Jリーグを経由せずの海外挑戦は是か非か 前興國高監督が明かす高校→海外の舞台裏
若手の高卒Jリーガーは幸せじゃない!?
樺山諒乃介ら期待されてプロになった高卒Jリーガーが伸び悩む様子に内野氏は葛藤を覚えているという 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
たとえば、20年度に興國高の卒業生の5人がJリーグ行きし、うち4人がJ1の強豪・横浜F・マリノスに入団したことが話題になったことがあった。
彼らのその後を見てみると、最も期待の高かったFW樺山諒乃介はルーキーイヤーにリーグ開幕戦で先発を勝ち取ったものの、その後は定位置をつかめずにモンテディオ山形への2度の期限付き移籍を経て、23年にサガン鳥栖へ完全移籍。23年に鳥栖では主に途中出場で22試合に出場した(出場時間は計405分、2ゴール)。
GK田川知樹は横浜FMで2シーズンを過ごすも出場機会に恵まれず、昨季は期限付き移籍先のカターレ富山(J3)で正GKとして35試合に出場した。DF平井駿助は23年にJFLのレイラック滋賀に完全移籍し、MF南拓都は2年間の岩手グルージャ盛岡(22年はJ2、23年はJ3)への期限付き移籍などを経て、23年限りで横浜FMとの契約は満了となった(※1月13日、南のレイラック滋賀への加入が発表された)。
J2のツエーゲン金沢入りしたFW杉浦力斗も23年末で契約満了を迎えている。
クラブによる違いは大きいが、近年J2やJ3の下部リーグでは環境面や待遇面の悪さを指摘する声も少なくなく、頑張ってJリーガーになったからといって素直に喜べない現実が待っているとも言われている。多くの高卒Jリーガーを輩出してきた内野氏としても、こうした現実は無視できないだろうし、宮原が高校卒業を前に海外行きを決めた背景とも無関係ではないはずだ。
「17年以降に卒業したOBとは、みんなLINEでつながっていて、こまめに情報交換をしていますが、厳しい状況の選手も多いですね。プロになったのに幸せになれていないというか。そういう意味で、僕としても即J1で通用しそうな選手を除けば、基本は大学進学を薦めてきました。4年間しっかり人として肉体的、精神的に成長してからプロに行ってもいいのでは、と。ただ、ほとんどの選手はプロから声がかかると(カテゴリーは問わずに)いってしまいます。
海外で通用する選手を育てたいというのは、プロになった選手たちには夢を与えられる存在になってほしいからです。もちろん、みんなが古橋みたいにはなれないかもしれませんが、夢をつかんだ人たちには充実した生活を送ってほしいじゃないですか。興國高から多くのJリーガーが出ているといっても、決して僕が積極的に進めてきたわけではありません」
プロ入り後の“逆転現象”を何とかしたい!
内野氏は多くのプロ選手を育ててきたが、彼らのその後が気になると話した 【栗原正夫】
宮原の例でも、実際に高卒でJクラブに行くよりも、ポーランドへ渡った方が金銭的にも条件がよかったと聞く。加えて、アンダーカテゴリーのチームを持っていることで仮にトップチームで出場機会が確保できなくても試合に出るチャンネルがあったことは大きかったようだ。
高卒でJクラブに送り出した選手が、大学に進んだ選手に逆転されてしまった例もいくつか見てきた。
「贔屓目なしに高3時では明らかに実力が上だった選手が、3年後に大学に進んだ選手に実力で逆転され、契約満了になってしまったということを聞くのはつらいです。誰が悪いわけではないですが、海外に比べて日本にはまだそういう環境が整っていない部分がある。たとえば(ユースからトップチームに昇格できたのに、筑波大学を経てから川崎フロンターレに加入した)三笘薫選手の話は有名ですが、高卒で即Jクラブに上がって試合に出られない環境なら、日本の場合は大学に行った方が成長できるのかもしれません。もちろん、プロになって真剣勝負の場があれば、絶対にプロにいった方が成長できるとは思うのですが……」
内野氏がいま考えているのは、そんな若い選手を救うことができないか、ということだ。
「いまの僕があるのは、興國高で頑張ってくれたOBたちがいるからです。そういう意味で、彼らに恩返しをしないといけない。まだ明確な答えはないですが、高校卒業をした若い19歳から21歳くらいの選手たちが、なかなか実戦を経験できていないのを何とかしたい。全然試合に出ていない21歳のJリーガーと試合にバリバリ出ている21歳の大学生では、成長のスピードがまったく違いますから。こんなことを言うとオマエに何ができるんだ、と言われてしまいそうですが、漠然ながら今後はそんなことを改善するようなことができたらと考えています」
(終わり)