慶應の新主将・加藤右悟が大切にする2つの宝物 『KEIO日本一』に向けて新体制がスタート

大利実

交換ノートで熱い気持ちを綴り合った前主将の大村(右)と新主将の加藤(左) 【写真:大利実】

「日本一獲っちゃいましょう!」

 107年ぶりに夏の全国高等学校野球選手権大会を制した神奈川・慶應義塾。余韻に浸る間もなく、決勝から2日後の8月25日に新チームの全体練習がスタートした。

 練習前にクラブハウスで行われたのが、新幹部を決めるミーティングだった。例年どおり、2~3年生の投票によって決まる主将には甲子園で主に4番として活躍した加藤右悟(ゆうご、2年)、副将には足立然と高津優(ともに2年)が選出された。

 新主将の加藤は、100名を超える部員の前で所信を述べた。

「大村さんのようにはなれないかもしれないですけど、ぼくはぼくらしく頑張るので、日本一獲っちゃいましょう!」

「大村さん」とは、深紅の大優勝旗を手にした大村昊澄(3年)のことだ。昨夏、主将に就いたときから、『KEIO日本一』を口に出し続け、「慶應が日本一になることで、旧態依然とした高校野球を変えていきたい」と取材のたびに発信していた。

 森林貴彦監督は、「大村に引っ張られて、大村を中心にチームがまとまった。大村がキャプテンでなければ、日本一にはなれなかった」と言い切る。神奈川大会を制したときも、甲子園を制したときも、応援席への挨拶のあと、指揮官が最初に抱きしめたのが大村だった。

 後輩の加藤にとっても、大村は憧れであり、今では目指すべき存在になっている。今年6月の取材で、先輩への想いを熱く語っていた。

「大村さんを日本一のキャプテンにしたい。本当に優しくて真面目で、それでいて言うことははっきり言う。ぼくだけでなく、ほかの人も同じことを思っていると思います。本当に尊敬しています」

 同時に、こんな言葉も付け加えていた。

「大村さんと同じことはできないですけど、次のチームでキャプテンをやりたい気持ちがあります。キャプテンとして、大村さんを超えたいです」

熱い想いを綴った大村との交換ノート

前主将の大村や正捕手の渡辺憩ら、頼れる先輩とともに夏の甲子園を制した 【写真は共同】

 念願叶っての主将就任。じつは、小学校、中学校、高校と、3度目の大役となる。加藤には大切にしている宝物が2つある。

 1つは、大村が神奈川大会のときにユニホームの袖に着けていたキャプテンマーク(ワッペン)だ。

 神奈川大会を終えてしばらくしたあと、「キャプテンになってもならなくても、右悟らしく頑張れ」と、大村の想いを託された。

 もう1つは、6月の後半から始めた大村との交換ノートだ。学校の定期テストが迫っていた関係もあり、チームの雰囲気がなかなか上がらず、部室も汚くなり、「日本一を目指すような生活になっていない」と、学生コーチから厳しい指摘を受けた。

 これをきっかけに、大村の発案で加藤との交換ノートが始まった。大村がチーム全体の様子、加藤が2年生の様子を記し、1日ごとにノートを交換。LINEではなく、ノートに手書き、というのがまたいい。

「結構、青春です」

 加藤はニコリとほほ笑む。

 さらに、キャプテンに就くとともに、ポジションも変わる。

 夏まではライトを守っていたが、中学時代は栃木・県央宇都宮ボーイズの正捕手として、小宅雅己(2年)とのバッテリーで全国制覇を成し遂げている。新チームから、本格的にキャッチャーに回る。

 引継ぎのミーティングでは、キャッチャーチーフを務め、攻守で日本一に大きく貢献した渡辺憩(3年)から加藤にメッセージが送られた。

「バッティングや肩はいいかもしれないけど、頭の部分がまだアレだから。でも、おれも1年前はあまり喋れなかったけど、1年かけてキャッチャーコーチ(学生コーチ)のおかげで成長することができたから、加藤も頑張って、おれを超えてくれ」

 心に刺さる言葉だった。チームの中で、“愛されキャラ”の加藤。人懐っこい笑顔で、先輩との距離をグッと縮めてきた。

「憩さんは普段、真面目なことを言わないんです(笑)。それが今日、みんなの前でめちゃくちゃ真面目な顔で、『おれを超えられるように頑張れ!』と言ってくれて、泣きそうになりました。泣いてはいないですけど(笑)」 

 キャプテンとして大村を超え、正捕手として渡辺憩を超える。偉大な先輩から、大きな刺激をもらっている。

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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