「BVG」の予言通りに覚醒した大谷翔平 MVP予想は極めてハイリスク、ローリターン

丹羽政善

大谷は6月に大爆発を続けて月間打率.394、15本塁打、29打点の成績を残した 【Photo by Ronald Martinez/Getty Images】

突然始めた「BVG」での大胆予言から大谷が覚醒した

 ベン・バーランダーが、YouTubeなどで配信している「Flippn’ Bats」。毎週火曜日(米国時間)に公開される「週刊大谷翔平ニュース」は、筆者が字幕をつけている。5月下旬から字幕ではなく、実験的にAIに変えた。これは主にポッドキャストで聞く人のことを考えてのことだが、あくまでも暫定的措置。現在、AIを使うにしても、別の形を模索している。
 ここからが本題だが、字幕をつけるため、5月28日に送られてきたファイルの中にそれはあった。番組の終盤、バーランダーがなんの前触れもなくこう言っている。

「ここでBVGをします」

 番組のパートナーで、かつてエンゼルスでフィールドリポーターを務めていたアレックス・カリーが聞く。

「BVGってなんですか?」

 それに対してバーランダーが「よく聞いてくれました」とばかりに、ニヤリとして叫んだ。

「ベン・バーランダー、ギャランティ(Ben Verlander Guarantee)です!」

 意訳すれば、バーランダー予想ということになるが、そのとき「このところ打席では苦しんでいる翔平だが、今週必ず、1本、いや、2本はホームランを打つ。そして来週のこの時間で、本塁打の話をすることになる」と大胆に予言した。

 すると実際、大谷は番組が配信された30日に本塁打を放ち、31日には2本塁打を放った。その後、6月だけで15本塁打を記録したが、小さな世界の話をすれば、あの予言以来、大谷は覚醒したのである。

 そのまま、文句なしで月間MVPも獲得したが、「月間の成績としてみた場合、過去最高の成績だった」とバーランダーは興奮気味に語る。

「(オフェンスの数字に)投手成績も加わると、他に比べられる選手は皆無だ」

 例えば、ルー・ゲーリックは1930年6月に打率.496、10本塁打、41打点、37得点、OPS1.501をマークしたが、対して大谷は打率.394、15本塁打、29打点、27得点、OPS1.444。打者としての数字は甲乙つけ難いが、大谷は投手として5試合に先発し、2勝2敗ながら、防御率は3.26。中盤以降、内容も良くなった。バーランダーがいうように投手としてのパフォーマンスも加えたら、ゲーリックでも及ばないのである。

 そもそも、4、5月はなぜ苦しんでいたかだが、彼は「6月から7月にかけて捉えていた球を、4月は打ち損じていた」と分析した。「紙一重だけど」。

 打撃では構えを重視する大谷。そこがしっくりせず、わずかなズレを招いていたか。

影響したピッチクロックへの適応

 一方、投手としての前半はどうだったのか。現在は、右中指の爪が割れた影響に苦しんでいるが、「序盤はピッチクロックなど、新ルールの適応が遅れたのでは」とバーランダーは指摘する。

「翔平はどちらかといえば、投球間に時間をかけるタイプ。ピッチクロックが導入され、それに適応を求められたが、決して簡単ではない。翔平だけじゃなくて、他にも苦しんでいる投手がいた。自分の兄ジャスティンも、見ていてピッチクロックに苦労しているなと感じた」

 多くの投手は、オープン戦を通して慣れていったが、大谷はピッチクロックの適用が見送られたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)に出場していたため、その時間がなかった。

「ただ、気にならなくなって、もう無意識に投げられるレベルでは」とバーランダー。6月中旬には影響を感じなくなったそうだが、その後、すでに触れたように右中指の爪が割れた。それは誤算だった。

 ちなみに序盤、大谷はビッグイニングを作ってしまうことが多かったが、「それもピッチクロックの影響では」と推測した。

「走者を背負うと、考えることが増えるのに、それでも早く投げなければならない。となると、以前よりも疲れを感じるだろう。20秒間隔で投げるのと、40〜45秒間隔で投げるのとでは、ぜんぜん違う。ピンチのときに急いで投げると体力を消耗し、疲れが増す。それを回復させる時間もなく、悪循環となる」

 もはやピッチクロックへの適応は終えているが、今後は、爪の回復が復調のバロメーターとなるのではないか。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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