「格差」と人材流出に打ち勝って16年ぶりのJ1昇格 東京V・城福浩監督はなぜ成功したのか?
リーグ最少失点の理由は?
齋藤(写真左)や中原、染野唯月ら東京Vの攻撃陣は新加入が多い 【(C)J.LEAGUE】
今季から加入した齋藤功佑はその理由をこう説明する。
「そもそも選手同士のコミュニケーションが非常にいいチームなので、外から来た選手も順応しやすかったと思います。チームの雰囲気を基本的に作るのはベテラン選手で、そのコミュニケーションや雰囲気作りで結構変わってくると思いますけど、チームのことを考えているベテランがヴェルディは多かった。それでいて若手選手も勝つために要求をし合う、というのを1年間やってきました」
城福監督も会見で「このチームは非常に若くて、今日のスタメンの平均年齢は25.09歳。彼らが自覚を持つようになったのは、このチームのベテランの姿勢だと思います」と強調していた。
指揮官の指揮官の手腕について、斎藤はこう述べる。
「城福監督は本当に規律を徹底させる力があって、そこを自分は一番感じています。どうしても人によって基準を変えてしまったり、忖度があったり、気を使ってしまったりがあるものですけど、(城福監督は誰に対しても)勝つためにチームとしてやらなければいけないことを徹底させます。あと、しきりに言っていたのが『リカバリーパワー』でした。プレー選択のミスについては何も言わないけど、その後の切り替え、守備のハードワークを徹底させる。若い選手が多い中で、チャレンジさせるけれど、同時に徹底させることもできる――。そういった部分は素晴らしいなと思いながらやっていました」
シーズン半ばにC大阪からレンタルで加入し、貴重な戦力となった中原輝は言う。
「あと一歩のところだったり、さぼらないところだったり、口では簡単ですけど、(城福監督は)そういう細かなところも求めている。それがリーグ最少失点につながっています」
ベテラン指揮官が成し遂げたこと
「パッション」も城福監督の特徴だ 【(C)J.LEAGUE】
正義感が強い彼はやや世渡りの苦手なタイプにも見えるが、絶対的な能力があるから仕事が舞い込んでくる。2008年のFC東京を皮切りに甲府、サンフレッチェ広島、東京ヴェルディで計4クラブの指揮を執ってきた。
Jリーグが誕生してから30年以上が経ち、選手としてプロを経験していない監督はもう少数派だ。まして城福監督のように社業に専念した時期がある人材はもはや皆無と言っていい。彼は富士通(現・川崎フロンターレ)の選手、監督だった経験を持ち、バブル崩壊後の工場移転という『リストラ』の実務も経験したこともある。そういった社会経験は監督としてプラスになる部分だろうが、彼は同時にサッカー界の変化や進歩にも適応してきた。
そして2023年、経済的には格上のクラブと渡り合い、J1昇格という成果を出した。62歳の指揮官は会見でこう述べていた。
「春先に我々が昇格すると話したら、おそらく本気で聞いてくれるメディアの方は一人もいなかったと思います。そういう意地もありました」
彼は、はにかんだ微笑を浮かべてこう続けた。
「第4コーナーといっても、僕はまだバトンをもらったばかりだと思っていますし、ゴール前ではないと考えています」
経営的にはJ2の中位だったクラブがJ1に昇格するのだから、それはとてつもなく高いハードルだ。一方でJ1昇格プレーオフの準決勝は25,150人、決勝は53,264人の観客が試合を見届けた。それはクラブの復活、成長に向けた明るい兆しだろう。そして首都・東京のサッカーも盛り上がっていくはずだ。城福と東京Vの「スパート」に期待したい。