3連覇ならず、涙の準優勝に終わった横浜 チームを引っ張り続けた緒方と杉山の絆

大利実

閉会式後も涙が止まらない横浜

キャプテンとエースとしてチームを引っ張ってきた緒方(右)と杉山 【大利実】

 7月26日に閉幕した第105回全国高等学校野球選手権記念神奈川大会。史上4例目の3連覇を狙った横浜は、決勝で慶應義塾に敗れ、準優勝に終わった。8回まで5対3とリードする展開も、9回に杉山遙希が渡邉千之亮に逆転3ランを浴び、甲子園を逃した。

 9回無死一塁の場面で、4-6-3の併殺を狙ったショート緒方漣の右足が、「ベースに触れていない」と二塁塁審に判断され、オールセーフ。試合後、村田浩明監督が「ちょっと信じられない」とコメントを出すなど、物議をかもす判定となった。

 閉会式の最中も、キャプテン緒方の涙は止まらなかった。泣き続ける緒方に気付いた主砲の萩宗久が、右手でソッと背中をさすり、チームを引っ張り続けてきた緒方を支えた。

 閉会式を終えると、村田監督は三塁ベンチ前で選手を集め、ミーティングを開いた。言葉を伝えるたびに、選手の目から涙があふれてくる。その後、スタンドにいたメンバー外の選手に応援の感謝を伝えると、二塁ベース付近に向かい、集合写真の撮影が行われた。

 撮影に向かう途中、まだ涙が止まらない緒方のもとに村田監督が歩み寄り、声をかけた。試合後初めての2人だけの時間だった。

 写真撮影のタイミングで、一塁側では慶応義塾の歓喜の胴上げが始まった。優勝と準優勝。ワンプレーの名と暗。非情なコントラストだった――。

「杉山に感謝したいです」(緒方)

閉会式が始まっても悔し涙が止まらなかったキャプテンの緒方(左から2番目) 【大利実】

 試合後の取材。緒方には、9回のあのプレーに関して質問が飛んだ。

「判定は覆らないので何とも言えないですけど、悔しいです。いつもどおりの形で、自分は(ベースに)入ったんですけど、離れていると判断されてしまって……」

 右足でベースを触れたかどうかは、緒方自身が一番わかっていることだろう。

 慶応義塾の校歌を聴きながら、どんなことが頭に浮かんできたか――。

「監督を甲子園に連れて行きたかったので、それができなくて、自分の代で甲子園に行きたかったんですけど、それが叶わなくて、本当に悔しいです」

 はじめのうちは我慢していた涙が、一気にあふれ、涙声に変わった。

 集合写真に向かうときには、村田監督から「3年間ありがとう。チームを引っ張ってくれて、ありがとう」と声をかけられたという。

 中学時代はオセアン横浜ヤングで、日本一を成し遂げ、いくつもの高校から誘いを受けた。その中で横浜を選んだのは、村田監督の日本一を狙う熱い気持ちに心が動かされたからだ。さらに、走塁やカットプレーなど細かい野球を突き詰めるチームスタイルが、「体の小さい自分には合っている。自分の長所を生かすことができる」と冷静に判断して、横浜で戦うことを決めた。

 入学後は、すぐにAチームに帯同し、夏の甲子園の初戦では逆転サヨナラ3ランを放ち、脚光を浴びた。最上級生になってからの1年間は、もともと自信があった守備をさらに磨き、特に「一歩目」に力を注いできた。

 準々決勝のあとには、「これまで何試合も経験してきたので、打球の予測が立てられるようになっています」と語っていた。

 言葉通りのプレーを見せたのが、決勝の5回だ。2点ビハインド、二死一、二塁の場面で打球は三遊間へ。緒方はダイビングキャッチをしたあと、すぐに立ち上がり、二塁へストライク送球。抜ければ3点差に広がる状況で、杉山を救った。

「チャンジアップ(のサイン)だったので、三遊間に頭があって、その予測どおりに打球が来て、一歩目が切れました」

 杉山の後ろはもう何度守ってきたかわからない。杉山が苦しいときには、タイムを取り、マウンドに駆け寄った。

「杉山があっての自分たちの代。杉山が頑張っていたので自分も刺激を受けて、たくさんのことを乗り越えられることができた。杉山に感謝したいです」と、その目からまた涙が溢れた。

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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