「“オリンピックに向けて”という思いは揺らがない」 復活に向けて歩む紀平梨花・単独インタビュー

沢田聡子
 2021年7月に右足首を疲労骨折し、北京五輪シーズンは試合に出ることがかなわなかった紀平梨花は、昨シーズン競技会に戻ってきた。しかし全日本選手権で再び患部を痛め、現在は怪我と向き合いながらカナダのトロントにある名門・クリケットクラブでトレーニングを積んでいる。今季を前に、現在の心境を聞いた。(取材:8月下旬)

クリケットクラブで習得したスケーティング

練習後、トロントから取材に応じてくれた紀平選手 【スポーツナビ】

――2021年9月からクリケットクラブに練習拠点を移しましたが、スケーターとして、カナダでの練習で一番変わったのはどういうところでしょうか

 クリケットクラブには、オリンピアンを含む素晴らしい選手を育ててきたコーチ陣の皆さんがいらっしゃいます。表現・スケーティング・ジャンプ・スピンなど、いろいろな分野の先生がいらっしゃって、初めから分野ごとに極めていける環境だと感じていました。

 やはりスケーティングの部分は、一番初めにここへ来た時に「違うな」と驚いたところではあります。今までやってきたスケーティングとは、種類が違うような感覚になるほどでした。基礎からのスケーティングが多くて、今はそれが大分しみついてきた頃かなとは思うのですが、初めはあまり慣れなくて、大きな違いだと感じました。

――スケーティングが良くなると、ジャンプも跳びやすくなるものでしょうか

 ジャンプとはまた別ではあるのですが、やはりプログラムのスケーティングの部分で無駄な力を入れず滑れるようになってくると、効率がよくなります。息の上がり具合を抑えた状態でプログラムが進められるので、そういう点でジャンプのミスも少なくなりますね。

――クリケットクラブにはたくさんの素晴らしいスケーターがいますが、特に刺激を受けている選手は誰でしょうか

 いろいろな選手の方が入れ代わり立ち代わり来られるリンクなのですが、今はボーヤン(・ジン、中国)選手が来ていて、良い刺激を受けています。ボーヤン選手も、昨シーズンはダブル(2回転ジャンプ)からスタートするような状態だったのを拝見していて(註:昨季のボーヤンは、虫垂炎の手術や怪我のため出遅れた)。それでも今は、4回転ルッツなど素晴らしいジャンプを見せていただいています。オフアイスでも、学べる部分が多いですね。

――クリケットクラブには、ジェイソン・ブラウン選手(アメリカ)もいますね

 ジェイソンは、スケーティングの伸びが本当にすごくて。オリンピックなどで活躍されている選手は、それだけのことをやっていらっしゃる方ばかりだと思っています。やり方は人それぞれ違いますが、みなさん強い気持ちを持っているように感じているので。私も、いろいろなことがあっても芯だけはぶれずにいきたいなと思います。

痛みを抱えつつ試合にピークを合わせた昨季

右足首の痛みがピークに達していたという全日本選手権・フリー 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

――昨シーズンは試合に復帰、怪我の問題があり100%で滑れない難しさと向き合いながらも、確実に前進しましたね

 本心で言うと、「まったく痛みがない状態で練習や試合をしたかったな」という思いはあります。痛みがある中で、練習も「いかに痛い動きをしないか」という意識をずっと持ったまま行っていました。やはり、がむしゃらに何も考えず追い込む練習というより、おそるおそる「大丈夫かな」と確認しながらの練習が続いていたので、そこは結構大変でした。

 その中でも、試合の時に集中して「この一本に合わせる」というやり方については、今までやってきた通り、自分のいいところにきちんと持っていくことができたと思います。試合の時の緊張感やルーティンをしっかりと“はめていく”ことができたので、そこは今までの経験が無駄ではなかったと感じた部分です。

 演技内容も、「試合に合わせられたな」という印象が強いシーズンではあったので、悪いシーズンではなかったと思います。でも根本的に、痛みを抱えながらやっていたことはあまりよくない事実だと思うので、今後はそういうことがないようにしたいですね。

――怪我をした右足首が一番痛かったのは、やはり全日本選手権(昨年12月、結果は11位)でしょうか

 そうですね、フリー当日の朝練で痛めてしまって…結構痛かったのですが、もう気にせず『フリーだけ(滑り切ろう)』という感じでした。シーズン序盤の試合では構成にフリップとルッツを入れていなかったので、トウをつくことがあまりなく、大きく悪化することもなかったんです。ただ、トウをつかなくても若干の痛みはずっとあって、一番ひどく痛みが出たのは全日本選手権のフリーですね。

――今は、どの種類のジャンプを練習していますか

 思っていたよりも怪我が長引いていたので、今はまだ痛みが出る動きはしていない状態です。トレーニングを追い込み始めたりはしていますが、氷上ではまだ痛みが出てしまったりすることも実はあって。完全に痛みが出ないようにしていきたいので、ジャンプも試しに跳んでみる程度です。

 ある時、曲かけ練習で疲れている時にスピンで思い切り回ってギュッとこらえたのですが、靴が当たってしまったのか、痛みが出てしまった日もありました。ジャンプ以外でも痛みが出ることがあるので、そこは出ないような練習をしたくて、今は試行錯誤しながら練習内容を組んでいます。

 オフアイスでのトレーニングは、個別でメニューを組んでやっていただいています。足に痛みが出てしまった時は、そこに負荷がかからないようにコア(体幹)や腕を鍛えるなど、いろいろと試行錯誤していて具体的には、重りをつけてひねるような動作で少しずつ重りを増やしています。マシーンを使って息が上がるまで行うようなトレーニングや、心拍数を上げるトレーニングもしています。

――今季のプログラムについて、フリーは『タイタニック』を継続して滑り、ショートプログラムは新しくするということでしたが

 ショートは変えると言っていたのですが、変えない可能性も高くなっています。時期的に、あまり追い込めなくなってしまうのも嫌だったので。慣れているショートで、フリーも継続で完成形を目指して、という感じで考えています。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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