いい意味で期待を裏切り、番狂わせを起こしたい! 4度目のW杯を前になでしこ熊谷紗希が激白

栗原正夫

32歳となった熊谷、なでしこジャパンの主将として自身4度目のW杯に向かう 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「正直、ヨーロッパでは日本が強いというイメージはもうないと思います。でも、それは自分たちが結果を出してこれなかったのだから仕方がない。

 5月まで私がプレーしていたドイツではプロモーションもかなり行われていたし、サッカー女子W杯があることを知らない人ってほとんどいないほど世の中に浸透していました。ただ、日本ではおそらく一般の方にはほぼ知られていないですよね。なぜ日本でサッカー女子W杯のことが知られていないかは、おそらくなでしこジャパンが結果を出せずに、期待値が下がってしまったからじゃないですか。そのイメージを変えるためにも今回はなんとか結果を出したいと思っています」

 7月20日にオーストラリア&ニュージーランドで開幕したサッカー女子W杯2023に向け、そう素直な心境を明かすのはなでしこジャパンの主将・熊谷紗希(32歳)である。

 高校2年だった08年3月になでしこジャパンにデビューした熊谷は、20歳のときに11年W杯ドイツ大会にレギュラーとして出場し、初優勝に貢献。以来、不動のセンターバックとして長年チームを支えてきた。

 11年W杯ドイツ大会優勝、12年ロンドン五輪銀メダル、15年W杯カナダ大会準優勝。現チームでは、当時の栄光を知る唯一の選手である。一方、16年にはリオ五輪予選敗退を経験し、19年W杯フランス大会(ベスト16)、21年に延期された東京五輪(ベスト8)ではいずれも1次リーグこそ突破したものの、トーナメントでは早々に敗退する屈辱を味わってきた。いわばなでしこジャパンの酸いも甘いも知っているのが、熊谷だ。

楽しみだが、過去との比較は意味がない

2011年のW杯ドイツ大会に20歳で出場した熊谷(左)は、澤穂希(中央)らとともに歓喜を味わった 【Photo by Sampics/Corbis via Getty Images】

 熊谷にとってオーストラリア&ニュージーランド大会は、4度目のW杯となる。

「回を重ねるごとに立場は変わってきましたが、W杯は何度出ても夢の舞台ですし、大会に向けては楽しみしかない。もちろん、キャプテンですし、大会の結果が日本の女子サッカーの未来に関わっていることは理解しています。ただ、そのことでプレッシャーは感じていません」

 11年のW杯直後にドイツのフランクフルトに移籍した熊谷は、その後フランスのリヨン、ドイツのバイエルンと欧州女子サッカーの強豪クラブを渡り歩いてきた。13年から8シーズンプレーしたリヨンではUEFA女子チャンピオンズリーグ(以下女子CL)5連覇を経験するなど近年の女子サッカーの急成長を目の当たりにしてきただけに、大会で勝つ難しさを最も理解していると言ってもいい。

「11年の優勝と15年の準優勝がなでしこジャパンの期待値のハードルを上げている? 私自身、当時のチームにいたことは誇りでしかないです。ただ、当時といまではW杯を取り巻く環境や世界の勢力図はまったく違いますからね。選手として出場する以上、優勝を目指さない人はいないと思いますが、当時との比較は意味ないと思います」

 優勝したドイツ大会の主将・澤穂希、準優勝したカナダ大会の主将・宮間あやらに対しては、主将の先輩としてリスペクトしかない。だが、真似はできないし、自分なりのやり方でチームを引っ張りたいとした。

「メンバー23人にはそれぞれの思いがあって、1つにまとめるのは簡単じゃない。ただ、自分に澤さんやあやさんと同じことができるかといったら難しいし、そこは自分なりのやり方で、とにかくチームの矢印だけは同じ方向に持っていけたらと思っています」

女子CLは女子サッカー発展の象徴

女子CL準決勝、エミレーツ・スタジアムには6万人を超える観衆が詰めかけた 【写真:ロイター/アフロ】

 ヨーロッパでの女子サッカーの急速な進化を象徴する1つの数字が女子CLでの観客数である。

 2022-23シーズンの女子CL準決勝、カンプ・ノウで行われたバルセロナ対チェルシー戦は72262人、エミレーツ・スタジアムで行われたアーセナル対ヴォルフスブルク戦は60063人の観衆が記録された。10年ほど前まで、チャンピオンズリーグの決勝トーナメントとはいえ、女子の場合は街はずれの小さなスタジアムで、数百から一千人ほどの観衆しか集まらないなかで行われていた。それが、いまや男子と同じ専用スタジアムでフルの観衆のなか行われるまでに成長し、それに比例するように競技力も向上してきた。

 その変化を熊谷はどう感じているのか。

「かつては女子CLでも、力を入れているのはフランスのリヨンやドイツのヴォルフスブルクなど数えるほどのチームしかなかった。でも、最近は欧州のビッグクラブが軒並み女子チームを持つようになり、そこに多くのお金が投資されるようになりました。その結果、ベスト8以降はどこが勝ってもおかしくない拮抗(きっこう)した試合が増え、大会の格式も上がった。それが選手のレベルアップにもつながっていると思います」

 4年前の19年W杯フランス大会では、ベスト8に進出したチームのうち、優勝したアメリカを除く7チームが欧州勢だった。この傾向は今後益々強まっていく可能性がある。

 日本にも21年にプロリーグ(WEリーグ)は誕生したが、もはや男子サッカー同様、日ごろからスピード、パワー、テクニックが高いリーグでもまれていなければ、W杯や五輪のような国際大会でかつてのなでしこジャパンのように結果を出すことは難しい時代になってきたといえるかもしれない。

「ヨーロッパでその現実を見てきたからこそ、私は成長するためには海外に出るべきだと言い続けてきました。もちろん、様々な事情もあって移籍が簡単ではないことはわかっています。ただ、現時点でも遅れを取っているのは否めないし、いまからでも(レベルアップのためには)どんどん出ていくべきだと思っています」

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著者プロフィール

1974年生まれ。大学卒業後、映像、ITメディアでスポーツにかかわり、フリーランスに。サッカーほか、国内外問わずスポーツ関連のインタビューやレポート記事を週刊誌、スポーツ誌、WEBなどに寄稿。サッカーW杯は98年から、欧州選手権は2000年から、夏季五輪は04年から、すべて現地観戦、取材。これまでに約60カ国を取材で訪問している

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