駒大・大八木総監督が見た五輪マラソン代表争い 愛弟子たちには“楽しみな未来”を期待

酒井政人

スポーツナビの取材に応じる、駒澤大の大八木弘明総監督。陸上長距離界の次代を担う選手に対する観察眼は、さすがの一言に尽きる 【撮影:柴山高宏(スリーライト)】

 3月3日の東京マラソンで、男子のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)ファイナルチャレンジレースがすべて終了。昨年10月のMGCで2位以内に入った小山直城(Honda)と赤﨑暁(九電工)に続き、3位の大迫傑(Nike)がパリ五輪マラソン日本代表に内定した。

 MGCファイナルチャレンジ設定記録(2時間05分50秒)の突破を目指した選手が多数出場した福岡国際マラソン、大阪マラソン、東京マラソンの3レースを、駒澤大の大八木弘明総監督はどう見たのか。3月6日、陸上競技部の選手寮「道環寮」で話を聞いた。

大阪を制した“孫弟子” 平林清澄

 まずは昨年12月3日に行われた福岡国際から振り返ろう。マイケル・ギザエ(スズキ)が2時間07分08秒で2年ぶりの優勝。日本勢は細谷恭平(黒崎播磨)がトップ集団に食らいつくも、40㎞過ぎに引き離され、2時間07分23秒の4位に終わった。

「細谷君はMGCを途中棄権したとはいえ、ちょっと準備期間が短かった感じはしますね。そのことを考慮すると、よく走ったと思います。ただ、福岡国際で2時間05分50秒切りは難しいですよ。日本人選手の最高記録は、藤田敦史(現・駒澤大監督)の2時間06分51秒ですから」

 10月15日に行われたMGCから期間が短かったこともあり、福岡国際に参戦する有力選手は少なかった。一方で大阪は2月25日、東京は3月3日と1週間しか違わない。どちらを選ぶことが、パリ五輪への近道なのだろうか。

 大阪の大会記録は、エチオピアのハイレマリアム・キロスが昨年マークした2時間06分01秒。今年から一部コースが変更して、折り返しの数が「5」から「3」となり、上り坂も少なくなった。

「大阪は前回まではタイムが出にくいと思っていましたが、今回は平林君が好記録を残してくれました。気象等の条件が良ければ、5分台が出るようなコースだと思います。マラソンにはじめて挑むのなら、東京より大阪の方がおもしろいかもしれません」

大阪マラソンで優勝した平林清澄 【写真は共同】

 大阪はキロ2分58秒というペース設定で、トップ集団は中間点を1時間02分47分で通過。25㎞以降はペースメーカーがうまく機能せず、ペースが落ちるも、平林清澄(国学院大)が30㎞過ぎに日本人選手を引き離す。残り1㎞付近で、2時間04分48秒の自己ベストを持つスティーブン・キッサ(ウガンダ)を振り切り、日本歴代7位の2時間06分18秒でフィニッシュ。目標にしていた日本学生記録(2時間07分47秒)だけでなく、初マラソン日本最高記録(2時間06分45秒)も塗り替えた。

「平林君には前半、余裕を感じることができたし、後半も強かった。うまく流れに乗りましたね。『行けるところまでいこう』という気持ちの強さが、走りにも表れていました。大学3年生にしてマークした2時間06分18秒というタイムも素晴らしいですが、優勝したという実績が何よりも大事なんです」

「今回は25㎞でペースが落ちてしまったので、そこで押していければ、2時間05分50秒に肉薄していたかもしれない。2本目、3本目のマラソンをしっかり走り切ることができれば、真のマラソンランナーになれると思います」

 平林を指導するのは大八木総監督の教え子である前田康弘監督だけに、平林は“孫弟子”のような存在だ。

「将来が楽しみな選手を育成してくれた、前田の指導も素晴らしかったと思います。平林君は十分にスタミナを持っていると思うので、今後はスピードを強化するのでは。10000mでいえば27分30秒ぐらいのスピードが付くと、いいですね」

 大阪では教え子である村山謙太(旭化成)の走りも話題になった。

「(22km過ぎに)落とした計測チップを取りに戻りました。まだ余裕があったようですけど、謙太の真面目な部分が出てしまいましたね(笑)。そこがちょっともったいなかった。今回の経験を生かして、マラソンで成功してほしいです」

 村山の結果は2時間09分00秒の18位。自己ベスト(2時間08分56秒)を大幅更新できる可能性があっただけに、悔やまれるアクシデントとなった。

転倒とラスト5kmに泣いた西山雄介

 最終トライアルとなった東京には、有力選手が多数出場した。しかし、セカンドのペースメーカーが予定していたペース(キロ2分57秒)で引っ張ることができなかったこともあって、日本人トップ集団は5㎞を14分55秒、10㎞は29分45秒で通過。中間点は1時02分55秒で、前年2時間05分51秒をマークした山下一貴(三菱重工)の通過タイムより43秒遅かった。

「東京は序盤の10㎞が下り基調なので、前半でタイムを稼いでおかないと後半がきつくなります。日本人トップ集団のペースメーカーはギリギリのペースで走っていたので、もう少し貯金を作ってほしかった。30㎞までのタイムが、20~30秒速かったらよかったですね」

 日本人選手には悩ましいレース展開になったが、西山雄介(トヨタ自動車)が2時間06分31秒(日本歴代9位)、其田健也(JR東日本)が2時間06分54秒でフィニッシュ。世界選手権を経験している駒澤大OB勢が日本人ワン・ツーを飾った。

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著者プロフィール

1977年愛知県生まれ。東農大1年時に箱根駅伝10区に出場。陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』やビジネス媒体など様々なメディアで執筆中。『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)など著書多数。

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