慶應の新主将・加藤右悟が大切にする2つの宝物 『KEIO日本一』に向けて新体制がスタート
交換ノートで熱い気持ちを綴り合った前主将の大村(右)と新主将の加藤(左) 【写真:大利実】
「日本一獲っちゃいましょう!」
練習前にクラブハウスで行われたのが、新幹部を決めるミーティングだった。例年どおり、2~3年生の投票によって決まる主将には甲子園で主に4番として活躍した加藤右悟(ゆうご、2年)、副将には足立然と高津優(ともに2年)が選出された。
新主将の加藤は、100名を超える部員の前で所信を述べた。
「大村さんのようにはなれないかもしれないですけど、ぼくはぼくらしく頑張るので、日本一獲っちゃいましょう!」
「大村さん」とは、深紅の大優勝旗を手にした大村昊澄(3年)のことだ。昨夏、主将に就いたときから、『KEIO日本一』を口に出し続け、「慶應が日本一になることで、旧態依然とした高校野球を変えていきたい」と取材のたびに発信していた。
森林貴彦監督は、「大村に引っ張られて、大村を中心にチームがまとまった。大村がキャプテンでなければ、日本一にはなれなかった」と言い切る。神奈川大会を制したときも、甲子園を制したときも、応援席への挨拶のあと、指揮官が最初に抱きしめたのが大村だった。
後輩の加藤にとっても、大村は憧れであり、今では目指すべき存在になっている。今年6月の取材で、先輩への想いを熱く語っていた。
「大村さんを日本一のキャプテンにしたい。本当に優しくて真面目で、それでいて言うことははっきり言う。ぼくだけでなく、ほかの人も同じことを思っていると思います。本当に尊敬しています」
同時に、こんな言葉も付け加えていた。
「大村さんと同じことはできないですけど、次のチームでキャプテンをやりたい気持ちがあります。キャプテンとして、大村さんを超えたいです」
熱い想いを綴った大村との交換ノート
前主将の大村や正捕手の渡辺憩ら、頼れる先輩とともに夏の甲子園を制した 【写真は共同】
1つは、大村が神奈川大会のときにユニホームの袖に着けていたキャプテンマーク(ワッペン)だ。
神奈川大会を終えてしばらくしたあと、「キャプテンになってもならなくても、右悟らしく頑張れ」と、大村の想いを託された。
もう1つは、6月の後半から始めた大村との交換ノートだ。学校の定期テストが迫っていた関係もあり、チームの雰囲気がなかなか上がらず、部室も汚くなり、「日本一を目指すような生活になっていない」と、学生コーチから厳しい指摘を受けた。
これをきっかけに、大村の発案で加藤との交換ノートが始まった。大村がチーム全体の様子、加藤が2年生の様子を記し、1日ごとにノートを交換。LINEではなく、ノートに手書き、というのがまたいい。
「結構、青春です」
加藤はニコリとほほ笑む。
さらに、キャプテンに就くとともに、ポジションも変わる。
夏まではライトを守っていたが、中学時代は栃木・県央宇都宮ボーイズの正捕手として、小宅雅己(2年)とのバッテリーで全国制覇を成し遂げている。新チームから、本格的にキャッチャーに回る。
引継ぎのミーティングでは、キャッチャーチーフを務め、攻守で日本一に大きく貢献した渡辺憩(3年)から加藤にメッセージが送られた。
「バッティングや肩はいいかもしれないけど、頭の部分がまだアレだから。でも、おれも1年前はあまり喋れなかったけど、1年かけてキャッチャーコーチ(学生コーチ)のおかげで成長することができたから、加藤も頑張って、おれを超えてくれ」
心に刺さる言葉だった。チームの中で、“愛されキャラ”の加藤。人懐っこい笑顔で、先輩との距離をグッと縮めてきた。
「憩さんは普段、真面目なことを言わないんです(笑)。それが今日、みんなの前でめちゃくちゃ真面目な顔で、『おれを超えられるように頑張れ!』と言ってくれて、泣きそうになりました。泣いてはいないですけど(笑)」
キャプテンとして大村を超え、正捕手として渡辺憩を超える。偉大な先輩から、大きな刺激をもらっている。