駒大・大八木総監督が見た五輪マラソン代表争い 愛弟子たちには“楽しみな未来”を期待

酒井政人

東京マラソンで日本勢トップとなる9位でゴールした西山。パリ五輪代表選考の設定タイムは突破できなかった 【写真は共同】

「西山は転倒がありながら、本当によく走ったと思います。MGCファイナルチャレンジの設定記録(2時間05分50秒)まで41秒差でしたから、それさえなければギリギリのところだったのかな。34㎞付近で応援したときは、ちょっときついかなと感じたのですが、最後の5㎞でペースが落ちてしまったことも、もったいなかった。其田は暑さが苦手なので、ブダペスト世界選手権はあまり良くなかったですけど、冬のマラソンは安定していますね」

 福岡国際に続いて参戦した細谷は終盤に猛追。最後は其田に1秒差まで迫って、セカンドベストとなる2時間06分55秒の日本人3位でフィニッシュした。

「細谷君は連戦になりながらも結果を残した、本当にタフな選手だと思います。ただ、もしひとつのレースに絞っていたら、もっと良い記録を狙うことができたかもしれません」

 前回の日本人トップ・山下一貴(三菱重工)は、2時間17分26秒の46位。今回は実力を出し切れずにレースを終えた。

「山下はブダペスト世界選手権とMGCの連戦がきつかった。世界選手権に出るならMGCは回避して、東京でラスト1枠を狙った方が良かったのでは。其田も世界選手権に出場しましたが、MGCは途中棄権したので、山下よりもまだダメージが少なかったと思います」

 今後も五輪選考会でMGC方式が続いていくことになれば、五輪前年の世界選手権とMGCの兼ね合いをどうするべきなのか。しっかりと考えて、最良の選択をすることが重要になりそうだ。

実績十分の大迫傑が加わった日本代表

東京五輪で笑顔を見せながらゴールに向かう大迫傑。見事、6位入賞を果たした 【写真は共同】

 MGCファイナルチャレンジの設定記録(2時間05分50秒)を突破した選手が現れなかったため、すでに内定していた小山直城(Honda)と赤﨑暁(九電工)に続いて、MGC3位の大迫傑(Nike)がパリ決戦に向かうことになる。

「大迫君は運を持っていますね。そういう星に生まれてきたのかな。4月のボストンマラソンを走るそうですが、日本代表に選ばれようが選ばれまいが、年に2回のペースでマラソンに出場するということなのでしょう。ボストンの後は一度休んで、8月のパリ五輪を目指してトレーニングをすることになります。少し期間が短い気もしますが、大迫君にはしっかりやれる感覚があるのでは」

 東京五輪で6位入賞を果たした大迫が代表に内定したことで、大八木総監督はマラソン日本代表への期待値がアップしたと感じているようだ。

「勢いのある若手とベテランが選ばれたので、バランスは良いですね。小山君は大阪で自己ベストとなる2時間06分33秒で3位に入りました。安定感のある選手で、マラソンという競技のことを理解しはじめてきている印象です。赤﨑君は起伏のある青梅マラソンの30㎞で、瀬古利彦さんのタイムに迫る好記録(1時間29分46秒)を残しました。持ち味のスピードを生かせる選手になってきています。そこにキャリア十分の大迫君が加わった。おもしろい3人だと思います」

 パリ五輪の男子マラソンは8月10日に行われる。オペラ座やルーブル美術館、コンコルド広場など、数々の名所を通過する美しいコースだが、スタートからゴールまでの累積高低差(獲得標高)は438m。起伏に富み「五輪史上、最も困難なレースになる」という声も挙がっている。どんな展開になれば、日本勢は活躍できるのか。

「(世界選手権とは違って)オリンピックになるとケニア勢は目の色を変えてくるので、トップ集団で最後まで勝負していくのは難しいでしょう。パリ五輪は昨年のブダペスト世界選手権のように暑くなる可能性がありますが、日本勢にとってはその方がチャンスは大きくなると思います」

「また、夏のマラソン出走経験がある大迫君に対して、小山君と赤﨑君はどう対応してくるのか。終盤にペースアップしたときに、東京五輪の大迫君のように自分のペースでしっかり追いかけてほしいですね」

 なお、パリ五輪では駒澤大OBは日本代表入りを逃したが、大八木総監督は早くも“次の時代”を見据えている。

「田澤廉(トヨタ自動車)はロス五輪をマラソンで目指すと言っています。鈴木芽吹と篠原倖太朗もその頃にはマラソンに挑戦しているかもしれません。マラソンで2時間3分台を狙うなら、10000m27分台前半のスピードが必要になってきます。ハーフマラソンを59分台で走れるようにならないと、中間点を1時間02分00秒で楽に通過できませんが、うちの子たちはスピードが付きつつあります。マラソンでの活躍に期待しています」

(企画構成:スリーライト)

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著者プロフィール

1977年愛知県生まれ。東農大1年時に箱根駅伝10区に出場。陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』やビジネス媒体など様々なメディアで執筆中。『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)など著書多数。

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