「格差」と人材流出に打ち勝って16年ぶりのJ1昇格 東京V・城福浩監督はなぜ成功したのか?
城福浩監督は22年6月から東京Vの指揮を執っている 【(C)J.LEAGUE】
東京Vほど「古豪」「名門」という形容の似合うクラブはない。1993年、94年と草創期のJリーグを連覇し、ブームを牽引していた華々しい姿をご記憶の方も多いだろう。ただしそれは過去の栄光で、近年の東京Vが強豪だったかといえば違う。2009年からはJ2に沈んでいて、今回は16年ぶりのJ1復帰だ。様々な監督が挑戦しては失敗してきたチャレンジに成功したのが、城福浩(じょうふく・ひろし)だった。
一度は断ったオファーを受ける
それから15年、彼は昇格決定後の記者会見でこう冒頭に語っていた。
「16年ぶりというのは想像もつかない長さですし、重さです。その間に味わった悔しさについては分かりません。ただ、このチームの指揮はそれを背負ってやることだと思っていました。自分の経歴を考えたら、ここへ何しに来たのか?と言われてもおかしくない状況でした。絶対にこのチームを上げる覚悟でいました」
言うまでもなく、FC東京は東京Vのライバルだ。城福はクラブスタッフ時代も含めると長く「赤青」に関わっていて、それは気持ちに引っ掛かった部分だろう。因縁のあるクラブに乗り込むとなれば、覚悟は必要だったはずだ。
試合後の彼はこのような話もしていた。
「冬(2021年シーズンのオフ)にヴェルディさんから話があって、そのときは断りました。自分がヴェルディに行けるわけはないと思っていました。ただ、夏にもう一度オファーを頂いたときには、東京ダービーを再現できれば、またJリーグが盛り上がる(と考えを変えた)。僕はトラックの第2コーナーを走っているわけではなく、第4コーナーに差し掛かっています。これからサッカー界、Jリーグに対してどういう貢献ができるのか、覚悟を決めて夏に受けました」
10年ぶりのJ2で「格差」に直面
城福監督にとっては2度目のJ1昇格だ 【(C)J.LEAGUE】
「このチームは毎年主力が流出しています。私が就任してから夏に2人、冬に4人のレギュラーがいなくなりました」
2022年の主力はシーズン中に山本理仁がガンバ大阪、新井瑞希がポルトガルのクラブに移籍している。オフにも佐藤凌我がアビスパ福岡、馬場晴也がコンサドーレ札幌という具合にJ1へステップアップしていった。東京Vは育成組織も含めて有望選手を多く輩出してきたクラブだが、経営的にはJ2の中位レベル。2010年前後に経営難に見舞われた影響が今も残り、サッカー界の『経済成長』から取り残されていた。
城福は2012年にもヴァンフォーレ甲府でJ1昇格を経験していた。J2経験「2.5シーズン」で2度の昇格を経験したことになる。彼は当時と今を比較してこう分析する。
「まずサッカー(界)がすごく変わってきています。ひとつはチーム格差で、編成費にかけられる費用の格差が当時と今では格段に違います。去年の冬から、移籍の獲得合戦は全戦全敗でした。『それくらいの格差があるなかでJ2はやっているのか』というところで、正直驚きました。ただ、その格差ほど選手の差はないと自分は踏んでいたので、ひとつひとつ積み上げていければ必ずチャンスはあると思っていました」
とはいえ現実に格差はある。2012年度の「Jクラブ個別情報開示資料」を紐解くと、J2の中では千葉が経済的に突出していて、10.4億円のチーム人件費を計上していた。以下京都が5億円台、徳島、横浜FC、山形、甲府、福岡が4億円台という金額で、今思えばささやかな規模感だった。
2022年度のJ2は5クラブが10億円以上の人件費を計上している。それに対して東京Vは4.9億円だった。東京VがJ1昇格プレーオフ決勝で対峙した清水はJ1で22億円強を費やし、J1得点王のチアゴ・サンタナや日本代表GK権田修一を残したままJ2に降りてきた。
昨シーズンのデータではあるが、東京Vは人件費的に見れば「22チーム中14位」というレベル。監督から見たとき、チーム作りの難易度が高かったことは想像に難くない。(※2023年度の人件費は未発表)