17歳の銀メダルクライマー安楽宙斗が振り返るパリ五輪 今明かす成長プロセスと、広がる高校卒業後の夢

大島和人

「意外に行けるぞ」と思ったW杯デビュー戦

彼はクライマーとしてまだ「伸び盛り」だ 【写真は共同】

――安楽選手がクライミングを始めたのは小学2年生と記事で読みました。

安楽 施設が近くにあって、父と一緒に行きました。登るのがもう本当に楽しくて、気が済むまで登る状態でした。他の競技の人も、最初は何も考えずにやっていて「いつの間にか強くなっていた」人が多いと思うんです。

――小学生のころから大会はあったんですか?

安楽 小学2年生の6、7月ごろに始めて、3月くらいには初めての大会に出ました。「THE NORTH FACE CUP」という、非公式ですけど全国の強い人が出てくる大会で、U-8、U-10から大人までカテゴリ分けがされていました。最初は7位でしたね。父もそれで「けっこう強いぞ」と思ったらしくて、3、4年生のころは草コンペと言って、民営のジムがやっている大会に出まくっていました。

――「やらされている」のでなく、自発的に楽しくやっていた感じですね。

安楽 そういう時期もちょっとありましたけど、小学校の3年から5年ぐらいのころは、勝つためとかでなくて「楽しいからやりたい」感じでした。

――ワールドカップ(W杯)への初出場が2023年です。タイミング的にはどうだったのですか?

安楽 16歳で出たので、かなり早いと思います。そのときは最低年齢が15歳からで。今年から17歳に引き上がりました。

――出る前から「やれるぞ」という感じだったのですか? それともいざ出場して「意外にやれる」となったのですか?

安楽 最初の八王子(2023年4月/IFSCボルダーワールドカップ2023八王子)のときは、まったく分からないままやっていました。チャレンジャーとして負けてもいい状態でしたが、予選を5位で通過して、「意外といけるぞ」と思いました。準決勝は3位で、決勝が5位です。

 身体的にあのころはまったく耐える力がなかったので、他のトレーニングをしたらどんどん強くなるんじゃないか?という感じでした。「次は絶対もっと順位を上げたい」と思って、トレーニングも充実して、そこでどんどん(成績が)安定してきました。

――W杯はボルダー、リードと分かれていますね。

安楽 今年はオリンピックなので、ボルダーとリードが混在していますが、基本的にはボルダーが4月から6月で、リードが6月から9月です。

公立校に通いつつクライミング優先の生活

「意思表示」がハッキリできる若者だ 【撮影:大島和人】

――安楽選手はオールラウンダーで、ボルダーもリードも満遍なく強いタイプです。

安楽 そうですね。でもユースの頃からどちらかが1位で、どちらかが2位という大会が多かったので、もっとどちらも強くありたいです。

――安楽選手はルートを選択する「発想力」が素晴らしいと聞きますが、イメージがポッと浮かぶみたいな感じはあるんですか?

安楽 はい、あります。考え切れなかったり、ムーブを間違えてしまったりすることもありますが、読み切れれば身体をパッと動かせることは多いですね。

――他の選手とルートが違ったりするんですか?

安楽 ボルダーはほぼないです。ルートがみんなほぼ一緒で、それ以外できないことが多いからです。リードは休み方などに、違いが出てくると思います。

――安楽選手は千葉県立八千代高校の3年生です。体育科もある学校ですけど、在籍は普通科ですか?

安楽 普通科です。

――今は夏休みですけど、去年からW杯のツアーに出ていて出席日数は大丈夫ですか?

安楽 去年はトータルで2カ月半くらい海外にいたと思いますが、それは公欠をもらっています。試験の評価は別なので、少し危ない状況です。部活に90何%が入っている、部活の盛んな学校なので、許してもらっている感じです。

――先生からも応援はしてもらえているんですね。

安楽 応援はしてくれています。ただ(勉強と競技の)両立は、正直に言うと無理にしようとは思っていません。クライミングをまず考えて、それで生じた学校のひずみは、そのときに頑張って対応しようと思っています。

――八千代高校は進学校と聞きますし、高校に入る段階ではクライミングに100%振っていたわけではないんですね。

安楽 世界ユースに出られたくらいだったので、オリンピックとW杯は別に考えていなかったです。単純に家から近くて、その方が練習も楽かなという理由で選びました。

――通信制、単位制への転校は考えませんでしたか?

安楽 2年生のときは特に考えました。今はもう高校3年生で、あと1年ないので、このままやろうかなと思っています。

高校卒業後のビジョンは?

五輪終了後もW杯はまだしばらく予定が組まれている 【写真は共同】

――次のステップについてはどう考えていますか?

安楽 大会に参加して生活していきたいです。その後はまだ考えていないですけど、今は伸び盛りでエネルギーもあるので、単純に強さを求めて頑張れたらと思います。

――この前の記者会見で「ヤコプ(・シューベルト)選手と一緒に練習をしてみたい」というコメントをしていました。シューベルト選手は33歳だから学ぶものが多そうですし、高校を卒業すれば活動の幅を広げられますね。

安楽 海外の選手とはW杯などで会いますけど、今は日程的にすぐ帰らなければいけません。今後は他の国の人との関わりを、積極的にしていきたいなと思います。

――最後にご自分の課題、目標をそれぞれお願いします。

安楽 今回の大会で思った大きな改善点は、全体的な身体の強さです。筋力をもっと底上げしたいです。僕の得意な「身体の動かし方」「ひねり」はレベルが上がってきたので、あとはそこです。今年も来年もW杯に参加する予定です。オリンピックが終わったからOKではなくて、W杯に向けても集中してトレーニングして、1つ1つ勝ちを狙って頑張ります。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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