J2首位の町田が「苦手」を克服して2点差から逆転勝利 黒田剛監督が成功させた新しい攻撃戦術とは?

大島和人

J2首位の町田は大宮に3-2で逆転勝利 【(C)J.LEAGUE】

 J2の前半戦を首位で折り返したFC町田ゼルビアにも課題、悩みがあった。黒田剛・新監督が率いるチームは、堅固な守備をベースに「1-0狙い」で試合を運ぶスタイル。攻撃はカウンター、セットプレーから効率よくゴールを陥れてきた。しかしシーズンが経過すれば、相手は首位チームをマークし、その強みをどう消すかと工夫してくる。

 今季の町田は上位チーム、特に『上手いチーム』から、高確率で勝ち点3を奪ってきた。ボールを握り、人をかけて攻めてくる相手に対して、町田のプレスとカウンターは相性がいい。一方で中位より下のチームとはあまり分が良くない。例えば第21節・栃木SC戦、第22節・水戸ホーリーホック戦はいずれも1-1の引き分け。「ボールを持たされる」「相手が前に踏み込んでこない」展開が課題として浮上していた。

ボール保持型の戦いで逆転勝利

 町田が7月1日のJ2第23節でホームに迎えた対戦相手は、最下位の大宮アルディージャ。5連敗中で、直近のいわきFC戦は1-5と大敗している相手だ。データだけを見れば与し易い相手だが、割り切って『守備モード』に切り替えた大宮は町田にとって難敵だった。

 実際に7分、36分と大宮に2点を先制され、なおかつボールを持たされる展開を強いられた。しかしそこから3得点を奪い、3-2の逆転勝利を飾った。町田が大きな収穫を得た勝ち点3だった。

 試合後の黒田監督はこう述べている。

「大宮も本当はつなぐのが得意な、好きなチームだと思います。だけどそれをやめてまで前方に早く配球してカウンターを狙う、町田にボールを持たせる状況を意図的に作ってきました。ただ引かれたとき、どうサイドを攻略するかというトレーニングは1週間かけてやってきたので、そこが今日は出せました」

後半の布陣変更が奏功

黒田剛監督は青森山田高の監督から転じて1年目から成果を見せている 【(C)J.LEAGUE】

 町田は普段通り[4-4-2]の布陣で試合に入った。右サイドバック(SB)の奥山政幸が警告の累積で出場停止となったため、代役にボランチが本職の稲葉修土を起用していた。その位置が機能せず、守護神GKポープ・ウィリアムの珍しいミスも出て、1-2で前半を終える。

 黒田監督は後半開始とともに選手を2枚入れ替え、布陣も3バックに変更した。布陣変更と右サイドの選手交代について、指揮官はこう説明する。

「稲葉は張り上がる、持ち出すことを今までやっていないので、なかなか慣れていない状況でした。ハーフタイムで一気にやった方が向こうは混乱するだろうという狙いもありました。前半も攻撃のときは(最終ラインが)3枚で行くような形になっていたし、両SBが張り上がるケース、センターバック(CB)が2枚で回すケースもありましたけど、その位置はかなり深くて、無駄に人を経由した印象でした。これは分かりやすく3枚にした方がいいというところから、荒木(駿太)と安井(拓也)を入れました」

 大宮は[5-4-1]の布陣で、前線が薄かった。1トップに対して3バックで対応すれば、CBは2人余る。町田は右肩上がり気味の陣形で、右CBが攻撃時に『浮く』形を意図的に作った。川崎フロンターレから期限付き移籍で加入したばかりの松井蓮之(れんじ)が、戦術的なキーマンになった。

右サイドの「トライアングル」が機能

 松井はボランチが本職だが、ユーティリティー性が高い。攻撃面では起点として味方を使う以上に使われるプレーを強みにしている。前半はボランチでプレーしていたが、後半は右CBに移った。彼は攻撃の『ジョーカー』として右ウイングの平河悠、ボランチの安井拓也と絡む。相手の足が止まった部分もあるだろうが、時間が経過するにつれて、このトライアングルが機能し出した。

 町田は79分にエリキ、86分に藤尾翔太がゴールを決めて、最終的に3-2で勝利している。得点に直接絡んだわけではないが、攻勢を下支えたのが右サイドだった。松井は振り返る。

「(高い位置に)張って僕がボールを受けたところで、安井拓也くんとか(平河)悠とつながって、うまくローリングしながらボールを運ぶことを意識しました。あとCBの(チャン)ミンギュにボールをうまく運ばせながら、僕も高い位置を取りながらプレーすることも意識しました。後半はうまくボール運びながら、右サイドからいい形ができたと思います」

 平河は運動量が多く、突破力の高いサイドプレーヤーだ。大宮はウイングバックに加えて、2列目の選手も戻って平河に対応していた。しかし相手の守備が外に張り出せば、今度は内側のスペースが空く。

 平河はこう説明する。

「(松井)蓮之くんと初めてやりましたけど、結構やりやすかったです。自分は(外に)張るのが好きで、蓮之くんは内側を取るのが好きというのも上手くハマりました。その中で(安井)拓也くんと関わりながら、相手の嫌なことができたと思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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