星野と落合のドラフト戦略 元中日スカウト部長の回顧録

プロでの明暗分かれた堂上と坂本 直倫が「守備の人」になった理由とは

中田宗男

早くから地元のスター候補として注目を集めていた堂上直倫。ただ、プロ入り後の明暗は同年にプロ入りした坂本とはっきり分かれる形となった 【写真は共同】

「星野さんは人を残し、落合さんは結果を残した」。スカウト歴38年、闘将とオレ竜に仕え、球団の栄枯盛衰を見てきた男が明かすドラフト舞台裏。
中田宗男著『星野と落合のドラフト戦略 元中日スカウト部長の回顧録』から、一部抜粋して公開します。

中日入りに反対だった直倫の父

 この年の野手の目玉は地元、愛工大名電高の堂上直倫だった。直倫のことは中学時代から狙っていた。有名な話だが、中学時代の直倫はファン感謝デーの余興で行われた中日との試合に、『リトルシニア東海選抜』の四番・投手として出場し、福留からナゴヤドームのレフトスタンドへ放り込んでいる。その頃から「将来は中日へ!」という地元の声は大きかった。選手達からも「中田さん、堂上さんの息子さん、絶対に獲らないかんですね」と言われたものだ。お父さんも元中日の選手で選手寮『昇竜館』の館長・照さん、お兄ちゃんも中日の現役選手(剛裕/現中日球団職員)。

 甲子園でも活躍した地元のスター選手でルックスも性格も良い。指名をしない理由がないほどだった。

 投手の目玉だった駒大苫小牧高の田中将大(楽天1位)ももちろん評価していた。1年目から上で投げられるピッチャーだと思っていたが、球団の総意として「今年はどんな事情があっても堂上!」と決まっていたから、田中の獲得は初めから目指していなかった。落合さんは田中を一番評価していたようだったが、球団の事情を理解してくれていた。

 だが、お父さんの照さんは、落合さんの下で自分の息子がプレーすることに懸念を持っていた。

「落合のアレでうちの息子、よう育てるかな?」

「大丈夫でしょう。モノが違いますよ」

「原監督(巨人)か岡田監督(阪神)のほうが若手を上手く育ててくれそうな気がするんやけど」

「実力だけでいったら青森に坂本(勇人)というショートもいてるんです。でも中日が地元スターの直倫を指名せずに坂本を指名できると思いますか?」

 そんな話をしたことがある。

 直倫本人は中日に行きたがっていた。だが、息子を心配した照さんはできれば他球団を希望していた。自分も仕事がやりづらくなるだろうし、名古屋の街の良いところも悪いところも知っているから、親として心配になるのも無理はなかった。「指名するの止めてくれよ」と半分冗談でよく言われたものだ。

「それ、本気で言っているんですか?」

「結構本気やぞ」

「そんなことしたら僕、クビですよ」

 こんなやりとりが何回かあった。

「どうやら堂上は中日でガチガチではないようだぞ」

 そんな噂を嗅ぎつけたのか、巨人と阪神も獲得競争に参戦してくることになった。巨人は最終的に降りて単独で坂本にいくだろうと思っていたから、直倫の指名にきたのは意外だった。

 私は坂本も高く評価していたから、冗談で「巨人と阪神が直倫でくるならうちが単独で坂本にいこうか」と言ったことがあるくらいだ。

 坂本の良いところは内側からバットが出るところ。内角の厳しいボールに巻きついてポール際に放り込んだり、それをセンターに持っていくこともできる。足もあるし体つきも良い。守備も柔らかく、肩も強い。光星学院高(現八戸学院光星高)の監督さんにも「堂上を外したら外れ1位で指名します」とも話していた。

 しかし、そんな坂本よりも評価は間違いなく直倫が上だった。だから3球団競合で引き当てたときは万歳して喜んだ。イチローを指名し損ねて以来、待望久しい地元のスター選手の獲得だった。

 だが、プロでの2人の成績は対照的なものとなった。

 直倫はプロに入ってからはユーティリティ性の高い「守備の人」になった。そうなってしまったのには理由がある。高校3年のときにピッチャーもやっていて肘を痛めた。抑えの切り札のような形で使われ、結構大事な場面で投げていたが、そのときから「肘が痛い」と言っていた。それが悪化してヒジが曲がった状態になってしまったのだ。ヒジを痛めるとバッティングにも影響が出ることがある。「プロでその影響が出なければいいが」と思っていた不安が不幸にも的中してしまった。

 プロに入ると、上手く打てていた内角のボールを肘をたたんで打てなくなってしまった。バットが内側から出せなくなったのだ。右肘を上手く使えなくなったことで、それまでの柔らかいバッティングができなくなってしまった。それがプロで思うような結果を残せなかった要因だと私は思っている。反面、肘を痛めたことでショートスローが抜群に良くなったのは皮肉というほかない。

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