世界でも活躍する主将クレクや若手選手が躍動 Vリーグ制覇のWD名古屋に根付く文化

田中夕子

ウルフドッグス名古屋が7年ぶり2度目のVリーグ制覇を成し遂げた 【©V.LEAGUE 】

サントリーの3連覇を阻止して7年ぶりの優勝

 7年ぶりの頂点を目指すウルフドッグス名古屋、5度目のマッチポイント。

 サーバーはバルトシュ・クレク。入れにいくのではなくあくまで攻める、渾身のサーブをサントリーサンバーズのリベロ、藤中颯志がレシーブし、セッターの大宅真樹はバックライトのドミトリー・ムセルスキーを選択。この試合はもちろん、チーム内で最も多くのスパイクを打ち、決めてきたムセルスキーに上げるのは誰もが納得するセレクトだった。

 当然、名古屋もムセルスキーに3枚ブロックが跳ぶ。空いたストレートにスパイクを放つも、コースに入っていたリベロの小川智大が拾う。昨年、一昨年と連覇を成し遂げ、今季は三連覇を狙うサントリーの主将・大宅が「簡単に決めさせてくれない」と唸った名古屋のディフェンス力を勝負所でもいかんなく発揮する。もちろんそれは名古屋のみならず、サントリーも同様。両チームのブロックディフェンスで繰り返されたラリーに、決着をつけたのは名古屋のアウトサイドヒッター、山崎彰都だった。

 おそらく大半が「クレクに上がるだろう」と思ったシーンで、セッターの永露元稀は山﨑をチョイスした。「正直に言うとクレクさんに上げようと思ったけれど、山崎が非常にいい表情をしながらやっていたので自信をもって上げた」という永露に対し、山崎も「セッターが前だったので、自分に上がってくるかもしれない、と準備していた」と応えた。「もっときれいに決めたかった」という渾身の一打は、ブロックとレシーバーもつなぎきれず、28対26。3対0のストレートで勝利した名古屋が2度目のVリーグ制覇を成し遂げた。

7年前からの成長を示したビクトリーポイント

最後のスパイクを決めた山崎彰都。チームの成長を示す渾身の一打だった 【©V.LEAGUE 】

 そしてそれは優勝を決めたビクトリーポイントというだけでなく、もっと大きな、チームとしての成長を示すべき、価値ある1点。そう言うのは7年前の優勝時にもレギュラーメンバーとしてコートに立ったミドルブロッカーの傳田亮太だ。

「1人1人全員が点数を取れるのが一番大きい。最後も『バルトシュに上げるでしょ』と思われる場面だったし、7年前だったらイゴール(オムルチェン)に依存していたと思うんです。でもそこで永露が(山崎)彰都に上げて点数を取った。チームとして、成長したところだと思うし、自分もやっている感があった。いいチームになったな、と思います」

 前身の豊田合成トレフェルサとして初優勝を成し遂げた15/16シーズン。チームを率いたのは13年に監督へ就任したクリスティアンソン・アンディッシュ。曖昧ではなく1人1人に対して具体的な技術指導によって成長した選手が、戦術を遂行する力をつけ、飛躍的に進化を遂げた。17年にアンディッシュが退いて以後もトミー・ティリカイネン、クリストファー・マクガウン、今季就任したヴァレリオ・バルドヴィンまで延べ10年に渡り外国籍の監督がチームを率いた。

 スタッフや選手も直接英語でコミュニケーションを取ることが当たり前として根付き、その都度掲げられた戦術や戦略に基づいてシステムを形成する。もちろん毎年すべてうまく運んだというわけではないが、その10年間を見ればVリーグで3度の準優勝。好成績を残し続けてきたのも組織としての進化の証だ。

 しかも単年ではなく、10年という長きに渡り、海外で実績を持つ指導者が指揮を執る。その形が根づけば、選手がチームを選ぶ際の要素にもつながる。決勝でも第1セットに自らのサーブで連続得点を挙げ、流れを引き寄せる活躍を見せたアウトサイドヒッターの高梨健太はこう言う。

「外国人監督は技術を教えることがうまいイメージがありました。僕自身、うまくなるためにバレーボールをしているし、うまくなってチームを勝たせるとイメージした時、一番合いそうだと思ったのが(元監督の)トミー監督でした」

 有言実行とばかりに、高梨は1年目から試合出場の機会を増やし、21年の東京五輪にも出場した。高校、大学までは攻撃型のイメージが先行したが、ウルフドッグスでは守備面の要素も強く、リバウンドを取ってからの切り返しやブロック力も長けたオールラウンダーへと成長を遂げた。決勝で最後の1点を決めた山崎も「大学4年の春まではどこからも声がかからなかった」という選手だったが、名古屋ではルーキーイヤーから出場し、欠かせぬ存在へと成長している。

 いい選手がいたから勝った、ではなく、いい選手が持っているいい部分を育てる。さらには本人も気づかずにいたいい部分に目を向け、伸ばしていく。そんな土壌があったからこそ、磨かれ、高いポテンシャルを持つ若い選手たちが開花した。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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