ガンバの最終ラインを支える新DFリーダー 中谷進之介が川崎Fの強力アタッカー陣に立ちはだかる

下薗昌記

グランパスからガンバに加入した中谷進之介(中央)は、守備のリーダーとしてチームにフィットしている 【(C)GAMBA OSAKA】

 今季、名古屋グランパスからガンバ大阪に完全移籍で活躍の場を移した中谷進之介。名古屋で不動のCBとして活躍を見せていた彼に与えられたタスクは、昨季J1ワーストタイの失点数に甘んじたガンバ守備陣の再建だ。序盤9試合でわずか7失点と明らかに2023年と異なる姿を見せ始めているチームを、中谷はどのように見ているのか。ガンバ復調の理由を聞いた。

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昨年の失点数の多さを自分のモチベーションに変えた

――まだシーズンの序盤で、リーグ戦は9試合を終えた段階ですが明らかにガンバは昨季と異なる姿を見せ始めています。その中心にいるのが9試合で7失点(取材は4月22日)という堅守を支えている中谷進之介選手だと思いますが、ご自身のここまでのパフォーマンスについてはいかがですか。

 そう思っていただけるなら嬉しいですし、その期待を背負って僕はガンバに来たと思っています。シーズンの開幕前には、少しプレッシャーに感じることもありましたけど、ただ、そんなプレッシャーを今、すごくやりがいに感じられています。このチームを本当に変えたいという思いは一段と強くなってきましたね。

――昨シーズンはJ1リーグでワーストタイの失点数に甘んじたガンバでしたが、実績あるCBとして加わることへの重圧もあったのではないですか。

 いえ、逆に目に見える失点数の多さがありましたから、そういう状況を変えられたら自分の評価にもつながるなと思いましたし、楽しみでもありましたね。ここまでのリーグ戦はすごく組織的に戦えていると思っていますし、浦和戦に関しても僕と(三浦)弦太くんの存在で堅い試合展開に持っていけました。ああいう試合展開は理想ではありませんし、もう少し自分たちからアクションを起こしていく守備をしたいですが、浦和戦のような状態でも大崩れしないのは今の良さだと思いますね。

――浦和戦はまさに、昨季終盤のガンバとは違う守備力の勝利とも言える試合展開でしたが、CB陣としては力の見せ所という思いもあったのではないですか。

 そうですね。あの試合は、逆に割り切っちゃうというか、僕らのところで守り切ればいいよね、と思っていました。ただああいう試合展開をずっと続けてしまうと、どこかで失点する可能性があるので、理想的ではないですよ。

――柏や名古屋時代からも特徴でしたが、中谷選手の持ち味はやはり個の強さを生かした守備だけでなく、自ら奪いにいく攻撃的なCBです。また、相手に絶対にやらせないというオーラが見ていても伝わるのですが、ご自身のスタイルをどう感じていますか。

 僕は読みを生かしながら、前に奪いに出て行くところはストロングポイントではあると思うので、それを生かしながらやっています。相手にやらせない、という振る舞いは意識していませんけど、多分、自分の内側からにじみ出るパワーというか、そのエナジー的なものがあるとは思っています。それがいい方向で外にも出ているのかなと思いますね。

チームは皆で作っていくもの 厳しいリーダーを装うことはない

中谷のDFリーダー像は、チームの皆で良くしていくこと。無理をして怒らないようにしている 【(C)GAMBA OSAKA】

――ガンバが強かった時代には山口智さん(現湘南監督)や岩下敬輔さんら、最終ラインにチームをピリッと引き締めることが出来るDFリーダーが在籍していました。今季のガンバの最終ラインにも、当時の雰囲気を感じるのですが、味方を引き締める役割も意識されていますか。

 僕はどっちかというと味方に厳しいことを言ったりとか、ピリッとさせる役割については、あまり意識していないんですよね。それよりもチームの皆で良くしていきたいタイプですね。チームの方向性から外れているような選手がいた場合は、厳しく言うのはもちろん必要ですけど、どちらかっていうと、チームは皆で作っていくモノだよ、と思っているので僕が誰かを叱ったりしようなんて全く思っていないです。

