キャッチャーのリードは重要なのか? “メジャー化”の波のなかで投手主導の時代が到来!?
古田、谷繁ら「グラウンド上の司令塔」
球種やコースなどをキャッチャー主導で決めるという考え方を確立したのは、南海の名捕手だった野村氏だろう 【写真は共同】
この時代からテレビ、新聞などメディアで捕手のリード面が注目を浴びるようになる。95年にヤクルトがオリックスと対戦した日本シリーズは、対決前に「古田vsイチロー」で話題に。キャスターや専門家たちがストライクゾーンの9分割のボードを取り出して、古田がイチローにどのような配球で攻めるかを予想。米国では考えられない光景だっただろう。
捕手の配球術が注目される時代になり、古田に続いて谷繁元信(元横浜、中日)、矢野燿大(元中日、阪神)、阿部慎之助(元巨人)が「グラウンド上の司令塔」として評価を高めた。セ・リーグの捕手の配球術が話題になったのは、狭い球場が多かったことが影響していた。力勝負でなく、変化球を効果的に使わなければスタンドに運ばれる。外国人で史上初の2000安打を達成したアレックス・ラミレスは、日本とメジャーの野球の違いをこう振り返っている。
「日本の野球は捕手が試合をコントロールしているんだ。例えば谷繁さんと他の捕手ではリードが全く違う。だから来日2年目から試合後に全打席を映像で見直し、捕手の配球を毎日分析したよ」
投手の立場から見た捕手のリードの重要性
藤井氏はヤクルトで女房役だった古田氏を「インコースを使うのがすごくうまかった」と評する。自身の経験も踏まえ、捕手のリードはこの先「重要性がさらに高まる」と見ている 【写真は共同】
ヤクルトで2001年に最多勝を獲得し、現在は独立リーグ・大阪ゼロロクブルズで監督を務める藤井秀悟は違った見方を示す。
「ダルビッシュ投手、大谷投手のように全ての球の質が高く、多彩な変化球を持っている投手は別として、球が速いから抑えられるという問題ではないと思います。打者はバッティングマシンで速い球を打ち込めるし、読みを外さないと抑えられない。僕は球が遅かったので、捕手の配球術なしでは勝てなかった。
ヤクルト時代にバッテリーを組んだ古田さんはインコースを使うのがすごくうまかった。このカウントで続けるのかと驚かされたこともありました。僕が主導だったら外角に逃げちゃう。打者の反応を見ながらインコースを突くタイミングが絶妙で。3打席、4打席対戦するなかで逆算して全体を見て組み立てる。あの配球は古田さんにしかできない。相手打者も古田さんに意識がいっていたと思う。首振りのサインがあったけど、その時点で『古田さんは何を考えているんだろう』と思わせて集中力を削いでいましたから」
今後はピッチクロック、ピッチコムがNPBで導入される可能性がある。「投手もある程度データを叩き込まなきゃいけない。インコースのサインが出た時にボールにしていいのか、ストライクぎりぎりを突くのか。自分で考える力はいつの時代も大事だと思うし、捕手頼みは通用しない」と強調した上で続けた。
「ただ、投手は打ち込まれるとパニックになって冷静な判断ができなくなるんです。捕手は投手の様子だけでなく、打者の仕草、表情やバットの軌道などを一番近くで見ています。投手のその日の状態を考えながら、球種、コース、高さと様々な選択肢のなかで配球を組み立てる。メジャーは分かりませんが、日本で試合時間短縮の流れが進むとすれば、ハイレベルな戦いのなかで捕手のリードの重要性はさらに高まると思います」
捕手のリード面に対する評価が、今後どう変化していくか興味深い。
(企画・編集/YOJI-GEN)