ベルギー選手の涙に元バスケ日本代表・矢野良子が想うこと「日本もロスに向けて這い上がればいい」

青木美帆

3連敗で1次リーグ敗退が決まり、涙に暮れる町田(左)と宮崎。元代表の矢野氏は、大会前からチームとしてのコンディションが上がりきっていない印象を受けたという 【Photo by Gregory Shamus/Getty Images】

 大差をつけて勝利すれば、わずかに決勝トーナメント進出の可能性があったパリ五輪1次リーグ最終戦。しかし、バスケ女子日本代表(世界ランキング9位)は、同じく2連敗中でグループ3位の座を争うベルギー代表(同6位)に58-85で完敗を喫し、その望みを断たれた。東京五輪で銀メダルを獲得したチームは、なぜ3連敗で大会を去ったのか。元日本代表の矢野良子さんが、見事に準々決勝進出を決めたベルギーの選手たちの、試合後の涙に想うこととは──。

シュートを打ったらオフェンス終了では……

ベルギー戦も生命線である3ポイントシュートがなかなか決まらなかった(成功率24パーセント)が、そんな中でも林(中央)は強いメンタリティを見せてくれた 【Photo by Gregory Shamus/Getty Images】

 試合会場のあるリールが、ベルギーの首都ブリュッセルから車で1時間ほどの距離ということもあって、観客の9割がベルギーを応援するという状況でした。それでも日本の選手たちは、この超アウェーの雰囲気に乱されることなく、普段どおりの精神状態で試合に入れたように見えました。

 過去2試合でなかなか発揮することのできなかった、宮崎(早織)選手を筆頭とする激しいプレッシャーディフェンスから相手のミスを誘い、本橋(菜子)選手や東藤(なな子)選手がスピーディに得点を奪うという展開も作れていました。

 ただ、出だしから生命線の3ポイントシュートが入りませんでしたね。

 シュートは水物ですから、「入る・入らない」を問わず打ち続けなければいけません。それは表現できていたと思うのですが、入らなかったときに違う形での得点の取り方があってもよかったと思います。特にオフェンスリバウンドに複数人で飛び込んで、セカンドチャンスを狙う意識が薄かったことで、「シュートを打ったらオフェンス終了」「3ポイントが入らなかったら点が取れない」という状況を招いてしまいました。

 16点差で折り返した第3クォーターの出だしは、差を縮めなければという意識が強すぎるあまりオフェンスが空回りし、そこをベルギーに突かれて先手を取られ、逆に点差が22点に開いてしまいました。ディフェンスは引き続きとても良かったですし、ベルギーのキープレーヤー、エマ・メーセマン選手へのダブルチームからのローテーションもスムーズでしたが、「守れていたけれどやられてしまった」という局面も時折見られました。

 そんな中で感心させられたのが、林(咲希)選手のパフォーマンスでした。私は現役時代、シューターとしてプレーしていましたが、シュートを成功に導くのは結局メンタリティだと思っています。1本、2本とシュートが外れると、どうしても「今日は調子が悪いな」と不安な気持ちになってくるものですが、林選手は3試合を通じてそういった気配を感じさせませんでした。今日も序盤からなかなか3ポイントが入りませんでしたが、それでも打ち続け、さらにはディフェンスやリバウンドでも全力を尽くし、最終的には3本の3ポイントを沈めてチームのトップスコアラー(13点)になりました。自分のやるべきことを理解し、それをまっとうしたメンタリティはすごいなと思いました。

 日本代表は選手もスタッフも、この試合が最後になるかもしれないということを当然よく理解していたと思います。点差が離れた第4クォーターは、とにかく悔いなく全力を出し切ってほしい。出し切るのは難しくても、多少なりともすっきりした気持ちで試合を終えてほしい。そう思いながら見守っていましたが、最後までどこか乗り切れないままタイムアップを迎えたように見えました。

 ベルギーはFIBAユーロバスケット2023を制した強豪ですが、この日の強さにはその実績以上のものがありました。ほぼホームと言っていいリールで戦うこと、予選敗退の危機にさらされていたこと、そして東京五輪の準々決勝で、残り15秒から逆転負けを喫した日本が相手ということ。そういった要素が合わさり、出だしからとても集中していたし、気合いがみなぎっていました。

