パリ五輪を引き寄せたなでしこ「欧州組司令塔」の活躍 北朝鮮の特徴を逆手に取ったプレーで勝利に貢献

大島和人

長谷川唯はチームの司令塔だ 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 スポーツの世界では1試合、1つのプレーが「運命の分岐点」となり得る。2月28日の夜に東京・国立競技場で開催された試合は、日本の女子サッカーと選手たちにとって、そんな大一番だったのかもしれない。

 「パリオリンピック2024女子サッカーアジア最終予選」は日本と北朝鮮の一騎打ちで、ホーム&アウェイ方式で行われた。第1戦のアウェイ戦は相手チーム側の事情もあり2月24日に「中立地」のサウジアラビア・ジッダで開催され、0-0で終わっている。アウェイゴール制度は採用されておらず、延長戦に持ち込まれようが、PK戦になろうが、国立の第2戦が五輪出場の可否を決める大一番だった。

 最新の世界ランキングを見ると日本は8位で、北朝鮮は9位。2011年のワールドカップ優勝、12年のロンドン五輪銀メダルといった実績を持つ日本だが、北朝鮮の女子サッカーもそれと伍するレベルにある。主力の過半を占める「欧州組」の合流が直前だった日本に対して、北朝鮮はリ・ユイル監督のもと、1カ月近い合宿を中国国内で済ませて、連携やコンディションを整えた状態で大一番に臨んでいた。

 さらに日本は宮澤ひなた、猶本光、遠藤純と負傷者が相次いでいる。勝手知ったる日本国内で大一番を戦うメリットはあったはずだが、北朝鮮も在日コリアンを中心とした3千人の大応援団がチームを熱くサポートしていた。そのような中で、日本は2-1と90分で勝ち切り、パリ五輪出場を決めている。

布陣変更の狙いとは?

長野風花は長谷川唯とボランチのコンビを組んだ 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 試合を左右した大きなポイントは選手、チームの「修正力」「適応力」だった。24日の第1戦は日本の[4-3-3]が北朝鮮の[5-4-1]を崩せず、重い展開になってしまっていた。

 日本は中3日で、長距離の移動もあった中で、第2戦の布陣を[3-4-3]に変更。主将の熊谷紗希(ASローマ)を中盤の底から3バックの中央に下げた。また左ウイングバックには北川ひかる(INAC神戸)を抜擢し、右の清水梨紗(ウエストハム)とともに大外で高く張り、サイドで対面と向き合った。

 試合をコントロールしたのが長野風花(リバプール)、長谷川唯(マンチェスター・シティ)のボランチコンビだ。長野は第1戦との違いをこう振り返る。

「第1戦に無かった縦パスが入るようになって、少しずつワンタッチやフリックからの『関わり』も増えてきていた。そこは私達も修正したポイントで、まず良かったところだと思います」

 2度の大きなピンチがあった前半のラストなど、相手に流れを譲り渡した時間帯はある。とはいえ26分にセットプレーから先制したあとも、日本はボールを落ち着かせて、概ね安定感を持って試合を進めていた。

 3バックは2023年8月のワールドカップ(W杯)で経験済みとはいえ、ほぼぶっつけ本番。ただこのチームは2度の練習と、ミーティングで、しっかり擦り合わせていた。

「第1戦では後ろで回して、詰まったら蹴るという(感じで)……あまりチームとしてつながりが見られなかった。今回は[3-4-3]になって、ユイユイ(長谷川)か私のどちらかがビルドアップに関わりながら前進できた。W杯もこのフォーメーションでしたし、やり慣れているところがあったので、スムーズに試合に入れました」(長野)

 布陣変更のメリットを、長谷川はこう説明する。

「1トップに対して、距離感が近いというのが一番です。この前の[4-3-3]でも、本当はインサイドハーフが1トップの近くに入れたら良いんですが、どうしてもビルドアップで助けに行く部分があった。そこで距離が出て、田中(美南)選手が孤立して、その後につながらないシーンが多かった。今日は(上野)真実と(藤野)あおばが、(FWの)一個手前で、良いポジションを取れていた。だから空いたスペースをうまく使えたかなと思います」

 北朝鮮の最終ライン、ボランチは球際でしっかり寄せてくる。一方で受け渡しをせず、相手を離さない忠実な対応を「し過ぎる」傾向がある。日本の両ボランチは冷静に、相手が食いついてくることで生まれるスペースを利用した。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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