J1王者・横浜FMをハイプレスで4-1と圧倒 J2町田が天皇杯で見せた衝撃の戦い

大島和人

開始5分の先制点はハイプレスからのカウンターだった 【写真は共同】

 天皇杯はよく番狂わせの起こる大会だ。多くのチームはコンディションを考慮してリーグ戦とメンバーを入れ替えて臨むため、連携のズレが生まれやすい。チャレンジャー精神で挑んでくる下のカテゴリーのクラブを、J1側はメンタル的に『受けて』しまうことが多い。そんな理由がジャイアントキリングの背景だろう。

 とはいえ7月12日の天皇杯3回戦「横浜F・マリノス vs. FC町田ゼルビア」はあまりに衝撃的だった。横浜FMは昨季のJ1王者で、今季も首位に立っている。メンバーを入れ替えてこの試合に臨んでいたが、それは町田も同様だった。

 町田はハイプレスが奏功し、カウンターからチャンスを量産。シュートの本数は「17対4」と圧倒し、前後半に2得点ずつを挙げて4-1の完勝を果たした。

※リンク先は外部サイトの場合があります

ハイプレスで流れをつかむ

 黒田剛監督は言う。

「J1王者の横浜F・マリノス(が相手)ということで、胸を借りるつもりで、チャレンジャー精神で、彼らに奮起させてやりました。決して引くことなく(相手の)ゴールキックから徹底してハメていく狙いでした。多少気温が上がったもので、どこまで行けるか心配だったんですけど、最後までやり切ってくれました」

 町田は[4-4-2]が基本で、今季は3バックからスタートしたのが1試合だけ。しかしこの3回戦は[3-4-2-1]の布陣で、立ち上がりからハイプレスを掛けた。直近のJ1で横浜FMに同じ形で対峙(たいじ)した名古屋グランパスの映像を見て『予習』したのだという。

 町田は1トップ2シャドーが相手のGKとCBに程よい距離感で迫りつつ、「ここ」という場面はグループで思い切りよく踏み込んだ。ボランチやウイングバック(WB)、センターバック(CB)も含めて、1対1の関係で正面から踏み込む『マンマークプレス』をかけていた。分かりやすく言うとワールドカップカタール大会のドイツ戦、スペイン戦で、日本代表が試合の後半に成功させた戦術だ。

 5分の先制点は、ボランチの宇野禅斗が相手のボールを引っ掛けた流れから生まれた。高い位置でブロックしたボールがエリア内につながり、デュークが決める形だった。

暑熱下でもコンパクトな陣形を維持

 ただしマンマークプレスはカバーリングが薄くなる。またこの試合は18時半キックオフにかかわらず、開始時の気温が31.4度と選手が消耗しやすいコンディションだった。選手の足が止まり「間延び」した前からプレスをかけるのは戦術的に禁物だ。さらに普段の町田は早めに先制するとミドルプレスに切り替える慎重なゲームプランが多い。

 しかしこの試合に限っては、先制後も立ち上がりとほぼ同じバランスでプレスをかけ続けた。黒田監督はこう振り返る。

「(横浜FMが)長いボールを入れてくる、中盤にしっかり配球をしてくるなら、(別のプランを)考えようと思っていましたけれど、ずっと同じ形でした。わりとプラン通りにハメる形ができました」

 ゲームキャプテンを任されたCBの深津康太は述べる。

「マリノスさんは本当に強くて、こちらが引くとどんどん自由にやられてしまいます。勇気を持って前からガンガン行くのが僕たちの戦略でした。コンパクトにしないとああならないし、1人でもサボると穴ができてしまう。みんなが本当に努力してサボらずやったから、こういう結果になった」

1/2ページ

著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント