連載:サッカーIQと野球脳

DeNA大貫、西武の松本航らプロで活躍する教え子は“何が違った”のか 日体大・辻孟彦コーチが考える「賢い投手」

2015年から日体大の投手コーチを務め、DeNAの大貫、西武の松本らを指導した辻氏は、どういう選手のことを「頭が良い」と考えているのか 【写真は共同】

 現代の野球界では以前と比較して「考える力」がより必要とされるのは確かだろう。それでは、プロ野球選手となり、その世界で活躍するプレーヤーはアマチュア時代から「賢さ」が際立っていたのか。現役時代に投手として中日でプレーした経験を持ち、引退後は日本体育大の投手コーチとして大貫晋一(DeNA)、松本航(西武)、東妻勇輔(ロッテ)、矢澤宏太(日本ハム)らを育てた辻孟彦コーチに、自身が考える「頭の良い選手」、教え子たちの大学時代について話を聞いた。

自分のことを自分で一番分かっている選手

――辻コーチが考える「頭の良い選手」、「野球脳のある選手」とは、どんな選手でしょうか?

 一口に「賢い」と言っても、色んな選手がいると思います。よく言われるのは、試合で相手の投手や打者のデータが頭に入っているとか、打者の特徴やスイング、バットを短く持っているとか、そういった細かいしぐさに気づけるとか。

 もちろん大切なことですが、これらは試合の中でのこと。僕は「自分のことを、自分で一番分かっている」という選手が頭の良い選手だなと思っています。

――自分のことを分かっている、とは例えばどんなことでしょうか?

 指導者から教わることや、今の時代はSNSから情報を得ることもあると思います。これらを活用して豊富な知識を得ることは大事です。ただ、聞いたまま、書いてあるままに受け取るのではなく、自分の言葉に変換する作業が大事だと思うんです。

 例えば、SNSで動画を見て、「これ、いいな」って思うことはよくあると思うんですけど、それも自分の体に置き換えて、自分の特徴やクセがこうだから、この部分だけ取り入れようとか、この部分は合わないとか。「自分」を知った上で、必要な部分を取り入れる。それが「自分のことが自分でよく分かる」ということだと思います。

――様々な情報に簡単に触れられるからこそ、「自分の特徴を知り、取捨選択する力」が必要ということですね。

 はい。ただ、今のは「知識を受け取る側」の姿勢のことです。うまくなる、成長するためには「他者からの学び」だけではなく、「自分の体験から学ぶ」ことがとても重要だと思います。

 指導者、先輩、SNSから教えてもらって、それをやるだけではダメで。やっぱり、自分の体験ですよね。試合で投げて感じたこととか、動いて感じたこととか。成功して、失敗して、それを反省して、吸収して。さっき言ったような自分の考え方も混ぜて、自分なりの答えを出していく。自分で自分を「進化」させる、という姿勢が大切な要素だと思います。

コーチとしてあまり言うことがなかった大貫

現在ロッテに所属する東妻に対しては、気持ちの強さという長所を消さないために、なるべくシンプルな表現を使って指導していたという 【写真は共同】

――DeNAの大貫晋一投手や西武の松本航投手ら、辻コーチがこれまで指導され、プロ野球で活躍している選手が何人もいますが、彼らはそういった能力が高かったのでしょうか?

 そうですね。例えば大貫は僕のイメージだと、練習が好きなタイプではないと思うんですよ。トレーニングより、試合が好きなタイプでした。試合に投げると、その試合で感じて、「次はこう投げた方がいいな」とか、「こういう球を投げたら打たれたから、次はこうしよう」という振り返りがすごくうまかったです。その辺の「頭の良さ」というのは、ちょっと抜けていましたね。

 だからこちらは、試合で出た反省点を挙げながら「そのためには、体力トレーニングをしないとパフォーマンスが持たないよね」とか、「じゃあ、ブルペンで投げ込みをしないとこういう力は身につかないよ」とか、試合から練習の意欲をかき立てるように持っていきました。

――みんなが大貫投手のようなタイプではない?

 これは「頭が良い」とはまた違うのかもしれないですが、東妻勇輔(ロッテ)は大貫とは全然違います。東妻は「負けん気の強さ」とかそういうタイプです。練習で「こいつに勝ってやろう」とか、「こいつより練習してやろう」とか。同級生に松本航がいて、松本の方が早くからリーグ戦で投げていました。だからあえて松本の近くにつかせたり、松本が先発するときにボールボーイにいかせたり。

――対照的でおもしろいですね。大貫投手の要素と、東妻投手の要素を兼ね備えていたら「最強」だと思いますが、東妻投手に大貫投手の要素をプラスするように指導はされたのですか?

 大貫はこっちが細かく言わなくても、聞いたら全部答えるようなタイプですよね。「こう投げたらこうなりました」と。コーチとしては、僕が感じた目線でちょっと付け加えるくらいしかやることがありませんでした。東妻の場合は、「松本よりストレートが速かった」「三振をいっぱい取った」とか。そのあたりは、こちらが「あの場面でこういう変化球を投げたらもっと楽に抑えられる」とか「もっとこうしたら鬼に金棒だよ」みたいにして、一つひとつ言っていました。

 ただ、大貫のように、本当に細かいところまで考えさせると、東妻の良さがなくなってしまう可能性もあります。「左バッターのインコースにスライダーを投げて三振を取ったことがないから、次の試合はここで取ってみようか」とか、シンプルな感じで。それくらい簡単にしてもいいほどの爆発的なボールを投げていたので、東妻は。

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