なぜ、今なのか? Jリーグのシーズン移行を深掘り

Jリーグ・樋口順也FB本部長が語るシーズン移行の焦点 「谷型カーブを山型に」「世界で勝つ」「いつでもスポーツができる環境を」

竹内達也

真夏でもスポーツが楽しめる環境整備にもトライ

23年シーズン前半戦でチームを引っ張った湘南時代の町野(左)と新潟時代の伊藤。彼らのシーズン途中移籍がチームに与えた影響は小さくなかった 【(C)J.LEAGUE】

——シーズン移行をした場合の、日本サッカー発展のビジョンについては、どうお考えですか?

 JFAが2050年までのワールドカップ開催と優勝を掲げていますが、そのためにはJリーグも世界と戦えるようになっていかないといけない。アジア(AFCチャンピオンズリーグ)で勝って、世界(FIFAクラブワールドカップ)でも勝てるように。その結果、放映権料などが高まれば、各クラブへの配分金も増やせます。全クラブの経営規模が今の1.5倍から2倍になるようにしていくことに関しては、全60クラブに合意していただいています。これはシーズン移行をする、しないに関わらず定めた目標ですが、今のままでいることのリスクもすごくあると思っています。

 世界のサッカーがこの30年間で急速に成長してきたなかで、例えば、「Jリーグはあえて世界とは戦わない」という選択肢もあるとは思います。日本国内にだけ目を向け、「プロ野球を超える日本最高のエンターテインメントを目指しましょう」と。

――ただ、現実的には、サッカーはグローバルなスポーツです。

 世界と戦うことは避けられないですよね。今のままでいたら、若い選手は日本代表に選ばれるためにJリーグを経由せずに海外に行く流れが進むと思うんです。前回のカタール・ワールドカップでは26選手全員がJリーグを経験していましたが、10年、20年後にはJリーグを経由しない選手だらけになってしまう可能性がある。そうなったときに、Jリーグの価値を保てるのか。

 また、移籍金を適切に取れないと選手がどんどん安価で海外に行ってしまい、Jクラブが育成に投資をできなくなってしまうかもしれません。Jリーグのレベルや価値を上げ、ヨーロッパのマーケットにJクラブも入っていくことで、移籍ビジネスも含め競争力を高めていかないといけないと思っています。

——Jリーグの価値やレベルが高まり、放映権料や賞金などをスタジアムの設備投資などに回せるといいですね。

 今の日本の環境を考えると、まずは降雪地域でも冬にスポーツが楽しめる環境を作りたいと思っています。一方で、このままでは夏もスポーツができなくなっていくと思います。我々が考えている「いつでも、どこでもスポーツが楽しめる環境」というのは、何も降雪地域だけのことではなく、日本全国の話です。

 今回のシーズン移行を機に降雪地域に対するサポートを検討していますが、あくまでも順番の話であって、冬にスポーツを楽しめる環境が整えば、今度は夏でも楽しめる環境整備にトライしていきたい。我々だけではできないので、様々なステークホルダーの方々にもサポートしていただきながら、一緒にこの国のスポーツ環境を良くしていきたい、というビジョンがあります。

バスケもバレーも卓球もラグビーも秋開幕

10月開幕・5月閉幕のBリーグは1年以上前に試合日程を仮決めしてアリーナを押さえることで、行政年度とのズレの問題を解消している 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

——シーズン移行をした場合には、日本の行政年度との不一致も懸念されます。その点についてはどう捉えていますか?

 ひとつ事実としてあるのは、日本のスポーツはすべて行政年度と合っているわけではないということです。プロ野球とJリーグは2、3月の開幕ですが、バスケットボールも、バレーボールも、卓球も、ラグビーも、秋開幕なんです。

 それを抑えた上で、例えば、シーズン制が変わった場合、どういう形で新人選手が加入するのがいいのか。その設計は今まさに行っているところですが、基本的には今まで通り1月に加入することになると思います。つまり、シーズンの真ん中で加入する形ですね。ただ、JFA・Jリーグの特別指定制度がありますから、それを活用して開幕からプレーする選手も出てくるでしょう。

 現在の高卒・大卒の選手を見ると、いきなり試合に出たり、レギュラーに定着したりするような選手は稀で、試合に絡むまでに平均すると3か月、4か月かかる傾向があります。8月の開幕の半年後に加入することで、翌シーズンは初めから戦力になれるというように、良い面も生まれるかもなとも思っています。

——登録ウィンドーも欧州と合わせる形になると思いますが、どのような点を解決していく必要があるのでしょうか?

 シーズン移行の話とは直接関係ないですが、まずは現状のABC契約を変えることを考えています。今はA契約25名が原則ですが、それを撤廃する方向です。また、21歳以下の選手は無制限に登録していいというルールも考えています。欧州の5大リーグはけっこう、このルールでやっているんですよね。ルール次第でシーズン途中に選手が加入しても問題はなくなります。

 こうしたスカッドのルール全般は、来年の前半くらいには決めたいですね。また登録ウィンドーも工夫したいと思っています。今まではFIFAルールで年間16週のウィンドー、第1ウィンドーが12週、第2ウィンドーが4週と決まっていましたが、来年からは内訳が自由になります。ですから今、「第1ウィンドーに12週もいるのか」「第2ウィンドーをもっと長くしたほうがいいのではないか」といった議論をしています。

——12月19日の理事会での決議に向けて、大きい障壁はなんでしょう?

 降雪地域への施設サポートだと思います。どれくらいの財源を活用できるか、どういう制度で各クラブに配分していくのか、実際にどういう施設を作るのか、という点については、まだまだ研究が必要です。したがって、その点が明確になったときに、「こういうルールに基づいて、この財源からこれだけのお金を配分します」という形になると思います。それから、移行期の大会方式やスタジアムの調整についても、詰めている最中です。年度がズレる中でスタジアムをどのように押さえるかは大きな焦点ですから。すでに、各クラブと各スタジアムとの相談が始まっている状況です。

——シーズン移行となれば、さまざまな方面に影響を及ぼす一大改革になると思います。財源はどのように確保するのでしょうか?

 我々の力だけでは到底できないので、パートナー企業や地域の自治体、様々な方にご協力を得られるようなお話をしていきたいと思っています。「皆さんのご協力があると、日本サッカーがこう発展して、そうすると日本全体が幸せになります」という未来を共有し、理解していただく必要があると思っています。

——この改革をJリーグ発展に向けたひとつの契機にしたいですね。

 シーズンを変えたらバラ色になるとはまったく思っていなくて、変えるにしても大きな決断ですし、このままでいくことも大きな決断だと思っています。ただ、どちらにせよ、60クラブが一致団結して「成長していこう、発展していこう」とすることが大事だと思っています。ファン・サポーター、パートナーの皆さんも含め、どちらかに決めたら、Jリーグはこういうものを目指して進んでいくのだということをしっかり発信していくので、ぜひ皆さんに支えていただきたいと思っています。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1989年生まれ。大分県豊後高田市出身。大学院卒業後、地方紙記者を経て、2017年夏から「ゲキサカ」でサッカー取材をスタートさせた。日々のJリーグ、育成年代取材のほか、18年9月の森保ジャパン発足後から日本代表を担当し、19年のUAEアジアカップ、22年のカタールW杯で現地取材。21年からシャレン!アウォーズ選考委員。VARなど競技規則関連の発信も続けている。

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