「パリの結果に下を向くべきではない」 星奈津美が考える競泳ニッポン復活の条件

田中凌平

(左から)池江、平井、鈴木、白井が出場した女子400メートルメドレーリレーで、競泳の全日程が終了。日本のメダル獲得は1つに終わった 【写真は共同】

 パリ五輪の競泳の全日程が8月4日(日本時間5日)に終了した。最終日の日本勢は女子400メートルメドレーリレー決勝に池江璃花子(横浜ゴム)、鈴木聡美(ミキハウス)、白井璃緒(ミズノ)、平井瑞希(アリーナつきみ野SC)が出場し、5位と健闘。この種目を終え、今大会の競泳での日本勢のメダルは、松下知之(東洋大)が獲得した男子400メートル個人メドレーの銀メダル1つのみで確定した。

 複数のメダル獲得が期待された競泳だっただけに、銀メダル1個という結果は想定外だ。東京五輪で銀メダルを獲得し、パリ五輪でもメダルの獲得が期待された男子200メートルバタフライの本多灯(イトマン東進)の予選敗退など、厳しい現実を突きつけられる形となった。

 これまで複数のメダル獲得を続けてきた日本がなぜ銀メダル1個に終わったのか、4年後のロサンゼルス五輪に向けて“競泳ニッポン”が復活を果たすには何が必要なのか――。北京大会から3大会連続で五輪出場を果たし、ロンドン、リオデジャネイロの女子200メートルバタフライで2大会連続の銅メダルを獲得した星奈津美さんに、パリ五輪の競泳を総括してもらった。

今後は技術と“チーム力”の向上が鍵を握る

東京五輪で銀メダルを獲得した本多の予選敗退に象徴されるように、今大会の日本勢は思うような結果を残せなかった 【写真は共同】

 もともとパリ五輪における日本の競泳は過渡期と言いますか、多くの日本勢がメダルを獲得したロンドンやリオほどの期待値はありませんでした。実際に代表チームとしても、選考会での記録なども考慮して「金メダルを含めた複数のメダル獲得」という現実的な目標を立てていたようです。しかし、私も銀メダル1個に終わることは予想できませんでした。

 今大会は水泳連盟が設定しているメダルラインに達していない選手が多かったので、今後の日本の競泳界は全体的なレベルアップが必要です。もちろん、日本以上に世界のレベルが上がっている種目もあります。しかし、女子の背泳ぎで日本人選手が出場できなかったように、誰も派遣タイムを切れなかった種目もありました。そうした現実は真摯に受け止めなければなりません。

 また、今後は技術に加えて“チーム力”を高める意識も必要です。私が北京、ロンドン、リオと3大会連続で出場した時は、競泳が個人競技だと感じさせない代表チームの一体感がありました。選手村で翌日のレースに出場する選手が書かれているボードに、それぞれの選手が「頑張れ!」「ファイト!」などと書いてエールを送り合っていました。

 当時からいるスタッフと話したのですが、今の代表チームはコミュニケーションがLINEなどでのやり取りだけに終始するケースも多いそうです。決してスポ根的な考えを押しつけるわけではありませんが、代表メンバーがそれぞれに興味を持ち、たたえ合い、盛り上げていくチームの一体感は重要だと思います。「みんなと一緒にひとつのチームで戦っている」と感じられることが、個々の選手を後押しする力に必ずなるはずです。

 実際にチーム力が高いとレースに挑む際の精神状態も安定しますし、他の選手の活躍に「自分もできるぞ!」という気持ちが強まって“いい流れ”に乗りやすくなります。パリ五輪では松下選手が序盤に銀メダルを獲ったので「これはいい流れができるな」と思ったのですが、なかなか後の選手が続けませんでした。そういった意味でも、これまでの代表と比較すると、チームの一体感が薄れているように感じました。

鈴木聡美ら頼りになるベテランの存在が不可欠

女子200メートル平泳ぎで4位となった鈴木。現役続行を表明するなど、まだまだ泳ぎへの情熱はくすぶっていない 【写真は共同】

 今大会は銀メダル1個に終わりましたが、今後に向けた明るい兆しもたくさんありました。まずは銀メダルを獲得した松下選手ですが、2位という結果だけでなく、五輪初出場にもかかわらず決勝の舞台で自己ベストを出せたのは素晴らしいことです。まだ19歳ですし、今後は“日本のエース”として注目されると思います。今の高校生や同世代の選手にとってもいい刺激となりますね。

 女子の平井選手も素晴らしい泳ぎを見せてくれました。女子100メートルバタフライというスピード種目で決勝まで進み、予選を含めた3本のアベレージタイムが速かったことには自信を持つべきです。同じく10代では、女子400メートル個人メドレーで成田実生選手(ルネサンス金町)が6位になりました。松下選手を中心に台頭する10代の今後の活躍に期待です。

 若手の活躍が光った一方で、鈴木選手のようなベテランの存在も欠かせません。女子200メートル平泳ぎで自己ベストに近い圧巻の泳ぎを見せてくれましたし、まだ現役を続けると明言しました。鈴木選手は年齢関係なく、誰よりも水泳を楽しんでいるように見えます。私が五輪に出場した時の北島康介さんや松田丈志さん、寺川綾さんのように、鈴木選手も多くの選手が憧れる精神的支柱となっています。

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著者プロフィール

東京都出身。フリーライター。ラグジュアリーブランドでの5年間の接客経験と英語力を活かし、数多くの著名人や海外アスリートに取材を行う。野球とゴルフを中心にスポーツ領域を幅広く対応。明治大学在学中にはプロゴルフトーナメントの運営に携わり、海外の有名選手もサポートしてきた。野球では国内のみならず、MLBの注目選手を観るために現地へ赴くことも。大学の短期留学中に教授からの指示を守らず、ヤンキー・スタジアムにイチローを観に行って怒られたのはいい思い出。

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