「終始エモかった」パリ五輪バスケ男子決勝 元日本代表主将・篠山竜青がしびれたアメリカの強さ

青木美帆

(左から)カリー、レブロン、デュラントというスーパースターが集結したアメリカは、やはり強かった。ただ年齢的にも、これが彼らにとって最後のオリンピックになるのかもしれない 【Photo by Zhao Wenyu/China News Service/VCG via Getty Images】

 8月11日に行われたパリ五輪の男子バスケットボール決勝は、アメリカが開催国フランスを98-87で下し、5大会連続、通算17回目となる金メダルに輝いた。レブロンやカリーなどNBAのスーパースターを揃え、前回東京大会決勝のリベンジを狙ったフランスを見事に返り討ちにした絶対王者アメリカ。NBA好きとして知られる元バスケ日本代表主将の篠山竜青は、このファイナルをどう見たのか。試合の解説とともに、世界と日本のバスケの未来についても語ってくれた。

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フランスは当然カリーを警戒していたけど……

食い下がるフランスに引導を渡したのが、カリーのプルアップスリー。レブロンやデュラントがスクリーンをかけることで世界一のシューターがフリーになるという「とんでもない世界観」(篠山) 【Photo by Michael Reaves/Getty Images】

 僕はNBAが好きなので、どうしてもアメリカ目線になってしまうのですが、なんと言いますか、『アベンジャーズ』とか『スター・ウォーズ』とか、ハリウッド映画の名作のシリーズ完結編を見ているような感覚にさせられる試合でした。

 レブロン(・ジェームズ)、(ステフィン・)カリー、KD(ケビン・デュラント)。2000年代から20年以上にわたってNBAを引っ張ってきた3人が集結し、加えて次の時代の顔になると言われる(デビン・)ブッカーや(ジェイソン・)テイタム、(タイリーズ・)ハリバートンといった選手たちもいる。これだけスター中のスター12名がロスター入りしたオリンピックは、1992年のバルセロナ大会以来ではないでしょうか。

 アメリカのNBAプレーヤーがFIBA(国際バスケットボール連盟)の主催大会に出場するときに必ずといっていいほど言及されるものの1つに、NBAとFIBAのルールの違いがあります。今回のアメリカ代表も、準決勝のセルビア戦、決勝のフランス戦と、ルールの違いにアジャストしきれず苦しんだ印象を受けました。ただ、それでも1人ひとりの個の力と、それゆえの相手ディフェンスを引き付ける力を活かして、1対1や2対2という少ない人数での攻防で状況を打開するという、とてもシンプルなバスケットをしていました。

 レブロン、カリー、KDのうちの1人がボールを持ち、残り2人のどちらかがスクリーンをかけ、シンプルにポップしたり、ダイブしたりするだけで、フランスのディフェンスにはトラブルが起こる。試合の終盤、アメリカはカリーのプルアップスリーで突き放しましたが、これもレブロンやKDがスクリーンをかけたことによる産物だと思います。

 フランスはカリーを当然警戒しているけど、スクリーンをかけるレブロンに2人のディフェンダーが行ってしまう。世界一のシューターが、レブロンがいることによってノーマークになるわけです。あらためて、とんでもない世界観だなと感じました。

 KDはコンディション不良で直前の強化試合をすべて欠場しましたし、カリーも大会序盤はシュートが絶不調でした。それでも試合を重ねるごとに調子を上げて、決勝ではKDが3ポイント3本を含む15得点・4アシスト・4リバウンド、カリーが3ポイント8本を含む24得点・5アシスト。そしてレブロンも14得点・6リバウンド・10アシストですからね。

「大会期間中を除き、28日までしか代表活動に参加できない」というNBAのルールに則りながら、FIBAのルールとモルテンのボールにアジャストし、最後に“らしさ”を見せる。やっぱりスターだな、NBAってすげえなってなりましたね。

 レブロンが39歳、カリーが36歳、KDが35歳。年齢的にもこれが彼らにとって最後のオリンピックになるのかな、と思いながら試合を見ていたので、なおさらエモーショナルになるシーンが多々ありました。

 レブロンが肩を回すセレブレーションをする姿に、若手のハリバートンや(アンソニー・)エドワーズが1ファンのように喜んでいたこと。レブロンとKDとカリーがチームメイトとして一緒に喜び合っていたこと。カリーがレブロンとともに『Night, Night(勝利を確定させる3ポイントを沈めたときにカリーが行うセレブレーション)』をしていたこと。もうなんというか、終始エモかったです(笑)

 一方、2大会連続でアメリカに敗れて準優勝に終わったフランスですが、やれることはすべてやったのではないでしょうか。インテンシティの高いプレッシャーディフェンスで、終始アメリカのボールラインを押し上げることに成功しましたし、第2クォーターのマッチアップゾーン気味のディフェンスには、アメリカもかなり苦しんでいました。

 攻めては(ビクトル・)ウェンバンヤマと(リュディ・)ゴベールの高さを活かしてしっかりバスケット付近までボールを落とし、(ゲルション・)ヤブゼルや(エバン・)フールニエを起点としたチームバスケットを落ち着いて展開できていました。

 アメリカが犯した17のターンオーバーを思うように得点につなげられず、またフリースローの成功率の低さ(59パーセント)にも苦しみましたが、あれだけのタレントが揃うアメリカを相手にすごくいいバスケットを展開しましたし、最後まで僅差で食らい付いていけたのは素晴らしかった。

 特にヤブゼルは、今回のオリンピックでとても大きなインパクトを残したんじゃないでしょうか。NBAの4〜5番ポジションにおける現在のトレンドは、ウェンバンヤマやアメリカのAD(アンソニー・デイビス)のようなマルチに動けるビッグマン。その中で、彼らほど上背はないものの体が強くて幅があり、フィジカルで押し切れるヤブゼルが決勝の舞台で輝いたことは、身長があまり高くない同ポジションの選手たちに大きな希望を与えたのではないかと思います。

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著者プロフィール

早稲田大学在学中に国内バスケットボールの取材活動を開始。『中学・高校バスケットボール』編集部を経て独立し、現在はBリーグや学生バスケットボールをメインフィールドに活動中。著書に『Bリーグ超解説 リアルバスケ観戦がもっと楽しくなるTIPS50』『青春サプリ。心が元気になる5つの部活ストーリー』シリーズなど

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