露呈した町田の経験不足と隙 新潟の戦いが明かしたJ1首位の危うさ

大島和人

新潟DFの「自重」が町田の強みを奪う

鈴木孝司は長倉幹樹とともにクレバーな前線守備を見せた 【(C)J.LEAGUE】

 新潟の前線は無理に踏み込まず自重し、中盤との間隔を広げず、セカンドボール回収に備えていた。町田の前に重心をかけた守備を逆用する狙いもあった。

 鈴木はこう説明する。

「(長倉)幹樹と自分でうまく牽制をかけながら、セカンド(の確保)に人数を当てました。(DFラインに)持たせながら、(長い浮き球を)蹴ってくれるイメージで下のパスを限定して、対角にも蹴らせないようにしました。町田は前4枚で、ボランチも前がかりに1枚が出ていました。だから長いボールを入れた後のセカンドは新潟の方が拾えるのではないかという予測もありました。2点目もそうですけど、セカンド拾った後の速攻が形になったと思います」

 新潟がボール保持を捨てていたわけではなかった。一方でロングボールの活用、セカンドボールの争奪に備えた守備の自重といった「オプション」は試合を五分以上に進める要因になっていた。

 もっとも町田のすべてが空回りをした試合ではないし、結果で内容を全否定するのも不当だ。プレスや球際といった大枠が普段の水準から大きく劣ったこともなく、ショートカウンターなどから新潟とおおよそ同数の決定機は作っていた。

 それでもゴールに直結する「際」では、間違いなく新潟が上回った。「最後の局面で凌ぐ」「少ないチャンスを決め切る」という今季の町田が何度も発揮した強みは出ていなかった。

「常勝チーム」ではない町田

町田はオウンゴールからの3失点目が特に痛かった 【(C)J.LEAGUE】

 技術、経験といった要素だけを切り取れば、町田はJ1の上位にいるべきチームではない。もちろんJ1初昇格の新参者が第17節を首位で終えたことは称賛に値する。それは相手以上にサッカーを突き詰めて、努力を重ねてきたからだ。仮に途中経過で達成感、安心感を感じて緩めば、チームの足元は間違いなく揺らぐ。

 黒田監督は試合後にこう口にしていた。

「本当の常勝チーム、そういうメンタリティを持っているチームは、ここでしっかりと勝ち切るのが常です。しかし(町田は)やはり新参者であり、優勝経験のない選手たちも多く、ここで一つ緩んでしまう。そこは正直まだまだだなという印象です」

 町田にとって新潟戦の1敗はおそらく想定内だ。ただし、1敗で食い止められなかったら話は違う。

 黒田監督のチームは就任後の2シーズンで、一度も連敗をしていない。彼は信賞必罰がはっきりした指揮官で、チームが不甲斐ない戦いをするとメンバーを大きく入れ替えるケースが多い。試合、プレーへの「飢え」を持つ選手を活かす手際は彼の強みだ。

 5月26日に54歳を迎えた「プロ2季目の指揮官」はこう述べていた。

「これからルヴァンカップ、天皇杯が続きますけども、まだギラギラした選手たちが他にいます。そういう選手たちにもチャンスを与えながら、どういうチョイスならば勝ち上がれるのかどうか考えて、しっかりともう1回勝負をさせながら、次(6月15日)のマリノス戦に向けて再構築できるようにやっていければと思います」

 町田が危機感を失わず、隙のない戦いを続けられれば、上位争いに踏みとどまれるだろう。とはいえ、それは決して容易な努力ではない。J2とJ1ではレベルが違うし、勝負は過去の成功がその次の成功を保証するような甘い世界ではない。新潟戦に限らず町田の「負けパターン」も可視化されつつある。首位とはいえ、まだ付け込む隙のある、経験不足で発展途上のチームだ。

 町田の減速を願う2位以下のサポーターにとっては、6月以降への希望となる新潟の戦いだったに違いない。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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