世界の逸材と対峙する日本競泳界の現在地 星奈津美が経験談から五輪で戦う術を語る

田中凌平

松元は日本人でも自由形で戦えることを証明

東京五輪でのショッキングな敗退を乗り越え、パリ五輪の男子200メートル自由形決勝の舞台に立った松元 【写真は共同】

 松元選手は、東京五輪でメダルを期待されながら予選敗退という結果に終わったことを覚えている方もいると思います。私は松元選手の敗退に衝撃を受けましたし、本人も東京五輪のレースの映像はしばらく見ることができなかったようです。ショッキングな出来事を経験した中で、パリ五輪では決勝まで進みました。ひとつ東京五輪のリベンジが果たせたのかなと感じています。

 自由形は体格や腕の長さが大きく影響する種目で、他の3泳法に比べると日本人が海外の選手と戦うには不利な種目だと言われています。その自由形で決勝まで残れたことが、松元選手の「後悔はない」というコメントにつながっているのかと思います。松元選手は男子100メートルバタフライにも出場するので、自由形との両立という難しさもあったはずですし、バタフライでの活躍にも期待したいです。

代表選考後の五輪本番に“ピーク”を持ってくる難しさ

 成田選手と同じく女子400メートル個人メドレーに出場した谷川選手は2回目の五輪でしたが、惜しくも予選敗退となりました。緊張感というよりもパリ五輪に“ピーク”を持ってこられなかったのかもしれません。他国では6月に選考会を行うケースが多いのですが、日本は3月に行うため、五輪本番までに4カ月ほどの期間が空きます。3月の選考会にピークを持って行った後、また7月や8月にピークを持ってくることは想像以上に困難であり、「五輪本番よりも選考会の方が緊張する」と言う選手もいるくらいです。

 個人メドレーは持久力が必要なので事前に高地トレーニングに行く選手もいれば、海外の試合に慣れるためにヨーロッパに遠征をする選手もいます。各選手が五輪本番にピークを合わせるために、ベストなトレーニング方法を模索する必要がありますね。谷川選手もまだ21歳と若く、4年後のロサンゼルス五輪出場も十分に考えられるので、ぜひ次に今回の経験を活かしてほしいですね。

 2021年の東京五輪や23年に福岡で開催された世界選手権では、10代の選手がメダルを獲ることがほとんどありませんでしたが、ここに来て海外の若手がものすごく成長しています。マッキントッシュ選手もポポビチ選手もまだ10代なので、男子400メートル個人メドレーで銀メダルを獲得した松下知之選手(東洋大)のように日本も若い選手がどんどんメダルを獲れるようになると、競泳界がもっと盛り上がりますよね。今大会で直面した現実に対して下を向くのではなく、前向きに捉えたうえでそれぞれの成長につなげてほしいです。

星奈津美(ほし・なつみ)

【株式会社RIGHTS.】

高校1、2年生でインターハイを連覇し、3年時には日本選手権で高校新記録を出して北京五輪代表に選出された。その裏で、16歳で患ったバセドウ病に苦しみ一時的に競技を離れるも、難病を乗り越え2012年ロンドン五輪、2016年リオデジャネイロ五輪の女子200メートルバタフライでは2大会連続で銅メダルを獲得した。また、世界水泳ロシア・カザン2015で獲得した金メダルは、日本競泳女子初の快挙だ。現在は、全盲のパラ競泳・木村敬一選手にバタフライのフォームコーチを務めつつ、講演や水泳教室、アニマルドネーションの介在犬アンバサダー活動を行っている。

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著者プロフィール

東京都出身。フリーライター。ラグジュアリーブランドでの5年間の接客経験と英語力を活かし、数多くの著名人や海外アスリートに取材を行う。野球とゴルフを中心にスポーツ領域を幅広く対応。明治大学在学中にはプロゴルフトーナメントの運営に携わり、海外の有名選手もサポートしてきた。野球では国内のみならず、MLBの注目選手を観るために現地へ赴くことも。大学の短期留学中に教授からの指示を守らず、ヤンキー・スタジアムにイチローを観に行って怒られたのはいい思い出。

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