連載:サッカーIQと野球脳

DeNA大貫、西武の松本航らプロで活躍する教え子は“何が違った”のか 日体大・辻孟彦コーチが考える「賢い投手」

選手が「自分を知る」ために実践している工夫

若くして指導者となり、何人もの選手をプロに送り出してきた辻コーチ。成長するためには他者からの学びだけでなく、「自分の体験から学び、自分なりの答えを出していく」のが大切だと説く 【画像提供:山口史朗】

――タイプは違いますが、この2人への辻さんの指導をお聞きしても「自分の体験から自分を成長させる」ように導かれているなと感じます。

 SNSなどで選手自身の知識量という点では昔よりも多くなっていますけど、だいたいは何かから得た情報なだけで、自分が体験して得たわけではない。自分で体を動かして、試合で投げて、そこから深く振り返ったり、練習でやるべきことを考えたり。そういう選手の方が成長しているなと感じます。

――「自分を知る」ために、指導の中で工夫されていることはありますか?

 我々が選手の頃に比べて、「書く習慣」もたぶん減っていると思います。なので、今年2月にあったキャンプでは1軍の投手全員と、学生コーチ4人に毎日ノートを書いて提出してもらいました。それに僕がコメントを書いて返す、という形で。

――いわゆる野球ノートですね。

 ただ言われたことを書くんじゃなくて、そこで自分の言葉に置き換えたり、自分の中で自分と向き合って、言われたことをどう生かすか、というところまで書いたりとか。去年のキャンプからやったのかな。ただの「知識」だと、今はスマホでスクショして引用したり、誰かが言っていることをそのままメモするだけになる。そうじゃなくて、自分の思い、考えを入れて書くことで、「頭の良さ」というか、「考える力」も育つんじゃないかと。「省察する」ということですね。

――ノート以外にもありますか?

 選手への質問の仕方も「はい」「いいえ」では答えられない聞き方をするようにしています。「今日良かったな」とか「ダメだっただろう」だと、答えの選択肢が狭いじゃないですか。そうじゃなくて、「オープンクエスチョン」と言って、「今日のピッチングはどこが良かった?」「それはどの場面?」というふうに聞けば、選手が答えを自分で探すので。自分で答えを導くというところは、これまでの話と共通するところかなと思います。

ずっと考えているから飽きずに継続できる

中日でチームメイトだった山本昌投手のように、プロで一流と言われる選手は「継続力」がとても高いという。飽きずに継続できるのは「ずっと考えているから」とも 【写真は共同】

――最後に、辻さんはコーチになる前、プロ野球の中日でプレーもされました。プロの中で、「野球脳」の高さを感じた選手や、場面はありましたか?

 やっぱり、活躍されている選手には「継続力」がすごくありました。技術って、同じことを繰り返さないと身につかないと思うんです。反復練習をしないと。特に投球フォームで、「意識してできる」っていううちはまだ自分の身になっていない。無意識に何も考えなくてもその動きができる、という状態にするには、反復練習をしなければいけない。

 ただ、すぐ飽きる選手も多い。集中力が薄れて、ただこなしているだけになる。特に今は色んな情報に触れられてしまうだけに、「あ、こっちやりたい」「これもやりたい」っていう誘惑も多くて。

――飽きずに継続できる選手というのは、同じ練習でも日々考えながらできているということでしょうね?

 そうなんです。「もっとこうしないと」とか、「こうやったほうがうまくなれるかな」とか、「もっとこういう動かし方を」とか。ずっと考えてるから飽きないし、継続できる。それが自分に必要なことだって分かってるってことですよね。できる選手とできない選手で、すごく差が出ます。中日だと、やはり山本昌さんの継続力が抜けていました。誰よりも長くプレーされた方なので、継続することがどれだけ大事か、説得力がありますよね。

(企画・編集/YOJI-GEN)

辻孟彦(つじ・たけひこ)

1989年7月27日生まれ、京都府出身。京都外大西高では3年夏に投手兼一塁手として甲子園出場。日本体育大に進学後は投手に専念し、2年から先発に定着すると、4年春には首都大学リーグ新記録の10勝を挙げて(うち5完封)チームを優勝に導き、MVPに輝いた。大学通算22勝18敗、防御率1.94の成績を残し、2011年ドラフトで中日に4位指名されてプロ入り。2年目の13年に1軍デビューして13試合に登板したが、翌14年シーズンをもって現役を退いた。引退後は指導者に転身し、15年に母校・日体大の投手コーチに就任。これまでに大貫晋一(DeNA)、松本航(西武)、東妻勇輔(ロッテ)、矢澤宏太(日本ハム)ら、のちにプロ選手となる投手を何人も育てた。

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著者プロフィール

朝日新聞東京本社スポーツ部記者。2005年に朝日新聞入社後は2年半の地方勤務を経て、08年からスポーツ部。以来、主にプロ野球、アマチュア野球を中心に取材をしている。現在は体操担当も兼務。1982年生まれ、富山県高岡市出身。自身も大学まで野球経験あり。ポジションは捕手。

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