 大会直前に強化試合(75-65でベルギーが勝利)を行ったことで、日本がどのようなバスケットをしてくるかはもちろん把握していたと思いますが、「自分たちの力を信じてやれば勝てる」という気持ちの強さがあったからこそ、本来日本がやりたかった高確率(24本中9本成功/成功率38パーセント)の3ポイントシュートを決められたのだと思います。戦術への対策というよりも、日本というチームに対するモチベーションの高め方がうまかったと感じました。

 ベンチワークも素晴らしかったです。日本に流れが行きそうな時間帯で的確にタイムアウトを取り、メーセマン選手を休ませられるところできちんと休ませ、交代で出てきた選手たちもしっかり役割を果たし、そして決勝トーナメント進出の条件である「27点差勝利」をきっちりとつかみ取った。試合後、ベルギーの選手たちがボロボロと泣いている姿を見て、ものすごく強い気持ちで戦っていたんだなとあらためて実感しました。

選手たちには「よく頑張ったね」と言いたい

「27点差勝利」を実現した勝者も、試合後に涙を流していた。東京五輪の逆転負けも糧に、強い気持ちで戦ったベルギーと同じく、日本も4年後に向けてまた這い上がるしかない 【Photo by Gregory Shamus/Getty Images】

 アメリカ戦で5本の3ポイントシュートを沈めた山本(麻衣)選手が、脳震盪の影響でドイツ戦、ベルギー戦を欠場した影響は少なからずあったと思います。

 ただ、彼女がコートに立てていたら結果が大きく変わっていたとは断言できません。ドイツもベルギーも、たとえ山本選手が大活躍をしたとしても大崩れするようなチームではなかったですし、何より大会前から、日本代表全体のコンディションが上がりきっていない印象も受けました。

 もちろんいいプレーを随所で見せてくれましたが、3試合をトータルで見てみると、日本が局面を圧倒していると感じられた時間は多くなかったように思います。東京オリンピックで築き上げた日本の強さを、あまり表現できないまま今大会を終えてしまうことには、少し残念な気持ちがあることは否めません。

 トム・ホーバスヘッドコーチ(現男子日本代表ヘッドコーチ)から恩塚亨ヘッドコーチにバトンタッチして3年。新しいシステムやスタイルを頭で理解し、体で表現し、結果を出すのは簡単なことではありません。銀メダルを獲ったことで世間の期待値も高まり、世界各国からは「日本を倒したい」と目標にされ、選手たちも大なり小なりプレッシャーを感じていたことでしょう。

 銀メダルからの1次リーグ敗退は、多くの人にとって驚きの結果だったかもしれません。ただ、22年のワールドカップで9位に沈み、パリ・オリンピック出場を危ぶまれながら、最終予選をしっかり勝ちきって、土壇場で出場権を勝ち取ったことは評価に値しますし、選手たちには「よく頑張ったね」と言いたいです。

 パリでは残念ながら目指していた結果には至りませんでしたが、次のロサンゼルス・オリンピックに向けてまた這い上がればいいんです。今回の悔しさをバネに成長し、ロスのコート上でそれを表現してほしいと思います。

(企画・編集/YOJI-GEN)

矢野良子(やの・りょうこ)

1978年12月20日生まれ、徳島県出身。城北高を経てジャパンエナジー(現ENEOS)に入団。身長178センチの大型シューターとして頭角を現し、女王として名を馳せた同チームはもとより、2004年に移籍した富士通、09年に加入のトヨタ自動車でもチームを日本一に導いた。日本代表には01年に初招集。アテネ五輪の代表メンバーで、北京五輪とロンドン五輪の最終予選も戦った。現在は主に解説者として活躍中。
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著者プロフィール

早稲田大学在学中に国内バスケットボールの取材活動を開始。『中学・高校バスケットボール』編集部を経て独立し、現在はBリーグや学生バスケットボールをメインフィールドに活動中。著書に『Bリーグ超解説 リアルバスケ観戦がもっと楽しくなるTIPS50』『青春サプリ。心が元気になる5つの部活ストーリー』シリーズなど

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