「心はひとつ」涙と笑顔があふれた藤井直伸さんの追悼試合 それぞれの心に生き続ける思いと新たな誓い
負けられないレギュラーラウンド最終節
3月16日、故・藤井直伸さんの追悼試合が行われ妻の美弥さんも駆け付けた 【写真:田中夕子】
「心はひとつ」
背番号21、藤井直伸選手が両手を広げ、満面の笑みを浮かべた写真だ。
3月16日、東レアローズ対VC長野。今季最後の東レのホームゲームはレギュラーラウンド最終節、ファイナル6進出を決めるだけでなく、どうしても勝ちたい理由があった。
この日は昨年3月10日に31歳で永眠した藤井直伸選手を偲ぶ、追悼試合だった。
特製ユニフォームで勝利、コートに響いた言葉
「負けられない」という藤井選手への思いと、ファイナル6へのプレッシャー。第1セットの序盤はVC長野が先行したが、高橋健太郎のサーブからパダル・クリスティアンのサーブでブレイクを重ねた東レが中盤に逆転、第1セットを27対25で制すると、2、3セットも連取しストレートで勝利を収めた。
勝利の余韻が残るコートで、チーム最年長の米山裕太は喜びを語ると共にこの日が追悼試合でもあったことを向けられると、笑顔で叫んだ。
「藤井、やったよー!!」
ビッグフラッグが掲げられた沼津・香陵アリーナでストレート勝利を収めた 【写真提供:東レアローズ】
その後、選手を代表して峯村雄大主将がマイクを持ち、会場へ向けて語りかけた。
「今日の試合は藤井さんの追悼試合。皆さんで一緒に、生前の藤井さんを思い返してみて下さい。どんな姿が思い浮かびますか?」
新人の頃にミスをして怒られたこと、華麗なトスワーク、酔っぱらった藤井選手に真夜中に起こされたこと。さまざまなエピソードに、生前の藤井選手の姿を重ねる。まるですぐそばに、今にも「呼んだ?」と藤井選手が出てくるのではないかと錯覚すら抱く中、峯村主将に続いてマイクを持ったのがハンガリー出身のオポジットで2020年から東レに在籍するパダルだ。「藤井さんとの思い出を皆さんとシェアしたいので、少しお時間をいただきたい」と通訳を介し、約10分に及んだスピーチは、飾り気のないストレートな言葉で、愛情と感謝と敬意が溢れていた。
10年に及ぶプロ生活の中でさまざまな国に渡る中、日本語を理解することは難しく、言葉の壁を常に感じていた、と振り返るパダルに対して、積極的にコミュニケーションを取りに来てくれたのが藤井さんだった、と振り返る。
「彼は日常の中でもいつもバレーボールのことを考えていて、私に対してもどんなボールが欲しいのか、いつも聞いてくれる選手でした。『自分のことは心配しなくていいから、やりたいようにやってくれ』と伝えていましたが、彼(藤井選手)は個人的にバレーボールノートをつけていて、練習や試合の前、常に自分の頭を整理して準備していた。チームのために、ベストを尽くすために苦しむ姿をいつも見ていました。そして敗れた後、『本当にごめん』とみんなに謝っていた姿を今でも覚えています。どうしたら彼を助けられたのか。今でも、後悔があります」