連載:最先端レフェリング論

[金曜特別コラム]最先端レフェリング論(4) なぜ欧州ではVARが介入するような場面でもJリーグでは介入しないのか?

木崎伸也

なぜ欧州ではVARが介入するような場面でもJでは介入しないのか?

J1第6節のチアゴ・サンタナのハーフライン付近から超ロングシュートのようなケースは、審判にとっては「不意打ち」となるようだ 【(C)J.LEAGUE】

――山本さんがVARを務めた4月3日の浦和レッズ対FC東京戦で、チアゴ・サンタナがハーフライン付近から超ロングシュートを決めて話題になりました。自陣からドリブルして超ロングシュートを打ったので、VARとしてはチェックが簡単でしたか?

 いや、簡単ではなかったですよ。あとでリプレイを見ると簡単に思われるかもしれませんが、現場にいたときは正直なところあそこから打つとは想定できなかったんです。「APPスタート」と言う準備ができていなかった。不意打ちじゃないですけど、そういう難しさがありました。

――予想を超えたプレーが起こると難しいわけですね。

 我々は「急に事象が飛んでくる」という表現を使っています。ただ、そういう中でも素早く映像をチェックし、選手たちを待たせることなく得点の確認をコンプリートできたので良かったです。スタジアムの雰囲気に水を差したくありませんからね。VARは時間との勝負。正確さとスピードを同時に追求しなければなりません。

――佐藤さんがDAZNの番組でVARのデモンストレーションをして、コマ送りやスロー再生でチェックした後に「もう一度ノーマルスピードで強度を見る」というプロセスを踏んでいました。やはりスロー再生だとファールに見えてしまうことはあるのでしょうか?

 はい、あると思います。特に顕著なのがタックルですね。コマ送りやスローモーションで見るとより悪く見えてしまう。通常のノーマルスピードで見てしっかりインテンシティを確認するように言われています。

――今後、日本においてVARはどう発展していくと思いますか?

 佐藤さんを中心にJリーグを担当するレフェリーが1つになり、正確さとスピードを両立させたうえで、信頼性を求めようという話をしています。

 JリーグがVARを導入するときにIFAB(国際サッカー評議会)のテクニカルダイレクターであるデイビッド・エラリーさんをインストラクターとして呼んでレクチャーを受け、「明白な間違い」や「重大な事象の見逃し」をなくすためにVARを使うという方針でスタートしました。言い換えれば、競技規則通りに運用するということです。

 ただ、みなさんが海外のサッカーを見ていると、「明白な間違い」ではないときにもVARが介入しているのを目にすることがあると思います。そういう違いがあるので、Jリーグ観戦の際に「なぜヨーロッパでは介入するような場面でもJリーグでは介入しないのか?」という疑問が生まれていると思います。

 実際、FIFA(国際サッカー連盟)やAFC(アジアサッカー連盟)の大会では「ビデオテストのようにVARを使いましょう」という方針になっています。「明白な間違い」があったときだけに介入するのではなく、選手やファンの納得感を考慮して映像を使おうということです。選手やファンが求めているのは「競技規則に合っている判定」ではなく「正しい判定」だと。

――「明白な間違い」のときだけ介入するというルールなのに、FIFAやAFCが自らそこを曖昧にしているとは知りませんでした。

 僕は昨年まで国際審判員を務めていて、AFCのある試合でVARを担当したんですが、PKに関しても介入の基準が違うと感じました。Jリーグでは主審が「ノーPK」と判定したとき、「明白なミス」がなかったら介入しないという基準でやっています。それに対してAFCでは、もっと柔軟な基準で介入しろと。

 選手もファンも海外との違いに疑問を持つ機会が増えていくと思うので、そこを考慮しなければならないという認識をしています。

競技規則としては合っている判定だがエンタメとしては……

JFA審判マネジャーの佐藤は「競技規則では間違っていない。はたしてそれで審判への信頼が上がるのか」とレフェリーたちに疑問を呈していた 【スポーツナビ】

――FIFAとしてはまだまだVARは発展途上で、柔軟に運用を変えていくべきというスタンスなのかもしれませんね。

 海外交流プログラムで海外のレフェリーが定期的にJリーグで笛を吹いてくれているんですが、先日アメリカの方が主審を務めた試合で、僕がVARを担当したんですね。そのときにあらためて海外のレフェリーはアドバンテージの適用がうまいと感じました。

 海外のレフェリーと話すと、「そのジャッジは競技規則としては合っていても、エンターテインメントとしてはどうなの?」とよく言われます。サッカーの文化や選手の意図をもっとレフェリングに組み込んでいけたらいいなと個人的には考えています。

――他にも海外のレフェリーから吸収したことはありますか?

 昨年、イングランドのプレミアリーグを担当しているレフェリーがJリーグで笛を吹いてくれ、僕がVARを担当しました。

 VARはマイクを通して主審と選手のやりとりを聞けるんですが、そのときに1つ驚いたのが、主審が選手に対してフレンドリーに世間話をしていることでした。「日本は暑いな。給水タイムはいつがいい?」と話しかけたりしていたんです。英語なので話が通じないときもありましたが、それでも主審は気にしていませんでした。

 かと思ったら、厳しくすべきときにはものすごい迫力で感情を出し、伝えるべきことを伝える。ものすごくメリハリがある。一緒にサッカーをやっている感じがして、選手の心をつかむのがうまい。日本のレフェリーにも細かさといった日本ならではの良さがありますが、海外のレフェリーの良さも吸収していきたいです。

<次回に続く。6/21(金)掲載予定>

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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