甲府をACL初勝利に導いた「J2の底力」 タイの絶対王者攻略を支えたチーム力と『他サポ』の後押し

大島和人

甲府が示したJ2のレベル

キャプテン関口正大は「気配り」で勝利を支えた 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】

 J2クラブもアジアのトップクラブと互角以上に戦える――。それは甲府をACLで見た率直な印象だ。長谷川はこう振り返る。

「僕は(普段のJ2より)今日やったチームのほうが正直やりやすいです。日本人と違って、守備がきっちりはしていないので」

 長谷川がピッチに入った直後、ブリーラムは5バックで「スペースを消す」守備に切り替えていた。しかし長谷川はそれを苦にせず仕掛けていた。

「正直(相手が)5バックだったことに気づかなかったんですけど、それくらいスペースが空いていました。間でターンして仕掛けることを意識してプレーしていました」

 関口はこう振り返る。

「5バックだと相手のウイングバックを自分のサイドバックのところに釣り出して、3枚を剥がす(狙いになる)。コーナー付近を取りに行って、センターバック間の距離を広げることは、狙い目としてやっています。得点シーンもクリスティアーノがあの深い位置を取って、クロスをファーに上げたのは意図的というか、必然だったと思います」

 強烈な個を井上詩音、神谷凱士といったDF陣が食い止め、タイのタレント軍団を無失点に抑えた。緻密な守備、知的な攻撃で相手を上回った。それが彼らの勝因だ。

 厳しいやりくりをしながらJ1昇格、ACLという「2つのゴール」を追い、交代出場の切り札がしっかり結果を出す――。甲府はぎりぎりの戦いを制し、昨年の天皇杯を思い出すジャイアントキリングを成し遂げた。

甲府サポ『以外』の応援も力に

【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 「J2の底力」「Jの総力」でもぎ取った勝ち点3だった。大きな後押しになったのが平日にもかかわらず11,802名が駆けつけたスタジアムのパワーだ。篠田監督は試合後にこう述べている。

「ヴァンフォーレが国立でACLを戦うということで、普段と違うチームのサポーターが来てくれるのは本当に心強かったです。そういう方々が多く来るのは選手たちも知っていました。私達は日本を代表してACLに参加している以上、下手なゲームをできない。その責任感と誇りを今日は示そうと、選手たちが表現してくれたと思っています。多くの方が会場に足を運んでくれて、本当に感謝しかないです」

 長谷川は振り返る。

「リーグ戦とは違った喜びがあって、率直にACLは楽しいなと思いました。もちろん山梨でできればよかったですけど、国立にこれだけの方が平日にもかかわらず入ってくれました。本当に光景としてはあり得ないんですけど、他のチームのユニフォームを着たサポーターの方も見えました。僕たち地方の小さいクラブにとっては来てくれただけでも、甲府の試合にちょっとでも興味を持ってくれただけでも嬉しいです」

 選手にとっても想像以上のサポートだった。

「どれくらい入るのか心配だったんです。でもゴール裏の迫力もすごかったですし、最後に勝ち越したときはスタンド全体が一緒になって、手拍子をしてくれたのも自分としては鳥肌が立ちました。今日勝ったことで、また国立のACLに足を運んでくれる人が増えればいいなと思っています」

 「他サポ」も、選手の視界に入っていた。

「コーナーらへんですよね。レイソルとか、アルビレックスとか京都とか、ジェフの方も見えて、結構いましたよね。やっぱりサッカーっていいなと感じましたし、自分たちも応援されているなと感じました。これが今後も続くのはちょっと難しいかもしれないですけど、サッカーを通して、色んな人がつながれたのはすごくよかったのかなと思います」

J1クラブとしてノックアウトステージを

 「J2クラブのACL出場」「初勝利」はクラブの歴史に残る壮挙だが、まだ彼らのチャレンジは続く。ブリーラム撃破で、グループステージ突破は間違いなく上がった。

 長谷川はこう述べる。

「J2でACLに出るのはなかなかないですし、J2の代表として誇りを持っています。甲府で1勝するのと、J1クラブが1勝するのでは価値が変わってくると思います。今後4試合ありますけど、(グループステージを)突破できたらまた新たな歴史が生まれます。僕はそれが本当にできると信じて、リーグ戦と並行してですけど、結果で示していければと思います」

 仮に甲府がノックアウトステージに進めば、2024年もACLを戦うことになる。J1昇格を決めた状態で次のステージに進めれば、チームにとっては願ったりかなったりだ。

 J2の選手として初めてACLでゴールを決めたことを問われた長谷川は、こう言い切っていた。

「J1の甲府で出来るように頑張ります」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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