「夢のアリーナ」で売上が大幅アップ 琉球ゴールデンキングスが目論む未来像

永塚和志

沖縄アリーナは非日常空間を提供するまさに「夢のアリーナ」 【B.LEAGUE】

 2016年の開幕以来、年々、成長を遂げるBリーグではリーグ規模の拡大を狙う将来構想の一貫として2026-27年シーズンからより事業規模の大きなクラブをトップリーグに据える形の再編を施し、そこに紐づいて全国各地に新たなアリーナが建設される。そして、その新リーグ構想よりも先に誕生したのが、沖縄アリーナだ。

 琉球は2021年春に竣工した同アリーナの恩恵を如実に受けており、2021-22シーズンの売上は前年の13億円から19億円へと1.5倍の成長を遂げた。とりわけチケット収入は3億円から7.8億円へと大幅にアップしており、スポンサー収入(6億円→6.5億円)を超えるという驚きの結果となった。

 来場者に非日常空間を提供する「夢のアリーナ」の力を示す琉球。昨年、球団を立ち上げた前任の木村達郎氏からバトンを受け継ぎ、同チームの運営会社・沖縄バスケットボール株式会社の代表取締役社長および沖縄アリーナ株式会社の代表取締役会長となった白木享氏に、沖縄アリーナ活用の成功の秘密と未来について話を聞いた。

「チケット集客がすべて」を一丁目一番地に

2022-23のキングスの売上はほぼ30億円に達する見込みだと話す白木氏 【写真:永塚和志】

――2022-23シーズンのBリーグ初優勝、おめでとうございます。白木さんが社長をされているプロトソリューションさんが2022-23シーズンから琉球の球団経営に入られて、いきなりの優勝となりました。

 ありがとうございます。元々、キングスっていうチームや沖縄バスケットボールという会社の文化が脈々と続いてきた中で、優勝へ近づく瞬間にたまたま僕が社長になったというだけで、僕の力で優勝したなどということは「1000%」ありません。

――琉球の本拠地・沖縄アリーナが高い注目を集めています。2021-22年のチケット収入が前年から倍以上となって、しかもその額がスポンサー収入を上回ったというのは驚きです。要因はどのようなところにあったのでしょうか?

 前任の木村さんはカリスマ社長でしたが、彼がずっと言い続けていたのは「集客がすべて」で、それが会社の文化の一丁目一番地だということ。僕が社長になったときにはあまり営業チームの人数が多くなかったというところもあって、スポンサー営業よりもとにかく集客、チケット販売、そこにエネルギーを注いでいったというところですね。

――スポーツは勝負ごとで勝ち負けはコントロールができず、集客もそこに影響を受ける可能性もあり、安定経営という点では難しいところがあるのではないかとも思うのですが、どのように思われますか?

 木村さんと常に話してきたのは、チームが勝っても負けても絶対にお客さまを入れるということ。おっしゃるとおり勝負は水ものだと彼も言っていました。僕もそこは意識しつつ常に毎試合、アリーナのキャパシティーに近い8000人入れるつもりでやろうぜということをみんなに伝えながらやってきましたし、キングスの試合以外のサービス、例えば冠試合だとか試合毎のイベントといったようなことを毎試合用意しながら楽しんでいただくというふうに務めてきました。

――例えチームが勝てなくともダメージを受けない経営というところでしょうか。

 そうですね。キングスの安永淳一ゼネラルマネージャーとは常に話をしていて、トップチームにはトップチームの悩みがあるようです。でもそこはとにかく信頼をしていますということをいつも伝えているので、僕は「優勝してくれ」だとか「これをやってくれ」といったことは一切、現場のことには口を挟まないよう徹底していますし、これからもずっとそうするべきだと思っています。

――Bリーグ各クラブの決算内容は秋頃に公表されるかと思いますが、2022-23シーズンの売上はどれほどになると予測されていますか?

