男子パークの“世界の扉”を開けた永原悠路 スケボー旋風のその先を荒畑潤一が提言

田中凌平

スケートボード男子パークで予選敗退となるも、清々しい表情で会場を後にする永原 【写真は共同】

 8月7日にパリ五輪のスケートボード男子パーク予選が行われ、永原悠路(太陽ホールディングス)が出場。1本目で81.38の滑りを見せたものの、2本目と3本目では滑り出しの大技を決められず、予選15位で男子パーク日本人初の決勝進出とはならなかった。

 同日(日本時間8日)に行われた決勝では、1本目で93.11のビッグスコアを出したキーガン・パーマー(オーストラリア)が最後までトップを維持し、東京五輪に続く連覇を果たした。2位は2本目で92.23を叩き出したトム・スハー(米国)で、3位は3本目で91.85を叩き出したアウグスト・アキオ(ブラジル)だった。

 スケートボード4種目の中でもっともトップレベルと日本の差が大きく、なかなか世界への扉を開けることができなかった男子パーク。永原は五輪の大舞台のために準備した大技を決め、今後への期待を抱かせてくれた。永原が男子パークで滑った“意味”や、スケートボード界の未来について、18歳で全日本チャンピオン(AJSA)を獲得し、日本スケートボードシーンを牽引してきたパイオニアの荒畑潤一さんに語ってもらった。

1本目で用意した大技をメイクした永原

「キックフリップ・ボディバリアル540」を見事にメイクした永原。この技の完成まで途方もない時間をかけた 【写真は共同】

 永原選手の1発目のトリックは「キックフリップ・ボディバリアル540」という非常に難易度の高いトリックです。他の選手も挑戦していましたが、失敗している選手が多かったですね。この大技を最初に持ってきた理由は、最初に決めて後の構成に集中するためです。実は、永原選手はこの技を2023年4月に初めて成功させ、1年4ヶ月かけて精度を高めてきました。国際大会で披露できるレベルに仕上げたのは、パリ五輪のわずか1週間前だそうです。

 さらに、今回の1本目で成功させたことで、永原選手は国際大会のパークで「キックフリップ・ボディバリアル540」を決めた初めての日本人選手となりました。本当は最後にこの技を持っていくほうが得点は伸びるのですが、あえて1発目に持ってきたところに永原選手のこの技にかける思いが伝わりましたね。2本目と3本目は失敗しましたが、野球でいう“ホームラン”か“三振”かというスタイルに永原選手らしさが滲み出ていました。

 永原選手は決勝進出を逃しましたが、ハイレベルな男子パークで日本人選手がこの大舞台に立つこと自体が“奇跡”であり、数年前までは考えられなかったことです。パリ五輪で永原選手が“世界の扉”を開いてくれたので、どんどん後の世代も続いてほしいですね。ブラジルの3選手が肩を組んでお互いを称え合っているシーンがありましたが、4年後のロサンゼルス五輪では日本勢でも同じ光景が見られることを期待しています。

“命懸け”だからこそリスペクトを忘れない

担ぎ上げられて称えられる優勝したパーマー。こうしたリスペクトの文化こそがスケートボードのよさだ 【写真は共同】

 男子パークも本当にレベルが高かったのですが、スハー選手とペドロ・バロス選手(ブラジル)が特に印象に残っています。スハー選手は渋い滑りをしていて、「バックサイド270フロントサイドディザスター」ですごい距離を飛んだ時に解説の人が「Travel(旅をしている)」と表現していました。ほんの一瞬の技なんですが、それまでの流れや飛んだ距離にかけての「Travel」という表現はかっこよかったですね。

 また、「アーリーウープテールグラブ540」を見て、スケートボードの神様と呼ばれるトニー・ホークさんが頭を抱えていたシーンもありました。レジェンドでも驚く技をしているんだと思うと、心にくるものがありましたね。

 バロス選手は、とにかくスピードが出ていて“ぶっ飛ぶ”ようなパフォーマンスでした。バロス選手はパークを牽引してきた名選手の1人なので、メイク(トリック成功)した後にみんな集まってきていて、リスペクトされていることが垣間見えたシーンでした。

 バロス選手以外にも選手同士で祝いあったり、称え合ったりするシーンが数多く見られました。パーマー選手が優勝した時には、国籍の異なるバロス選手とテート・カルー選手(米国)が祝っていましたよね。五輪のメダルを懸けた“戦い”でありつつ、ともに競演する“エンターテイメント”を作り上げているような雰囲気を感じました。

 スケートボーダーはお互いをリスペクトすることを“かっこいい”と思いますし、相手をディスるのではなく、褒め称え合ってポジティブなエネルギーで自分を高めていきます。どんなに上手い人でも、初めてスケートボードに乗ってプッシュができた人がいたら拍手するのがスケートボーダーです。みんな命懸けでトリックを決めにいく中で、お互いに称え合えるその人間性は最高ですよね。

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著者プロフィール

東京都出身。フリーライター。ラグジュアリーブランドでの5年間の接客経験と英語力を活かし、数多くの著名人や海外アスリートに取材を行う。野球とゴルフを中心にスポーツ領域を幅広く対応。明治大学在学中にはプロゴルフトーナメントの運営に携わり、海外の有名選手もサポートしてきた。野球では国内のみならず、MLBの注目選手を観るために現地へ赴くことも。大学の短期留学中に教授からの指示を守らず、ヤンキー・スタジアムにイチローを観に行って怒られたのはいい思い出。

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