――ただ、今季勝利した試合でもマークの甘さなどについて、中谷選手が明らかに指示したり、声を出したりしている場面もありますよね。

 明らかにおかしいというか、その選手のミスというプレーには指摘はしますし、その場面は叫んでますよ(笑)。でも、無理をして怒っていませんし、取り繕って厳しいリーダーを装うことはないですね。

――福岡将太選手が「(宇佐美)貴史くんだけでなく、中谷くんらリーダーシップを取れる選手が入ってきて今季のロッカールームは日頃からいい意味でうるさい」とチーム内でのコミュニケーションが活発になったと話をしていました。ピッチ外で中谷選手が果たす役割も多そうですね。

 コミュニケーションは元々、嫌いじゃないし、僕は声もデカいので(笑)。皆と楽しくやれているのも、いい点ですね。

ガンバは優勝するべきチーム このチームでもっと勝ちたい

大阪に身を移して数試合を経験した中谷(右)は「ガンバは優勝するべきチームだと思うようになった」と話す 【(C)GAMBA OSAKA】

――柏でデビューし、名古屋時代も含めて様々な監督のもとで、様々なスタイルを経験している中谷選手ですが、昨季成績が良くなかったガンバにあえて移籍してきた理由を聞かせてください。

 名古屋から出るという選択をして、そこからチームを選び始めました。ガンバが昨季、本当に苦しんでいたのは、分かっていました。先ほども話しましたけど、どれだけガンバを変えられるかというのは僕のキャリアにおいてすごく大事かなと思って決断しました。

――過去には強い時代のガンバとも対戦されていますが、ご自身が移籍して、もう一度強いガンバを作ることに貢献したいという思いもあったのですか。

 移籍する前は全然、そういう思いはなかったですね。もちろん、ガンバで勝ちたいという思いはありましたけど、僕がガンバを強くしたいっていう思いはあんまりなかったですね。ただ、ガンバに来て実際に試合をこなしたり、大阪の地で過ごしながらガンバを眺めると『もう一回、ガンバを優勝させたいな』とか『優勝するべきチームだな』って思うようになりました。試合を重ねるたびに、もっとこのチームで勝ちたいなって感じる日々です。

――ガンバは優勝すべきチーム、と感じた理由を聞かせてください。

 やっぱり、大阪の街にいると、深いサポーター、熱狂的なサポーターの方が多いと感じますね。そういう方のためにも勝ちたいと思うし、クラブの規模的にも大きいものはあるのでガンバはやっぱり、上に行くべきだと思います。

――対戦相手としてはパナソニックスタジアム吹田のピッチを経験していますが、改めてホームの選手として後押しを受けられる雰囲気はいかがですか。

 やり甲斐を感じてピッチに立てますね。あのスタジアムでプレー出来るのはすごくアドバンテージになります。アウェイのチームもモチベーションは高く来ていると思いますけど、それに負けず、僕らもいいパフォーマンスを今年は出来ています。本当に、ホームで負けないチームを作りたいですね。

――柏のアカデミー時代から戦術的なサッカーを経験し、名古屋時代にはイタリア人のマッシモ・フィッカデンティさんや長谷川健太監督など様々な指揮官のもとで、様々なスタイルを経験されています。スペイン人監督のダニエル・ポヤトス監督のサッカーについて感じることを聞かせてください。

 もっと、堅苦しいというか……。言い方は悪いですけど、スペイン人の監督ってポジションを決めて、それに合わない選手は使わないっていうイメージがあったんですけど、ダニ(ポヤトス監督)は柔軟というか、選手の意見も尊重してくれます。ただ、相手に対してのやり方とか、戦術はしっかりしている中で、個人の裁量も大きいので、そこは意外でしたね。

――中谷選手は実績も経験も豊富な選手ですが、スペイン人監督のもとでプレーすることで新たに得た気づきや、選手として感じるところはありますか。

 これは思い出す感覚という感じですが、ビルドアップ面ですね。あとは、ラインコントロールですね、意外とダニが言うのは。ラインコントロールのところは、すごく細かく言われていますし、アグレッシブな守備という点でコンパクトさを保つことは求められています。改めて、そこは大事だなっていうのは気付かされていますね。

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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