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キャッチャーのリードは重要なのか? “メジャー化”の波のなかで投手主導の時代が到来!?

平尾類

近年は以前と比べて捕手のリード面がクローズアップされることが少なくなった。その背景にあるものは? 【写真は共同】

 日本球界では長く、キャッチャーのリードが重視されてきた。しかし、海の向こうのメジャーリーグでは投手が主体的に球種やコースを決めるのが一般的で、近年は日本でも投手主導の考え方が浸透してきている印象だ。キャッチャーのリードの重要性について、いま一度考えてみたい。

ダルビッシュも大谷も自ら投球を組み立てる

メジャーでは以前から投手主導で投球を組み立てるのが主流だったが、昨季のピッチコム導入により、その傾向が一層強くなった 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 捕手のリードは本当に重要なのか――。日本球界では捕手の極めて重要な能力として、リード面がフォーカスされてきたが、その風潮に変化が生まれてきている。これはメジャーリーグの考え方も大きく影響している。

 米国では捕手主導で配球を組み立てるのではなく、投手が主導権を握って投げるスタンスが主流だ。打者の強みと弱点、打球方向や球種別・コース別の打率など細かく解析できる時代になり、投手は事前に入念にデータを調べて凡打や空振りの可能性が高い球種、コースを選択する。ベンチから配球の指示が頻繁に送られることも珍しくない。捕手はリード面よりブロッキング、フレーミング、肩の強さ、打力が重視される。

 試合時間短縮の観点で、昨季からルール改定で「ピッチコム」(サイン伝達器)が導入されたことも、メジャーで「投手主導」の流れに拍車をかけている。ピッチコムは投手、捕手、そして最大3人の野手が着用し、次の投球に関する情報を共有することができる。昨季、ダルビッシュ有(パドレス)も大谷翔平(当時エンゼルス、現ドジャース)も自ら球種を選択し、投球を組み立てていた。

 メジャーでは昨季から走者なしで15秒以内、走者がいる場面は20秒以内に投球動作に入らなければならず、時間を超えれば1ボールが加えられる「ピッチクロック」という新ルールが取り入れられた。ピッチコムの導入はその新ルールを受けてのもので、特に球種が多い投手はサインの交換で時間制限に間に合わないという状況を避けられる。

ピッチクロック導入の社会人野球では困惑する選手も…

社会人野球では昨季から公式戦でピッチクロックを導入。実際に試合時間が短くなり、一定の効果が見られたとして今年も継続される見込みだ 【写真は共同】

 ピッチクロックは、日本の社会人野球でも昨季から公式戦で導入されている。投球間の制限時間は走者がいない場合でメジャーより3秒短い12秒以内、走者がいる場合は20秒以内に投球動作に入らなければいけない。これを超えた場合は1回目に警告、2回目はボールがカウントされる。関東の社会人野球チームに所属する捕手は複雑な表情を浮かべる。

「なかなか慣れないですね。制限時間がマウンドから見える位置に表示されるので、打者に集中できていない投手が多い。『自分のリズムで投げることが大事だから過剰に意識するな』と伝えましたが、数字が目に入るとどうしても気になる。野球は間のスポーツです。捕手が打者の仕草や心理を探ってリードをして、駆け引きをして抑える。時間制限があると、サイン交換の回数も限られるので野球本来の醍醐味が失われてしまうように感じます。時間短縮の観点でファンが受け入れているなら何も言えませんが……」

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著者プロフィール

1980年4月10日、神奈川県横浜市生まれ。スポーツ新聞に勤務していた当時はDeNA、巨人、ヤクルト、西武の担当記者を歴任。現在はライター、アスリートのマネジメント業などの活動をしている。

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