星野と落合のドラフト戦略 元中日スカウト部長の回顧録

落合監督時代のドラフト 就任1年目「高校生は1人もいらない」発言の真意

中田宗男

「高校生はいらない」の真意

 5巡目の中部大・鈴木義広はその独特の投球フォームが評価を迷わせていたピッチャーだった。しかし、地元の大学でもあるし、中位以降で残っていれば絶対に獲ろうと思っていたので、この順位で指名した。6巡目の石井裕也は横浜商工高(現横浜創学館高)のときから追いかけていたピッチャーだったが、耳が聞こえないというハンディキャップもあり、どの球団も獲得する意思はなさそうだった。チームの監督さんなどに聞いてみると、本人は生まれながらこの状態でやっているから、こっちが喋っていることも理解できるし100 パーセント聞こえないわけではない。補聴器をつければ聴き取れるし、意思の疎通なども含めて野球は問題なくできるという。そういった情報を信じて獲得した。鈴木も石井も中継ぎとしてチームによく貢献してくれた。思い切って獲って良かったと思っている。

 8巡目のJR東日本・小山良男と9巡目の日本通運・金剛弘樹は落合さんから「獲ってくれ」というリクエストがあって指名した選手だ。落合さんは日本通運の選手を好む傾向があることは書いたが、JR東日本の選手も好む傾向があった。こちらの理由はよくわからないが。

 12巡目、ドラフト全体の最終指名となった法政大の普久原も落合さんのリクエストだ。時にいろいろな関係から、「獲って欲しい」「獲ってやってくれ」ということもドラフトにはよくある話。選手枠が空いており、下位指名でいいのであればスカウト部としても特に問題はない。

 指名が12位までいったのは、落合さんが「大学、社会人は良い選手がいれば何人でも獲ろう」ということでこうなった。

 就任1年目、落合さんが春のキャンプで選手達を鍛え上げたことは有名だが、落合さんのなかでは「ドラフトで高校生を獲ったところで鍛え上げられない」という考えがあったのではないかと思う。それが「高校生はいらない」という言葉に繋がったのだと理解している。

 落合さんは「高校生はわからない」ともよく言っていた。それは目の前の練習についてこられるかわからないし、2年、3年と練習についてこられるのかもわからない。大学、社会人の選手ならば少なくとも厳しい練習にはついてこられる。練習についてこれさえすればなんとかなる。そういうことをよく言っていた。だから落合さんのドラフトの基本方針は大学、社会人が中心になるのも致し方のないことだった。

【写真提供:カンゼン】

「星野さんは人を残し、落合さんは結果を残した」。スカウト歴38年、闘将とオレ竜に仕え、球団の栄枯盛衰を見てきた男が明かすドラフト舞台裏。

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