優勝に向けてゴールへの意欲を燃やす冨安 覇権争いから脱落して無言の遠藤とは対照的に…
暫定ながら首位に立つアーセナルは宿敵トットナムに勝利。5日前のチェルシー戦に続いて左サイドバックでスタメン出場した冨安も勝ち点3獲得に貢献した 【Photo by Clive Rose/Getty Images】
クロップ監督が事実上の敗北宣言
4月24日、伝統のマージーサイド・ダービーで後半40分を過ぎたあたりから、グディソン・パークを埋めたブルーの人波が2-0での勝利を確信すると、大声でこのチャントを何度も何度も繰り返して歌った。
記者席には入れず、エヴァートン・サポーターに囲まれた一般席で試合を観戦した筆者は、まるで動物園の檻のなかに放り込まれたような気分になった。
憎きリバプールの息の根を止めた。いつも俺たちを見下しているレッズに痛恨の一撃を食らわせてやった。そんなジャイアント・キリングの愉悦も手伝い、エヴァートンのサポーターはそろって雄叫びを上げながら、顔をくしゃくしゃにしてチームの完勝を心底喜び、記者団にもセレブレーションを強要した。
筆者は能面のように無表情だった、と思う。目の前ではしゃぐエヴァートン・サポーターの様子に現実感がなく、全てがスローモーションのように見えた。それは彼らの歓喜に心を完全に砕かれたからだろう。心が現実を拒否したのだ。しかも繰り返し繰り返し「お前らはグディソン・パークで優勝を逸した!」と叫ぶように歌われ続けたせいで、その夜、この強烈なチャントの文句が耳にこびりついた筆者に安眠は訪れなかった。
イングランドの勝者はどうしてこうまでも増長できるのだろうか。ついこの前まで残留争いをしていたチームにどうしてここまで見下されなくてはならないのだろう。
確かにこの1敗は致命的だ。けれどもシーズン終盤まで別次元の強さを発揮して、アーセナルとマンチェスター・シティとの三つ巴のタイトルレースを戦ってきたリバプールに対する敬意はないのか? もしくは、同じ街のチームが優勝の望みがなくなったことに対して哀れみはないのか?
全くないのである。まるで自分たちが優勝したかのような大騒ぎだった。よくもまあ、ここまで無邪気に喜べるなと思った。けれどもその一方で、リバプール・ファンはチームが不振に苦しんだ昨シーズン、マンチェスター・ユナイテッド相手の7-0の大勝劇で大いに溜飲を下げたことを思い出した。欧州において愛するチームの勝利、特に憎きライバルチームからの1勝はサポーターの憂鬱を吹き飛ばし、大喜びさせる力があるのだ。
それはさておき、リバプールが優勝争いから完全に脱落したことは間違いなかった。4月14日にホームで行われたクリスタル・パレス戦で0-1の敗北を喫した段階で、すでに本命から3番手に落ちていたと思うが、アンフィールドとは公園を挟んだ直線距離で600メートルしか離れていないグディソン・パークで負けて、完全に引導を渡された形になった。
ユルゲン・クロップ監督も「もう優勝争いに関して話すことはできない」と試合後に語って、事実上の敗北宣言をした。
4月の急失速はスタミナ切れが原因
今季のリバプールには遠藤を含めて加入1年目の主力が少なくない。心身ともに尋常ではないエネルギーが要求されるクロップのサッカーを毎試合実践し、疲労が蓄積してスタミナが切れてしまったのかもしれない 【Photo by Robbie Jay Barratt - AMA/Getty Images】
どうしてこうも急激に失速したのか?
3月の代表ウイークが終わった時点では優勝候補の筆頭だった。それが4月に入りマンチェスター・Uと2-2で引き分けると、ホームでクリスタル・パレスに0-1と惜敗。フラムとのアウェー戦でなんとか持ち直したように見えたが、このエヴァートン戦で力尽きた。
この間、ヨーロッパリーグでもホームでアタランタに0-3の負けを食らった。
試合を現場でつぶさに見てきた筆者の感想を端的に言えば、スタミナ切れだ。体が動いていない。プレミアリーグという苛烈な戦場で勝ち続けるには、パワーがいる。とてつもないパワーだ。しかもそれは心身ともに要求される。
相手より鋭く速く力強く選手が動き、同じようにボールを動かす。そのための集中力と信念。そうしたものが4月のリバプールには決定的に欠けていた。
それはやはりクロップ・リバプールの1年目という選手が多かったこともあるだろう。肝心な時期にきて過激なヘビーメタル・フットボールに疲れ、フィットネスが足りなくなった。
また最近のドイツ人闘将は疲れ切っているように見えた。会見でも頬杖をついて質問を聞いていた。ほとんど抜け殻に近い状態なのかもしれない。
それに今季限りの勇退を早めに明かしたことが、ここにきて仇となったのか。辞めることを公言したボスに、優勝に向かって目の色を変えて選手を叱咤激励する力が残っていたとは思えない。