ライバル出現で「悪童ぶり」が戻ってきた? F1王者フェルスタッペンの綻び

柴田久仁夫

いくつも重なったレッドブルの不手際

2021年サウジGPでのフェルスタッペンとハミルトンの接触事故。5秒ペナルティを科されたフェルスタッペンは2位に終わった 【©️Redbull】

 とはいえ今回のフェルスタッペンの敗因は、ドライバー本人よりむしろチーム側に帰するべきだろう。

 予選での圧倒的な速さから一転、レースでのフェルスタッペンは終始タイヤグリップの低さに苦しんだ。ノリスとのバトルの最中には、「まるで車が壊れてるような、変な挙動だ」と、マシンバランスの悪さも訴えていた。

 それでも2回目のピットインまでは、ノリスに対し7秒前後のリードを築いていた。しかし左後輪の交換に手間取り、一気に1秒近くに差を詰められた。これまでほとんど作業ミスを犯さず、時に2秒を切る記録さえ出していたのが、レッドブルらしからぬ失態を重要局面で犯してしまった。

 タイヤ戦略も、レッドブルらしくなかった。決勝レースにハード2セット、ミディアム1セットのニュータイヤしか残さなかったのだ。終盤の勝負の局面で、スプリント予選で3周した中古ミディアムを履かざるをえず、ミディアム新品のノリスに猛追される遠因となった。

 そして指示の不徹底だ。ノリスは59周目に4回目のトラックリミット違反を犯し、5秒ペナルティ必至の状況だった。担当エンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼも直後に、それは無線で伝えていた。しかしさらに進んで、「ブロックを続けず、抜かせろ」と指示するべきだった。たとえ抜かれても、残り約10周で5秒以上の差をつけられたとは考えにくい。追い込まれたレッドブルの判断ミスだった。

フェルスタッペン・ノリス時代が始まる?

スプリント予選でのノリス、フェルスタッペン、ラッセル(左から)。3人が優勝争いをする未来は近い? 【©️Redbull】

 マシンの戦闘力不足。チームの不手際、そしてフェルスタッペンの焦りと攻撃的すぎたドライビング。それらが重なって、彼らは完敗を喫した。だがフェルスタッペンと堂々と渡り合えるノリスのようなドライバーが出てきたことを、僕はむしろフェルスタッペンのためにも喜びたい。

 2021年シーズンを思い出してほしい。あの年のF1はハミルトンとフェルスタッペンが毎戦のように激しいバトルを繰り広げ、最終戦での劇的な幕切れも含め、稀に見る充実した1年だった。その思いは初タイトルを制したフェルスタッペンや世界中のF1ファンだけでなく、敗れたハミルトンも共有できるのではないか。

 そもそもハミルトンは、そしてその前のミハエル・シューマッハも、ほとんどライバル不在の状態でタイトルを獲り続けた。F1の歴史に「セナ・プロスト時代」はあるが、「シューマッハ・ハッキネン時代」や、「ハミルトン・ロズベルグ時代」とは誰も呼ばない。

 フェルスタッペンもこのまま無敵ぶりを発揮し続けたら、シューマッハやハミルトンのような孤独な王者になるところだった。しかし今のフェルスタッペンには、ノリスが真っ向勝負を挑む。そしてラッセル、シャルル・ルクレール、オスカー・ピアストリも続く。素晴らしい勝負を、これから存分に楽しめそうだ。

(了)

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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