インターハイ・サッカー競技は「独立分催」元年 変化と“海外組予備軍”にも注目
昨年は男子サッカー競技で茨城代表・明秀日立が初優勝。従来方式での最後の王者となった 【撮影:川端暁彦】
高校総体から「サッカー」独立
この概要だけは従来通りなのだが、開催地がこれまでとは異なる。女子は北海道の室蘭市と伊達市、男子は福島県の沿岸部に当たる楢葉町、広野町、いわき市での開催と決まった。
「今年のインターハイは北部九州総体だったはずでは?」と思った方もいるかもしれない。ただ、サッカー競技は今年度からそうした全国持ち回り開催の枠組みを離れ、独立して開催していくことを選択したわけだ。
背景にあるのは、シンプルに暑さである。近年特に問題視されるようになったことに加え、元よりサッカーは運動量を要求される競技特性を持つ。このため、暑熱環境での開催にはリスクも大きく、これまでもナイトゲームでの開催を試みるといった年もあった。ただ、夏は雷の多い時期でもあり、夕方以降の開催は別のリスクを生んでしまう面もあった。
現在、夏の全国高校総体は47都道府県持ち回りだった時代から複数の県をまたがるような広域開催が基本の持ち回り制となっている。今年であれば、福岡、佐賀、長崎、大分の「北部九州」4県での開催が基本である。
広域開催のメリットは宿泊などのキャパシティに余力が生まれることに加え、施設面を融通できることでの開催に伴うコスト削減だ。稼働できる施設のある県で競技を行えば、新たに建設したり改修したりといった負荷は避けられる。
逆に言うと、総体を47都道府県の持ち回りで開催していく過程で全国各地のスポーツ環境が整えられてきたという面もあり、サッカーもまたその恩恵は受けてきた。グラウンドやスタジアムが総体開催に伴って改修されたり、新たに芝生のグラウンドへ生まれ変わったりといったことがあったのは確かだ。
ただ今日、広域開催化とコスト削減の方向性の中でそうした恩恵を受けられる割合も減っている中で、固定開催の方向性が探られることとなった。田嶋幸三会長(当時)の言葉を借りれば、「少しでも冷涼な土地で開催することを目指すべきではないか」という方向性である。
2021年度には正式決定。2024年度からサッカーは「独立開催」となった。固定開催とすることで宿泊などまで含めた開催ノウハウの蓄積も見込まれ、単に暑さにとどまらないプレー環境、観戦環境の改善が進むことも期待されている。
また、大会の運営面でも開催地の都合がどうしても優先されてしまっていたが(それは仕方ないことでもある)、固定開催となったことで、生じた問題を来年に活かしていくといった対応が可能になったのは大きいと言えそうだ。
少々特殊な夏の戦い
冬の全国高校サッカー選手権で準優勝を飾った近江(滋賀)はフレッシュな陣容で夏に挑む 【撮影:川端暁彦】
福島も内陸部ではかなりの暑さになるが、海風にも恵まれるこの地域は格段に涼しくはある。総体の取材では南国や盆地での暑さも経験しているが、それに比べればマシになることは間違いない。
とはいえ、やはり暑いものは暑い。現在開催中のパリ五輪でのサッカーもそうだが、こうした暑熱環境ではボールを持てないチームが勝つのはかなり難しい。昨年は北海道開催の恩恵を受け、暑い日はあったものの総じてかなり涼しかったので(たとえば決勝の気温は27.9℃で、準決勝の気温は26.4℃)、タフに戦うスタイルの明秀日立(茨城)が最後まで走り切っての初優勝になっているが、ここから総体の傾向を読み取るのは無理があるかもしれない。
やはり基本的には主導権を持って戦い、体力面のマネジメントもできていたチームに優位性がある大会となる。かつては17人しかメンバーを登録できず、この点も各校を大いに苦しめていたが、これが20人に拡大されているのも見逃せないポイントで、選手層の厚み、交代選手の重要性は言うまでもない。
また、夏の段階では、各校がチームとして成熟し切れていない面もある。今年のお正月に全国高校サッカー選手権で準優勝を飾った近江の前田高孝監督は、ガラリと入れ替わったメンバーの現状をこう語る。
「『去年は?』と言われがちですけれど、今年のチームは今年のチームの良さがある。一歩一歩やっていっているところ」
学年を更新してメンバーが大きく入れ替わる中で、先代からの伝統を引き継ぎつつ、新たな色を探っている過程で迎えるのが夏の大会というわけだ。名門校であっても、これが初めての全国大会出場という選手も珍しくない。
また大学推薦やプロ入りと行ったサッカーで進路を切り開くという意味で言えば、3年生にとってこの大会はほぼラストチャンスになる。そうしたプレッシャーもかかる中で、“ひと化け”するチームや選手が出てくるのも夏の大会の醍醐味(だいごみ)だ。