西浦颯大『もう一回野球させてください神様』

先輩からの言葉、オリ強さの理由、親友“ムネ”との仲…西浦颯大、22歳で現役引退をした後の日々

西浦颯大

22歳で現役から退いた西浦颯大は、昨年10月に大阪市内でバーをオープンした 【写真は共同】

小学6年生でソフトバンクジュニアに選出されるなどセンス抜群の野球少年だった西浦颯大。
中学、高校と輝かしい経歴を歩み、オリックスではあのイチロー以来、10代でホームランを記録するなど華々しい野球人生を歩んでいた。

そんな“野球に愛された男”に突然の病魔が襲い掛かる……
国の指定難病「特発性大腿骨頭壊死症」を患い、医師から告げられたのは「復帰は8割強、無理」という非情通告……
懸命にリハビリに励むも、復帰は叶わず、22歳の若さで球界を去ることに……

引退を決めた後輩に、山本由伸、宗佑磨がヒーローインタビューで投げ掛けた言葉とは? 
中嶋聡監督が取った意外な行動とは? そして西浦が引退試合で許された「たった1球の物語」とは――?

西浦颯大著『もう一回野球させてください神様』から、一部抜粋して公開します。

25年ぶりのリーグ優勝と先輩たちからの言葉

 引退してからしばらくは家で暇な日々を過ごしていました。オリックスとの契約がその年の12月までだったので、まだ他の仕事をするわけにもいきませんでしたから。
 だから、夜の10時ごろに寝て、朝6時に起きて、犬に餌をやって、という毎日。たまに朝4時ぐらいに目が覚めることもありました。まるでおじいちゃんのような生活ですよね。

 引退してから犬を飼いました。ミニチュアダックスフントのツムちゃんと、トイプードルのウニちゃんです。名前の由来は、ウニみたいに黒いから(笑)。
 ペットショップに行ったら、ツムちゃんが「飼って」という目で僕のことを見つめてきたので……一目惚ぼれでした。
 飼ってみたら、本当にかわいくて癒されたので、もう1匹飼いたくなってまたペットショップへ。ウニちゃんも一目惚れでした。

 昼間は時々買い物に行ったりしましたが、基本的には寝転がってYouTubeを見るか、夕方までは犬と遊んで、午後6時になったら野球中継を観る、という生活でした。

 引退後もオリックスの試合は毎日チェックしていましたし、時々京セラドームに行って、スタンドで応援することもありました。

 その年のオリックスは、ロッテとの激しい優勝争いを繰り広げていました。オリックスは10月25日に楽天とレギュラーシーズン最終戦を戦い、4-0で勝利しましたが、その時点でもまだ優勝が決まらないほどの混戦でした。

 その2日後の10月27日、ロッテが楽天に敗れた瞬間、オリックスの25年ぶりのパ・リーグ優勝が決まりました。
 25年って、改めて考えるとすごい時間ですよね。25年前は、まだ僕が生まれてもいなかったんですから。

 もうレギュラーシーズンの全試合を終えていたオリックスの一軍選手たちは、その日、お客さんが誰もいない京セラドームで待機し、ロッテの試合の結果を待っていました。ロッテが敗れて優勝が決まった瞬間、ベンチで待ち構えていた選手たちがマスクをしたままグラウンドへ駆け出す、というなんだか不思議な優勝決定シーンでしたよね。

 僕はその時、スマホのライブ中継でその様子を見ていました。

 自分もそのメンバーに入っている気持ちになるぐらい、うれしかったです。
 正直に言うと、僕がいる間に優勝して欲しかったですけどね。それまでは2年連続最下位で、僕が引退したとたんに優勝ですから(苦笑)。

 でもその優勝決定後の記者会見で、ラオウ(杉本裕太郎)さんがこう話してくれていたと聞きました。

「みんなが一つの方向を向けたことが、優勝の大きな要因だったと思います。そうなるためのターニングポイントはたくさんあったんですけど、その中でも、西浦が京セラドームの円陣に来て、『僕のために優勝してください』って言ってきたこと。あいつらしい言い方だったんで、『最後、絶対優勝しよう』という思いは強くなりました。
 やっぱり一軍でも二軍でも、ずっと一緒に頑張ってきたチームメイトだったから。あいつはすごく悔しい思いをしていたと思うので、せめて優勝して、いい思いをさせてあげようと思っていた。僕もすごくうれしいです」

 ありがとう! ラオウさん。

 由伸さんからは、「優勝おめでとう」とLINEがきました。18勝5敗と、1人で13個も貯金を作って、最多勝、最優秀防御率、最高勝率、最多奪三振の投手四冠と、沢村賞、リーグMVPを獲得した優勝の立役者が、ですよ。

「いえいえ、逆におめでとうございます」と返信しました(笑)。

 宗さんには、「おめでとう」と連絡したら、「まだまだや。日本一があるから」と返ってきましたね。

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