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優勝してレジェンドになる! 全身全霊で勝利に貢献した冨安が最終節に望みをつなぐ

森昌利

真のトップレベルに到達したことの証

今季も怪我に苦しんだ時期があったが、ここ4試合は全てスタメン出場。世界最高峰のリーグで熾烈な優勝争いを繰り広げるアーセナルで、レギュラーとして存在感を示している 【写真:REX/アフロ】

 体が重く感じたが、「失点せずに、まずは前半を終わらせることができた。前はしっかりと得点するクオリティを持っている。後半、最後の方にいくにつれて集中力も上がってきた。今日もクリーンシートで抑えることができて良かったと思います」と語り、万全ではないコンディションでもチームのクリーンシートに貢献して、DFとしての役目をしっかり果たしたことに安堵していた。

 これぞ優勝争いをするチームの“醜い勝利”。冨安だけでなく、絶対に勝たなくてはならない試合を重ねているアーセナルの選手の疲労は、身体的なものだけではなく、精神的にもピークに達しているはずだ。しかしそれでも気力を振り絞って勝つ。

 10カ月近くに及ぶ38試合の過酷なマラソンレースで最終的に優勝するには、コンディションの良くない試合でも勝ち点3にこだわり、ミスのないプロフェッショナルなパフォーマンスを見せて勝つことが求められる。しかも世界最高峰のプレミアリーグの舞台で。冨安はそんな真のプロに成長したのだ。

 この事実は筆者にとっては感慨深いものがある。今季で23季目のプレミアリーグの取材となったが、こんなに早く日本人選手がイングランドの1部リーグ、しかも優勝を争うチームの主力になるとは思わなかった。

 フィジカルでスピーディーな真剣勝負を基盤にした発祥国のフットボールは、線が細い日本人選手とは本当に相性が悪いと感じていた。

 ところが3年前に冨安が来て、昨季に三笘薫が彗星のように現れ、さらに今季は遠藤航までがこのリーグでしっかりと存在感を示した。

 たしかに怪我もあったが、冨安は健康体でさえあれば、今季の欧州チャンピオンズリーグで8強に入り、プレミアリーグの優勝争いを最終戦まで争うチームでレギュラーを張る選手になった。これは真のトップレベルに到達したごく一握りの選手だという証である。

冨安は力強く「歴史に名を刻みたい」

優勝を渇望するサポーターは敵地オールドトラフォードで声援を送り続け、試合後もチャントを歌い続けた。5月14日に行われた順延分の試合でマンチェスター・Cが勝ち、アーセナルは2ポイント差の2位で最終節を迎えることになったが、果たして彼らの望みは叶うのか 【Photo by Robbie Jay Barratt - AMA/Getty Images】

 25歳にしてここまでの選手に上り詰めた冨安は、「自分が描いた青写真通りだったのか?」と聞かれると、「いや、そこまで先のことを見てここまで来たわけではありません」と話し出した。

 だが続いて、「日本人としてという枠だけでなく、(プレミアリーグは)間違いなく世界で最もレベルの高いリーグと思いますし、そのなかで最後の試合まで優勝争いをできるというのは、本当に誰しもができる経験ではないと思っています」と言って、強いチームの一員であることに感謝と誇りを示すと、「あとは、アーセナルの歴史を見ても、タイトルを取れば歴史に名を刻むことができます。歴史に名を刻めればいいなと思います」ときっぱりと言って、マンチェスター・Cとの激しく厳しいタイトルレースを勝ち抜き、北ロンドンの超名門クラブのレジェンドとなることを誓って、オールドトラフォードを後にした。

 冨安の取材を終えて、プレスルームに行くためにスタジアム内に戻ると、試合が終了して小一時間が過ぎたというのに、アーセナル・サポーターがアウェー席を立ち去らず、有名な『One-nil to the Arsenal(1-0で勝つアーセナル)』のチャントを歌い続けていた。

 試合終了間際にまさしく青天の霹靂で、雷鳴鳴り響く大雨になったが、外に出てもずぶ濡れになることを考えたら、かつての最大の宿敵のスタジアム内で雨宿りをしながら勝利の歌を歌い続けたほうがマシだった。

 1990年代半ばにこのチャントが歌われるようになった頃は、守りに重点を置いた厳格な指導で1-0の勝利を重ね、アーセナルに2度のリーグ優勝をもたらしたジョージ・グラハム監督の時代だった。

 その時には、強いことは強いが、退屈だったフットボールに対する皮肉もチャントに込められていたという。けれども今のチームに対しては先制した時のセレブレーションとして歌う。

 しかしこの日は、前半20分から試合終了の1時間後まで、アーセナル・サポーターは声が潰れるまで「One-nil to the Arsenal!」と歌い続けて、純粋に1-0勝利を祝福すると、最終戦まで優勝を夢見ることができる喜びに思う存分浸っていた。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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