 少し調整があるかもしれませんが、だいたい30億円弱くらいまでは行くかと思います。30億というラインは、僕が社長になったときに目指していたもので、これがほぼ達成されてしまった。スポンサー収益から15億、興行的なところで15億というイメージだったのですが、本来はその目標を3年くらいかけてやっていこうと思っていたんです。

 ただ、予想していた以上のスピードでそのラインにもう到達してしまったとなると、次は50億というところを目指していきます。

デジタルのノウハウを生かしてリピーターを増やす

白木氏は来場者の傾向を分析しリピーターとなってもらうための工夫をしていきたいと語る 【写真は共同】

――安定経営のためには試合に何度も来場してもらえる、いわゆる「リピーター」を増やすことが肝要かとも思います。今後の予定や展望などを教えてください。

 もともとキングスのお客さまにはシーズンチケットを持っていただいている方々がたくさんいらっしゃっていて、2023-24シーズンは、アリーナの2000席くらいはシーズンチケットを持っていらっしゃるお客さまが来場されるということになります。その他にファンクラブに入っていただいているお客さま、まだアリーナに来たことのないような層の方々といった具合に、3階層から4階層くらいの層がいると集計から見ています。

 それを元に、例えば1回だけ来たことのある方には2回、3回と来ていただき、ファンクラブに入っていてすでに3回来たことのある方ならばさらにもう2回来てもらえるように、ホスピタリティやいろんなことを工夫しながらやっていきたいと思います。

 沖縄アリーナの試合に訪れていただければ、ディズニーランドに来たような、異次元に入ったかのような感覚になれるので、そこをより一層強くしていきたいなとも思っていますし、「もう1度来たい」とどれだけ思ってもらえるかが勝負なので、そこは本当、工夫していくつもりです。

 リピーターを増やすためにデータ分析のようなこともしていて、Bリーグのチケット販売はもう紙ではなくデジタルなので、例えばこの方は5回来ていただいているなとかがわかります。ですから、属性などを見ながら「こちらのほうがお安いですよ、こちらのほうがお得ですよ」といった具合に、直接的にプロポーザルのメッセージをお客さまに送ることができます。

 うちにはシーズンチケットの販売を主とするチームがいて、彼らがそういった方々に対して、いかにアリーナでの時間を楽しんでいただけるような環境作りができるかということを工夫しています。

――そうしたデジタルによる来場者の属性分析は、白木さんが社長をされているデジタルマーケティング事業等を行っているプロトソリューションのノウハウが生かされているところもあるのでしょうか?

 そうですね。データ分析をするアナリストチームがあって「この人はこうですよね」とデータの分析を常にしているというところですね。

 さきほど申し上げたシーズンチケットを売るチームもプロトソリューションのメンバーで、キングスから、アウトソーシングではないですけど、彼らや分析チームも一緒になってやるという形でジョインしているという感じです。

――Bリーグは総じて女性のファンが多く、琉球も約6割が女性だとお聞きしました。リピーターを増やしたりシーズンチケットを購入してもらう、ファンクラブに入ってもらうというところに影響はありますか?

 やっぱり継続性みたいなところは女性のほうが長いのかなとは思いますし、分析すると(ご家庭を持たれている方で)財布を握っていらっしゃるのは女性が多いのかなと思います。あとは、見るスポーツとしてバスケットボールが合っているというか、女性も楽しめるのでしょう。僕らはよく「沼」という言葉を使いますが、沼にはまっちゃう感じですよね。

 僕なんかもそうですけど、男性は野球もサッカーもあって、なんでも見ますよね。大谷翔平選手(MLBロサンゼルス・エンジェルス)もNBAも見ちゃう。ですが女性はぐっと(一つのことに)入っちゃう。4回くらい来場をしてそこからはまっちゃう女性のお客さまが多いという感覚です。

――「集客がすべて」というお話もありましたが、今後、どういったところに力を入れていきたいと考えていらっしゃいますか?

 僕らが挑戦したいのは海外や在日米軍の方々ですね。女性のお客さまもそうですが、そこには可能性があると思っています。実はBリーグのチケットシステムが、(米軍の人たちが使う)アメリカのモバイル会社のものだとうまく使えなかったりするんですよ。なので、米軍向けのチケットについては専門の担当者が米軍基地へチケットを売りに行っています。ただそこはデジタルじゃないので、今後はやはりそういった海外の方々でもデジタルチケットを買ったり使ったりできるようにしていくのは一つの課題で、そこが解決されればもっともっと来ていただけると思います。

――3月の東アジアスーパーリーグ(EASL)のファイナルラウンドも沖縄アリーナが会場となり、海外から多くのファンがかけつけたと聞きますが、シーズン中も海外の方が沖縄アリーナに来たい、しかしチケットの買い方がわからないということでチームに電話をかけてきたなどとも聞きました。

 今、そういう問い合わせがすごくありますね。先ほど海外のチームと試合をしていくという話をしましたが、そのときにどうやってチケットを買っていただくかというシステムのところは考えていかないといけないです。こういった海外向けのプロモーションは、やればやっただけお客様に来ていただけると思っています。

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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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