIさんは小さいオリジナリティのある動きを手数多く出していくスタイルなので、ジャッジのポイントとAYUMI選手の特徴がうまくフィットしませんでしたね。しかし、私の感覚ではAYUMI選手の良さが出ていて、まったく勝っていてもおかしくないムーブでした。

 今回のジャッジは「技術性」「多様性」「完成度」「音楽性」「独創性」の5つの項目で、それぞれ20%を各選手に振り分けて勝敗が決まります。例えば「技術性」においてINDIA選手がパワームーブでキレがあるから15%を獲得すると、他の4項目でAYUMI選手が11%ずつ獲得して2%ずつ上回っていても、トータルでは51:49で負けてしまいます。もちろん人によって感じ方やパーセンテージの振り幅が異なるので、ジャッジ基準は非常に難しいものです。

 カルチャーのブレイキンが今回のようにダンススポーツとして勝敗を審査するためには、ある程度基準を明確化したほうがいい反面、各ダンサーによる自由な表現によって個性を伸ばして勝つことも必要だと感じています。“表現の自由さ”はブレイキンの素晴らしいところなので、“明確な基準”とのバランスをとるのは難しいですね。ブレイキンを知っている人たちはこの難しさを知っているからこそ、今回のパリ五輪を無事に終えられて「よく成功させてくれた!」と感じています。

1/2ページ

著者プロフィール

東京都出身。フリーライター。ラグジュアリーブランドでの5年間の接客経験と英語力を活かし、数多くの著名人や海外アスリートに取材を行う。野球とゴルフを中心にスポーツ領域を幅広く対応。明治大学在学中にはプロゴルフトーナメントの運営に携わり、海外の有名選手もサポートしてきた。野球では国内のみならず、MLBの注目選手を観るために現地へ赴くことも。大学の短期留学中に教授からの指示を守らず、ヤンキー・スタジアムにイチローを観に行って怒られたのはいい思い出。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント